おれは忍者の子孫

メバ

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一息ついて

第273話:良かった良かった

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「コモドドラゴンとな」
『喫茶 中央公園』の1席でガクからの報告を受けたオウは、顎に蓄えた髭を撫でながら、呟いた。

「はい。本人曰く、かなり長い年月を生きたとのことですが、真偽の程までは・・・」
ガクは、申し訳無さそうにオウへと困り顔で答えた。

「構わんさ。敵意があった訳ではないのだろう?であれば、放っておいて構わん」
「私がお願いした事とはいえ、良いのですか?はぐれ具現獣をそのままにしておいても」

「問題はない。その者は、長い間その森に住んでいるのであろう?であれば、今さら何か悪さをするようなこともないさ」
「協会に勤める人の言うこととは思えませんね」

「気にするな。どうせ儂は、お偉方に嫌われておる身だからな。これ以上嫌われることもない」
「あなたがそんなことでどうするのですか。あなたこそを協会長にと思う者は、多いのですよ?」

「そうは言ってもな。六兵衛殿は平八様の推薦で今の座についておるのだ。これ以上の適任はおらんということさ」
「まぁ、最近は六兵衛殿も平八様に対する想い敬意を隠さなくなりましたし、我々としてもやりやすくはなっていますが・・・」

「そうであろう?平八様の影響力は、お亡くなりになってなお健在だ。平八様の信じた道を、我々はただすすむだけじゃよ。むしろ、少し前まで平八様のことを毛嫌いしていたお主が、何食わぬ顔で自身を『平八派』のように言うておる方が儂としては気待ち悪いのだが?」

「そ、それは言わないでください。長い反抗期だっただけです」
ガクは、顔を赤らめてオウへと返した。

「いや、オッサンの赤ら顔とか見せられても、儂困るんだが?まぁそれはよい。とりあえず、今回の依頼の詳細は儂の所で止めておこう。細かい話は、適当に報告しておくことにする」
「オウ殿がそうおっしゃるのならば安心です。あの具現獣のことはオウ殿までで止めておいていただければ、こちらとしてはそれで文句はありません。彼との約束でもありますからね」

ガクの言葉に頷いたオウは、それまでの表情をさらに固くしてガクを見た。

「それよりも、あっちの件はどうなった?」
「あっち?あぁ、お弟子さんのことですね。無事、具現獣を手に入れることが出来ましたよ。まぁ、まだ卵ですけどね」

「先程の報告にあった卵だな」
オウはそう呟いてそのまま黙り込む。

ガクがしばしその沈黙に耐え、オウの顔をじっと見つめていると、

「いやぁ~、良かった良かった!」
オウの顔が突然気持ち悪い程にニマァっとした笑顔へと変わった。

「これで、師としての面目が保たれたわ!もしも今回の依頼が具現獣と関係無かったら、ソウから絶対怒られそうだったからな」
「・・・・それが本音ですか」
ガクは、呆れたようにオウを見ていた。

「弟子が可愛いのは分かりますが、こういうことはこれっきりにしてくださいよ。いくら彼らに力があるとはいえ、彼らはまだ中学生なんですよ?
今回はたまたま安全でしたが、次に同じようなことがあっても、また守れるとも限らないんですからね!」
ガクは、ニマニマするオウへと若干の苛つきを憶えながら言った。

「わ、わかっておる。ノリにも、散々文句を言われたからな」
オウは、青筋を浮かべるガクに苦笑いを返した。

「ノリさんが?」
「あぁ。『人の弟子を奪ったうえに依頼まで回すなんて!少しはこっちの立場も考えろよっ!』と言われたわ。久々に、ノリからタメ口で怒鳴られた・・・」

「最近のノリさん、昔のノリさんに戻ってきてますからね。まぁ、ノリさんに怒られたのなら、私はこのくらいで抑えておきますか。では、私は仕事に戻ります」
「もう帰るのか?1杯くらい付き合わんか?コーヒーだがな」

「こっちはなかなか取れない休みを2日も取ったんですよ?まだ私に文句を言わせたいですか?」
「あ、いや、すまん。お仕事、頑張って下さい」

「まったく・・・」
ガクはため息をついて、『中央公園』をあとにした。


「しかし、木の力を持つ龍の伝説とは・・・」
ガクと別れたオウは、店を明美姉さんへと任せ、『中央公園』の別室から協会の自室へと戻り、呟いた。

オウの手には、1冊の薄い本が握られていた。

それは、書籍化されることの無い、もう1つの平八による作品であった。

オウはその本を開き、『青龍』と書かれた箇所をなぞった。

「これが、事実だというのか。だとしたら、平八様はそれを一体どこで。やはり平八様は、始祖の契約書を・・・」
オウはそう呟くと、自室の椅子へと座り、ただ呆然と一点を見つめていた。

「・・・・・・・・・」

オウは、しばし考えごとをして、その本を引き出しの中へと戻した。

『始祖の物語』と書かれた、その本を。
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