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外伝~不良少年の章~
第2話:世を忍ぶ仮の姿
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古賀久則は、混乱していた。
彼は、社会科研究部と言う面白くもなさそうな部の説明に来ていたはずだった。
しかし、説明が進めば進むほど、説明を受けていた生徒は1人、また1人と席を外していった。
それ自体は良いのだ。
こんな面白くもなさそうな部、入ろうと思う方がどうかしている。
問題はその後だった。
その場にいる生徒が、古賀少年ともう1人の男子生徒の2人になったところで、鈴木と名乗った老人が言ったことが問題だった。
こともあろうか老人は、この部が本当は『忍者部』だと言い出した。
「いやいや爺さん、忍者って。何言ってるんだぜ?」
もう1人の生徒も、古賀少年と同じような事を考えていたらしい。
しかし古賀少年は、ただその生徒を忌々しそうに睨んでいた。
それはこの社会科研究部の説明会の始まる直前のこと。
古賀少年が鈴木と名乗る教師について社会科研究部の部室へと入っていくと、その生徒が馴れ馴れしく古賀少年に話し掛けてきた。
「おっ、やっと話が合いそうな奴が来たんだぜ。みんな真面目そうなやつばっかりで、居心地悪かったんだぜ!」
その生徒の変な話し方も相まって、イライラしていた古賀少年はただ、その生徒を睨み返した。
「うわっ!めちゃくちゃ恐いんだぜっ!」
その生徒は、そう言って笑っていた。
そう、笑っていたのだ。
これまでどんな相手だって怯えさせてきた自身の目を、目の前の少年(と言っても、もちろん彼も古賀少年とは同い年である)はただ笑って流していたのだ。
同じ日に2人もそんな人物に会うことになるなどと、古賀少年は考えてもみなかった。
そして、その事に素直になれない驚いている、そんな自分にまた、イライラしていたのだった。
「あっ、古賀君、またそうやって睨む。でも、やっば神田君には通用しないみたいだね」
そう言って笑っていた鈴木の笑顔を思い出し、またイライラしながら古賀少年は、神田を忌々しそうに睨んでいるのだった。
「いや神田君。爺さんって。確かに私は、既に一度定年している身だし、最近初めての孫が生まれたばかりで・・・
う~ん。そう言われると私は、爺さんと呼ばれてもおかしくはないのか・・・
あっ、初孫の写真、見る!?」
「んなこといいから、話続けろよ。なんだよ、忍者って」
古賀少年は、イライラしながら鈴木の話を無視してそう冷たく言い放つ。
「まったく。君たちは少し、話し方を学んだほうが良さそうだね。
まぁ、それはいい。とにかく、ここは本当に忍者部なんだよ。
その証拠にほら」
鈴木がそう言うと、鈴木の背後にある掛け軸が突然輝き出した。
「これが忍術。と言っても、これだけじゃわからないよね。
とにかく、私についてきてみて」
そう言って鈴木は、そのまま掛け軸の向こうへと姿を消すのだった。
それを観て唖然としている神田少年を一瞥して、古賀少年はスタスタと掛け軸目指して歩き、そのままその先へと向かって歩みを進める。
「あいつ、よくこんな訳のわからないこと起きてて、平然と進めるんだぜ」
神田少年は、掛け軸の先へ消える古賀少年に驚いてそんな言葉を漏らし、意を決して自身も掛け軸へと歩き出すのだった。
その後2人は、鈴木から説明を受け、忍者の存在を渋々ながらも理解した。
そして、2人はそのまま鈴木と契約を交わし、晴れて古賀少年は忍者となった。
そんな古賀少年の前には、何故か1羽の見たこともない鳥。
「ノリは、具現獣かぁ」
甲賀ノリという忍名を与えられた古賀少年に、鈴木、もとい甲賀平八がそう言って笑顔を向けてきた。
「その子、名前はどうするの?」
平八の言葉に、ノリは面倒くさそうに口を開いた。
「あんた、平八だったよな?だったらこいつは、ハチでいい」
(ちょっと!それが女の子につける名前なのっ!?)
不機嫌そうに答えるノリの脳内に、そんな声が突然響いてくる。
「誰だ!?」
「おや。ハチが君に話しかけてきたんだね?具現獣は、ちゃんと意思疎通ができるから、仲良くするんだよ。っていうか、ほんとにそんな決め方でいいのかい?その子、その名前気に入っているのかな?」
「・・・あぁ」
(ちょっとあなたっ!誰が気にいっているなんて言ってるのよっ!)
頭の中に響くハチの声を無視して、ノリは平八に目を向ける。
「よし、これで2人は、一応は忍者になったね。この後も色々とやることがあるんだけど、その前に1つだけ、君達に謝らないといけないことがあるんだ」
そう言って平八は、突然自身の髪をむしり取った。
初見でそれをズラだとわかっていたノリは特に驚きもせずただ見ていたが、それは神田、もとい、甲賀ロキも同様であったようで、2人は特に反応もせずに、平八を見つめていた。
「これはね、私の世を忍ぶ仮の姿だったんだよ。この光輝く頭こそ、雑賀、じゃなくて甲賀平八のシンボルなのさっ!!」
そう言ってドヤ顔をする平八に、ノリはただ堪えた。
「忍べてねーよ」
と。
「あれ?そうかい?おかしいなぁ。やっぱりこれも、術でどうにかしたほうがいいのかなぁ。
あっ、ノリ。今みたいなこと、私の妻の前では絶対に言わないでね!
ウチの妻、私にはデレデレだけど、それ以外の人にはめちゃくちゃ厳しいから!
いやー、この前もさぁ~―――」
そしてこのあとしばらく、ジジイの惚気話を聞かされるノリとロキなのであった。
彼は、社会科研究部と言う面白くもなさそうな部の説明に来ていたはずだった。
しかし、説明が進めば進むほど、説明を受けていた生徒は1人、また1人と席を外していった。
それ自体は良いのだ。
こんな面白くもなさそうな部、入ろうと思う方がどうかしている。
問題はその後だった。
その場にいる生徒が、古賀少年ともう1人の男子生徒の2人になったところで、鈴木と名乗った老人が言ったことが問題だった。
こともあろうか老人は、この部が本当は『忍者部』だと言い出した。
「いやいや爺さん、忍者って。何言ってるんだぜ?」
もう1人の生徒も、古賀少年と同じような事を考えていたらしい。
しかし古賀少年は、ただその生徒を忌々しそうに睨んでいた。
それはこの社会科研究部の説明会の始まる直前のこと。
古賀少年が鈴木と名乗る教師について社会科研究部の部室へと入っていくと、その生徒が馴れ馴れしく古賀少年に話し掛けてきた。
「おっ、やっと話が合いそうな奴が来たんだぜ。みんな真面目そうなやつばっかりで、居心地悪かったんだぜ!」
その生徒の変な話し方も相まって、イライラしていた古賀少年はただ、その生徒を睨み返した。
「うわっ!めちゃくちゃ恐いんだぜっ!」
その生徒は、そう言って笑っていた。
そう、笑っていたのだ。
これまでどんな相手だって怯えさせてきた自身の目を、目の前の少年(と言っても、もちろん彼も古賀少年とは同い年である)はただ笑って流していたのだ。
同じ日に2人もそんな人物に会うことになるなどと、古賀少年は考えてもみなかった。
そして、その事に素直になれない驚いている、そんな自分にまた、イライラしていたのだった。
「あっ、古賀君、またそうやって睨む。でも、やっば神田君には通用しないみたいだね」
そう言って笑っていた鈴木の笑顔を思い出し、またイライラしながら古賀少年は、神田を忌々しそうに睨んでいるのだった。
「いや神田君。爺さんって。確かに私は、既に一度定年している身だし、最近初めての孫が生まれたばかりで・・・
う~ん。そう言われると私は、爺さんと呼ばれてもおかしくはないのか・・・
あっ、初孫の写真、見る!?」
「んなこといいから、話続けろよ。なんだよ、忍者って」
古賀少年は、イライラしながら鈴木の話を無視してそう冷たく言い放つ。
「まったく。君たちは少し、話し方を学んだほうが良さそうだね。
まぁ、それはいい。とにかく、ここは本当に忍者部なんだよ。
その証拠にほら」
鈴木がそう言うと、鈴木の背後にある掛け軸が突然輝き出した。
「これが忍術。と言っても、これだけじゃわからないよね。
とにかく、私についてきてみて」
そう言って鈴木は、そのまま掛け軸の向こうへと姿を消すのだった。
それを観て唖然としている神田少年を一瞥して、古賀少年はスタスタと掛け軸目指して歩き、そのままその先へと向かって歩みを進める。
「あいつ、よくこんな訳のわからないこと起きてて、平然と進めるんだぜ」
神田少年は、掛け軸の先へ消える古賀少年に驚いてそんな言葉を漏らし、意を決して自身も掛け軸へと歩き出すのだった。
その後2人は、鈴木から説明を受け、忍者の存在を渋々ながらも理解した。
そして、2人はそのまま鈴木と契約を交わし、晴れて古賀少年は忍者となった。
そんな古賀少年の前には、何故か1羽の見たこともない鳥。
「ノリは、具現獣かぁ」
甲賀ノリという忍名を与えられた古賀少年に、鈴木、もとい甲賀平八がそう言って笑顔を向けてきた。
「その子、名前はどうするの?」
平八の言葉に、ノリは面倒くさそうに口を開いた。
「あんた、平八だったよな?だったらこいつは、ハチでいい」
(ちょっと!それが女の子につける名前なのっ!?)
不機嫌そうに答えるノリの脳内に、そんな声が突然響いてくる。
「誰だ!?」
「おや。ハチが君に話しかけてきたんだね?具現獣は、ちゃんと意思疎通ができるから、仲良くするんだよ。っていうか、ほんとにそんな決め方でいいのかい?その子、その名前気に入っているのかな?」
「・・・あぁ」
(ちょっとあなたっ!誰が気にいっているなんて言ってるのよっ!)
頭の中に響くハチの声を無視して、ノリは平八に目を向ける。
「よし、これで2人は、一応は忍者になったね。この後も色々とやることがあるんだけど、その前に1つだけ、君達に謝らないといけないことがあるんだ」
そう言って平八は、突然自身の髪をむしり取った。
初見でそれをズラだとわかっていたノリは特に驚きもせずただ見ていたが、それは神田、もとい、甲賀ロキも同様であったようで、2人は特に反応もせずに、平八を見つめていた。
「これはね、私の世を忍ぶ仮の姿だったんだよ。この光輝く頭こそ、雑賀、じゃなくて甲賀平八のシンボルなのさっ!!」
そう言ってドヤ顔をする平八に、ノリはただ堪えた。
「忍べてねーよ」
と。
「あれ?そうかい?おかしいなぁ。やっぱりこれも、術でどうにかしたほうがいいのかなぁ。
あっ、ノリ。今みたいなこと、私の妻の前では絶対に言わないでね!
ウチの妻、私にはデレデレだけど、それ以外の人にはめちゃくちゃ厳しいから!
いやー、この前もさぁ~―――」
そしてこのあとしばらく、ジジイの惚気話を聞かされるノリとロキなのであった。
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