310 / 519
一息ついて
第273話:良かった良かった
しおりを挟む
「コモドドラゴンとな」
『喫茶 中央公園』の1席でガクからの報告を受けたオウは、顎に蓄えた髭を撫でながら、呟いた。
「はい。本人曰く、かなり長い年月を生きたとのことですが、真偽の程までは・・・」
ガクは、申し訳無さそうにオウへと困り顔で答えた。
「構わんさ。敵意があった訳ではないのだろう?であれば、放っておいて構わん」
「私がお願いした事とはいえ、良いのですか?はぐれ具現獣をそのままにしておいても」
「問題はない。その者は、長い間その森に住んでいるのであろう?であれば、今さら何か悪さをするようなこともないさ」
「協会に勤める人の言うこととは思えませんね」
「気にするな。どうせ儂は、お偉方に嫌われておる身だからな。これ以上嫌われることもない」
「あなたがそんなことでどうするのですか。あなたこそを協会長にと思う者は、多いのですよ?」
「そうは言ってもな。六兵衛殿は平八様の推薦で今の座についておるのだ。これ以上の適任はおらんということさ」
「まぁ、最近は六兵衛殿も平八様に対する想いを隠さなくなりましたし、我々としてもやりやすくはなっていますが・・・」
「そうであろう?平八様の影響力は、お亡くなりになってなお健在だ。平八様の信じた道を、我々はただすすむだけじゃよ。むしろ、少し前まで平八様のことを毛嫌いしていたお主が、何食わぬ顔で自身を『平八派』のように言うておる方が儂としては気待ち悪いのだが?」
「そ、それは言わないでください。長い反抗期だっただけです」
ガクは、顔を赤らめてオウへと返した。
「いや、オッサンの赤ら顔とか見せられても、儂困るんだが?まぁそれはよい。とりあえず、今回の依頼の詳細は儂の所で止めておこう。細かい話は、適当に報告しておくことにする」
「オウ殿がそうおっしゃるのならば安心です。あの具現獣のことはオウ殿までで止めておいていただければ、こちらとしてはそれで文句はありません。彼との約束でもありますからね」
ガクの言葉に頷いたオウは、それまでの表情をさらに固くしてガクを見た。
「それよりも、あっちの件はどうなった?」
「あっち?あぁ、お弟子さんのことですね。無事、具現獣を手に入れることが出来ましたよ。まぁ、まだ卵ですけどね」
「先程の報告にあった卵だな」
オウはそう呟いてそのまま黙り込む。
ガクがしばしその沈黙に耐え、オウの顔をじっと見つめていると、
「いやぁ~、良かった良かった!」
オウの顔が突然気持ち悪い程にニマァっとした笑顔へと変わった。
「これで、師としての面目が保たれたわ!もしも今回の依頼が具現獣と関係無かったら、ソウから絶対怒られそうだったからな」
「・・・・それが本音ですか」
ガクは、呆れたようにオウを見ていた。
「弟子が可愛いのは分かりますが、こういうことはこれっきりにしてくださいよ。いくら彼らに力があるとはいえ、彼らはまだ中学生なんですよ?
今回はたまたま安全でしたが、次に同じようなことがあっても、また守れるとも限らないんですからね!」
ガクは、ニマニマするオウへと若干の苛つきを憶えながら言った。
「わ、わかっておる。ノリにも、散々文句を言われたからな」
オウは、青筋を浮かべるガクに苦笑いを返した。
「ノリさんが?」
「あぁ。『人の弟子を奪ったうえに依頼まで回すなんて!少しはこっちの立場も考えろよっ!』と言われたわ。久々に、ノリからタメ口で怒鳴られた・・・」
「最近のノリさん、昔のノリさんに戻ってきてますからね。まぁ、ノリさんに怒られたのなら、私はこのくらいで抑えておきますか。では、私は仕事に戻ります」
「もう帰るのか?1杯くらい付き合わんか?コーヒーだがな」
「こっちはなかなか取れない休みを2日も取ったんですよ?まだ私に文句を言わせたいですか?」
「あ、いや、すまん。お仕事、頑張って下さい」
「まったく・・・」
ガクはため息をついて、『中央公園』をあとにした。
「しかし、木の力を持つ龍の伝説とは・・・」
ガクと別れたオウは、店を明美姉さんへと任せ、『中央公園』の別室から協会の自室へと戻り、呟いた。
オウの手には、1冊の薄い本が握られていた。
それは、書籍化されることの無い、もう1つの平八による作品であった。
オウはその本を開き、『青龍』と書かれた箇所をなぞった。
「これが、事実だというのか。だとしたら、平八様はそれを一体どこで。やはり平八様は、始祖の契約書を・・・」
オウはそう呟くと、自室の椅子へと座り、ただ呆然と一点を見つめていた。
「・・・・・・・・・」
オウは、しばし考えごとをして、その本を引き出しの中へと戻した。
『始祖の物語』と書かれた、その本を。
『喫茶 中央公園』の1席でガクからの報告を受けたオウは、顎に蓄えた髭を撫でながら、呟いた。
「はい。本人曰く、かなり長い年月を生きたとのことですが、真偽の程までは・・・」
ガクは、申し訳無さそうにオウへと困り顔で答えた。
「構わんさ。敵意があった訳ではないのだろう?であれば、放っておいて構わん」
「私がお願いした事とはいえ、良いのですか?はぐれ具現獣をそのままにしておいても」
「問題はない。その者は、長い間その森に住んでいるのであろう?であれば、今さら何か悪さをするようなこともないさ」
「協会に勤める人の言うこととは思えませんね」
「気にするな。どうせ儂は、お偉方に嫌われておる身だからな。これ以上嫌われることもない」
「あなたがそんなことでどうするのですか。あなたこそを協会長にと思う者は、多いのですよ?」
「そうは言ってもな。六兵衛殿は平八様の推薦で今の座についておるのだ。これ以上の適任はおらんということさ」
「まぁ、最近は六兵衛殿も平八様に対する想いを隠さなくなりましたし、我々としてもやりやすくはなっていますが・・・」
「そうであろう?平八様の影響力は、お亡くなりになってなお健在だ。平八様の信じた道を、我々はただすすむだけじゃよ。むしろ、少し前まで平八様のことを毛嫌いしていたお主が、何食わぬ顔で自身を『平八派』のように言うておる方が儂としては気待ち悪いのだが?」
「そ、それは言わないでください。長い反抗期だっただけです」
ガクは、顔を赤らめてオウへと返した。
「いや、オッサンの赤ら顔とか見せられても、儂困るんだが?まぁそれはよい。とりあえず、今回の依頼の詳細は儂の所で止めておこう。細かい話は、適当に報告しておくことにする」
「オウ殿がそうおっしゃるのならば安心です。あの具現獣のことはオウ殿までで止めておいていただければ、こちらとしてはそれで文句はありません。彼との約束でもありますからね」
ガクの言葉に頷いたオウは、それまでの表情をさらに固くしてガクを見た。
「それよりも、あっちの件はどうなった?」
「あっち?あぁ、お弟子さんのことですね。無事、具現獣を手に入れることが出来ましたよ。まぁ、まだ卵ですけどね」
「先程の報告にあった卵だな」
オウはそう呟いてそのまま黙り込む。
ガクがしばしその沈黙に耐え、オウの顔をじっと見つめていると、
「いやぁ~、良かった良かった!」
オウの顔が突然気持ち悪い程にニマァっとした笑顔へと変わった。
「これで、師としての面目が保たれたわ!もしも今回の依頼が具現獣と関係無かったら、ソウから絶対怒られそうだったからな」
「・・・・それが本音ですか」
ガクは、呆れたようにオウを見ていた。
「弟子が可愛いのは分かりますが、こういうことはこれっきりにしてくださいよ。いくら彼らに力があるとはいえ、彼らはまだ中学生なんですよ?
今回はたまたま安全でしたが、次に同じようなことがあっても、また守れるとも限らないんですからね!」
ガクは、ニマニマするオウへと若干の苛つきを憶えながら言った。
「わ、わかっておる。ノリにも、散々文句を言われたからな」
オウは、青筋を浮かべるガクに苦笑いを返した。
「ノリさんが?」
「あぁ。『人の弟子を奪ったうえに依頼まで回すなんて!少しはこっちの立場も考えろよっ!』と言われたわ。久々に、ノリからタメ口で怒鳴られた・・・」
「最近のノリさん、昔のノリさんに戻ってきてますからね。まぁ、ノリさんに怒られたのなら、私はこのくらいで抑えておきますか。では、私は仕事に戻ります」
「もう帰るのか?1杯くらい付き合わんか?コーヒーだがな」
「こっちはなかなか取れない休みを2日も取ったんですよ?まだ私に文句を言わせたいですか?」
「あ、いや、すまん。お仕事、頑張って下さい」
「まったく・・・」
ガクはため息をついて、『中央公園』をあとにした。
「しかし、木の力を持つ龍の伝説とは・・・」
ガクと別れたオウは、店を明美姉さんへと任せ、『中央公園』の別室から協会の自室へと戻り、呟いた。
オウの手には、1冊の薄い本が握られていた。
それは、書籍化されることの無い、もう1つの平八による作品であった。
オウはその本を開き、『青龍』と書かれた箇所をなぞった。
「これが、事実だというのか。だとしたら、平八様はそれを一体どこで。やはり平八様は、始祖の契約書を・・・」
オウはそう呟くと、自室の椅子へと座り、ただ呆然と一点を見つめていた。
「・・・・・・・・・」
オウは、しばし考えごとをして、その本を引き出しの中へと戻した。
『始祖の物語』と書かれた、その本を。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる