おれは忍者の子孫

メバ

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彼らの日常と蠢く影

第164話:ある具現獣の思い出

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彼女は、ある男に恋をしていた。

いや、訂正しよう。
彼女は、男を愛していた。

いつも一緒にいる2人は、身も心も一心同体と言っていい間柄であった。

しかし、その想いが成就することは決して無かった。

何故ならば彼女は猫。そして男は人間であった。
さらに言えば、彼女は男の具現獣であった。

そんな2人は、もちろんいつも一緒だった。
いくつもの死線を2人で乗り越えてきたという自負が、彼女にはあった。

男のパートナーは自分しかあり得ない、と。

いつの日からか、彼女は人の姿に变化する力を身に着けていた。

彼女は好機だと思った。
常に男の隣りにいる彼女は、男の好みを充分に理解していた。

だから彼女は、男が好きそうな姿へと变化した。

効果は抜群だった。
初めてその姿に变化したとき、男は思いっきり鼻血を出していた。

しかし、男は決して、彼女に触れることはなかった。

猫の時にしか、男は彼女を撫でてはくれなかった。

男にとって彼女は戦友であり、大事なパートナーだった。
だからこそ、決してそれ以外の感情を抱くべきではないと、男はそう決めていた。

そんな男の気も知らない彼女は、必死になって自身を磨いた。
具現獣としても、そして女としても。

そして彼女は、具現獣として他に類を見ないほどの力と色気を手に入れた。

しかし時すでに遅く、男の隣には別の女がいた。

それでも彼女は、男を諦めることは出来なかった。
しかし、そんな彼女の心を動かす出来事があった。

男には、1つの大きな夢があった。
それまで、その夢は彼女だけが知っていた。

しかし男は、その女に嬉しそうに自身の夢を語っていた。

その時、彼女は男を諦める決心をした。

いや、彼女は既に、分かっていたのだ。
自分では、忍としての男を支えることはできても、男の夢を叶える手助けは出来ないだろう、と。

しかし、男の隣りにいる女は違った。

『天才美少女』と呼ばれるその女には、才能があった。
術を作る才能が。

その才能があれば、男の夢を叶えることも可能だと思えるほどの才能であった。

もちろん、男にそんな打算的な考えがあったわけではない。
2人は、ただ惹かれ合っていた。

彼女は、ただそれを見守ることしか出来なかった。

そして、男と女は結ばれた。

それからの彼女は、女を困らせるためだけに男を誘惑し続けた。

そんな彼女に、女は容赦無くぶつかって来た。
何度も、何度も。

同じ男を愛した彼女と女は、幾度となくぶつかる内に、友となった。

それからの2人と1匹は、時にぶつかり合い、時に支え合いながら、様々な偉業を成し遂げた。

そしていつしか、男と女にはたくさんの家族が出来た。

しかし、家族が増えていくにつれて、時はどんどん彼らに重くのしかかっていた。

そして――――


「シロ、こっちにおいで。」
年老いたその男は、彼女――シロ――を、自身の膝へと誘った。

男の膝の上でゴロゴロとなくシロをなでながら、男は話し始めた。

「シロ。私はもう、長くないようだ。だから、私はお前にお願いしたい。」
男がそう言って、突然シロに手をかざして大量の忍力と共に、何かの術を注いだ。

「平八!?今のは何!?」
男――平八――は、ニコリと笑った。

「今のは、私が久々に作った術なんだ。
大変だったんだよ。雅に手伝ってもらったけど、彼女の教え方は、それはもう抽象的過ぎて―――」

「そんなことは聞いていないわ!」
「あ、ごめんね。いつものクセが出ちゃったね。」
平八は、シロに笑顔を向けた。

「今のは、具現者が死んでも、与えられた忍力が尽きない限り具現獣が生き続けることが出来る術だよ。」
「ちょ、何をしているのよ!?私は、あなたと共に死を選ぶと言ったでしょう!?」

「わかってるさ。それでもね、私は君に生き続けてほしいんだよ。もちろん、最後の判断は君に任せる。それでも、できる事ならば君には、孫の面倒を見て欲しいんだ。」
「そんなこと、急に言われても・・・それに孫って、あなたと雅には、何人も孫がいるでしょう?」

「あと何年かしたら、私の最後の孫が中学生になる。君には是非、あの子と契約して欲しいんだ。」
「最後の、って。あの重清って馬鹿そうな子でしょう?あの子に、そんなに才能があるとは思えないわ。」

「そうかい?あの子は、私の幼い頃によく似ているんだ。似すぎて、将来この頭も継がせてしまうのではないかと、心配になるくらいにね。」
平八は、そういって光輝く頭を撫でていた。

「そんなことよりも、話の脱線癖と、女に弱い所が似る方を心配した方がいいんじゃない?」
「はっはっは。こりゃ手厳しいね。」
平八は少し寂しそうに笑ったあと、真面目な表情でシロを見つめた。

「私はきっと、あの子の忍者になった姿を見ることは出来ないだろう。だから私の代わりに、その姿を見て欲しい。それから判断してくれてもいい。頼むよ。」
「・・・私は、あなた以外と契約なんて、絶対にしないわよ。」

「それでもいい。ただ、少しでもあの子を気に入ってくれたら―――」
「しつこいわね。でも・・・あなたの10分の1でも、私をドキッとさせてくれたら、考えても良いかもしれないわね。」

「それはまた、なんとも言えない条件だね。」
平八は、そう言って笑っていた。

「さて。久しぶりに、あそこにでも行こうか。」
「またエスプレッソでも飲むの?」

「いいや。最近はね、カプチーノってやつも気に入っていてね。カプチーノにはね、君のように真っ白でフワフワなミルクの泡が、たっぷりあるんだよ。」
「私は、もうそんな毛並みはしていないわ。すっかり年をとってしまったから。」

「君は、いつまでもあの頃のまま。私の大切な・・・パートナーだよ。」
「あ~ぁ。そうやってまた私をドキッとさせる。重清が私と契約する可能性が、今のでグッと低くなったわよ。」

「おやおや。それは失敗だったね。」

そして、2人は声を揃えて笑い合った。

残り少ない大切な時間を、その心にしっかりと焼き付けるかのように。
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