309 / 519
一息ついて
第272話:龍と龍少年と龍神祭
しおりを挟む
『では皆、達者でな』
目的を済ませたコモドドラゴンは、村へと戻ろうとする一同の背に声をかけた。
「なんだか、もう一生会えないような口ぶりね」
茜が、コモドドラゴンを見て言った。
「いつか、この子が生まれてきたら、会いに来てもいいですか?」
聡太は、おずおずとコモドドラゴンに目を向ける。
『いや、それは遠慮しておこう』
コモドドラゴンのそんな言葉に、聡太は悲しそうな表情で肩を落とした。
『そんな顔をするな。我は元々、主が死して後はヒトと関わらずに生きてきたのだ。これからも、我はここで、静かに暮らしたいのだ』
「そ、そんな・・・」
聡太は、手のひらの卵を撫でながら、小さく声を漏らしていた。
『安心しろ。お主とは、いずれまた相まみえる時が来よう。その時は、その子の顔を、じっくりと拝ませてもらおう』
コモドドラゴンは、そう言って聡太に微笑んだ。
「は、はいっ!約束ですよ!!」
聡太は、満面の笑みをコモドドラゴンへと返す。
『ところで。1つ頼みがあるのだが』
コモドドラゴンは、そう言いながらガクへと目を向けた。
『先程言うたように、我はここで静かに暮したい。ここでの事、他言しないでもらえぬか』
「・・・・・・・」
ガクは、その言葉にしばし沈黙した。
その場の一同は、じっとガクを見つめていた。
「・・・・わかりました。しかし、信用できる上司1人にだけ、話す事を許可いただきたい」
『承知した。感謝する』
ガクが頷くと、コモドドラゴンはガクへ深々と頭を下げた。
「では、我々はこれで」
「コモドさん!元気でね!いつか、絶対この子に会いに来てね!!」
その後、村へと戻って行った聡太達を見送ったコモドドラゴンは、フッと笑みを漏らした。
(本当に、主にそっくりの真っ直ぐな目をしている子であったな)
コモドドラゴンは、聡太の顔を思い出しながら、遠い記憶に想いを馳せていた。
―――師匠!何故木の力が緑なのですか!?五行で木は本来、木の力は青ではないですか!?―――
―――そう言うな。木は、やはり緑の方が分かりやすいではないか。青はどちらかと言うと水の方が近い―――
―――水の力は、黒のはずです!―――
―――お前は硬いなぁ。分かりやすい方が、後の者の為にも良いではないか。それに、黒い力は既に、あやつが使っているしな―――
―――しかし、あの者の力は―――
そんな、主とその師のやり取りを懐かしく思いながらも、コモドドラゴンはフッと笑みを浮かべて、1枚の紙を出現させた。
それは本来、具現獣が単独で持つはずのない、術の契約書であった。
主の死とともに自身の所有物となったその契約書に記された唯一の術に目を落とし、コモドドラゴンは安堵のため息をついた。
『これで、もう1つの約束も果たせるかもしれぬ。あ奴らならばきっと・・・』
そう呟いたコモドドラゴンの体が光り輝くと、その場からコモドドラゴンの姿が消え、緑の鱗に覆われた、巨大な一頭の龍が現れた。
龍は重清達の進んだ先に目を向けると、
『我が子よ、そして聡太よ。またいつか、会おうぞ。お主らならば、必ずやこの術を身に着けるほどの力を付けると、信じておるぞ』
そう言って、フッとその場から姿を消すのであった。
同時刻、たまたま森の付近を探検していた1人の少年は、鬱蒼と茂る木々の隙間から見えた光景に、呆然としていた。
「りゅ、龍だ!龍が出たぞーーーっ!!」
少年は、またたく間に村へと戻り、村人達に自身が見た光景を話して回った。
しかしその少年、以前から嘘ばかりついている問題児として有名であった。
大人達は少年の言う事に聞く耳を持たず、少年はその日のうちに狼少年ならぬ『龍少年』という不名誉なあだ名を付けられることとなった。
しかし翌日、重清達の帰宅後に突然村長が発した『動物達怯える事件』の終息を受けた人々は、少年の言葉を思い出し、事件の解決と少年の言葉を勝手に結び付けて口々に言った。
「龍伝説は、本当だったのか」
と。
翌年よりその村では、『龍神祭』という祭が執り行われることとなり、その主役には、不名誉なあだ名をつけられた少年が抜擢された。
『初代龍少年』という肩書とともに。
さらにこの初代龍少年の提案により龍神祭は仮装をメインとした祭へと進化を遂げる。こうして不忍村龍神祭は全国の勇者達が各々の好きな勇者の仮装で参列することとなり、村の一大イベントとして村おこしに一役買う事になるのであった。
目的を済ませたコモドドラゴンは、村へと戻ろうとする一同の背に声をかけた。
「なんだか、もう一生会えないような口ぶりね」
茜が、コモドドラゴンを見て言った。
「いつか、この子が生まれてきたら、会いに来てもいいですか?」
聡太は、おずおずとコモドドラゴンに目を向ける。
『いや、それは遠慮しておこう』
コモドドラゴンのそんな言葉に、聡太は悲しそうな表情で肩を落とした。
『そんな顔をするな。我は元々、主が死して後はヒトと関わらずに生きてきたのだ。これからも、我はここで、静かに暮らしたいのだ』
「そ、そんな・・・」
聡太は、手のひらの卵を撫でながら、小さく声を漏らしていた。
『安心しろ。お主とは、いずれまた相まみえる時が来よう。その時は、その子の顔を、じっくりと拝ませてもらおう』
コモドドラゴンは、そう言って聡太に微笑んだ。
「は、はいっ!約束ですよ!!」
聡太は、満面の笑みをコモドドラゴンへと返す。
『ところで。1つ頼みがあるのだが』
コモドドラゴンは、そう言いながらガクへと目を向けた。
『先程言うたように、我はここで静かに暮したい。ここでの事、他言しないでもらえぬか』
「・・・・・・・」
ガクは、その言葉にしばし沈黙した。
その場の一同は、じっとガクを見つめていた。
「・・・・わかりました。しかし、信用できる上司1人にだけ、話す事を許可いただきたい」
『承知した。感謝する』
ガクが頷くと、コモドドラゴンはガクへ深々と頭を下げた。
「では、我々はこれで」
「コモドさん!元気でね!いつか、絶対この子に会いに来てね!!」
その後、村へと戻って行った聡太達を見送ったコモドドラゴンは、フッと笑みを漏らした。
(本当に、主にそっくりの真っ直ぐな目をしている子であったな)
コモドドラゴンは、聡太の顔を思い出しながら、遠い記憶に想いを馳せていた。
―――師匠!何故木の力が緑なのですか!?五行で木は本来、木の力は青ではないですか!?―――
―――そう言うな。木は、やはり緑の方が分かりやすいではないか。青はどちらかと言うと水の方が近い―――
―――水の力は、黒のはずです!―――
―――お前は硬いなぁ。分かりやすい方が、後の者の為にも良いではないか。それに、黒い力は既に、あやつが使っているしな―――
―――しかし、あの者の力は―――
そんな、主とその師のやり取りを懐かしく思いながらも、コモドドラゴンはフッと笑みを浮かべて、1枚の紙を出現させた。
それは本来、具現獣が単独で持つはずのない、術の契約書であった。
主の死とともに自身の所有物となったその契約書に記された唯一の術に目を落とし、コモドドラゴンは安堵のため息をついた。
『これで、もう1つの約束も果たせるかもしれぬ。あ奴らならばきっと・・・』
そう呟いたコモドドラゴンの体が光り輝くと、その場からコモドドラゴンの姿が消え、緑の鱗に覆われた、巨大な一頭の龍が現れた。
龍は重清達の進んだ先に目を向けると、
『我が子よ、そして聡太よ。またいつか、会おうぞ。お主らならば、必ずやこの術を身に着けるほどの力を付けると、信じておるぞ』
そう言って、フッとその場から姿を消すのであった。
同時刻、たまたま森の付近を探検していた1人の少年は、鬱蒼と茂る木々の隙間から見えた光景に、呆然としていた。
「りゅ、龍だ!龍が出たぞーーーっ!!」
少年は、またたく間に村へと戻り、村人達に自身が見た光景を話して回った。
しかしその少年、以前から嘘ばかりついている問題児として有名であった。
大人達は少年の言う事に聞く耳を持たず、少年はその日のうちに狼少年ならぬ『龍少年』という不名誉なあだ名を付けられることとなった。
しかし翌日、重清達の帰宅後に突然村長が発した『動物達怯える事件』の終息を受けた人々は、少年の言葉を思い出し、事件の解決と少年の言葉を勝手に結び付けて口々に言った。
「龍伝説は、本当だったのか」
と。
翌年よりその村では、『龍神祭』という祭が執り行われることとなり、その主役には、不名誉なあだ名をつけられた少年が抜擢された。
『初代龍少年』という肩書とともに。
さらにこの初代龍少年の提案により龍神祭は仮装をメインとした祭へと進化を遂げる。こうして不忍村龍神祭は全国の勇者達が各々の好きな勇者の仮装で参列することとなり、村の一大イベントとして村おこしに一役買う事になるのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる