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彼らの日常と蠢く影
第151話:教師達の休息 前編
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「あのぉ、何でわざわざ遠いところで飲むんですかぁ??」
バスの中で、花園の甘ったるい声を出す。
「せっかく羽目を外して飲むんだから、どこにいるかも分からない生徒の保護者の皆様の視線を気にしたくなんてないでしょ?」
それに答えるように、斎藤のドスの聞いたたくましい声が、花園の耳元で囁かれる。
「ま、そういうことですよ。」
猫を被ったノリが、そう言って花園に笑顔を向ける。
(はぁ~。古賀先生の笑顔だけで、もう酔っちゃいそうだわ~)
そのノリの笑顔を見た島田さんが、もう既に何かに酔っていた。
彼ら4人は現在、2中のある忍が丘市から車で30分程の距離の騎士が丘市に向かうバスの中。
この日は4人での飲み会なのであった。
「今日のお店は、斎藤先生のチョイスでしたっけ?」
騎士が丘市へと到着したバスを降りたノリが、そう言って斎藤を見る。
「さ、斎藤先生の選んだお店・・・いかがわしいお店じゃないでしょうね?」
島田さんが疑うように斎藤を見る。
「ちょっと島田ちゃん、あなた私のことを何だと思ってるのよ!?」
「カマ口調のイカツイ変態教師、ですね。」
「あら、変態は失礼じゃない?」
「あらぁ、それ以外はいいんですねぇ~。」
斎藤の言葉に、花園がのほほんとつっこんだ。
まさか花園がつっこみに回ることになるとは。
この集まり、恐ろしいものである。
そうこうしているうちに、一行は一軒の小料理屋へと到着した。
「あら、斎藤先生の選んだお店にしては、まともみたいですね。」
「いやだから島田ちゃん、あなた私をなんだと―――」
「まぁまぁ斎藤先生。島田さんも、あんまり私の後輩をいじめないであげてくださいよ。」
猫被りモードのノリが、2人の間に立つ。
尊敬する平八の真似をしているノリは、いつもジェントルメンなのである。
(古賀先生ったら。もう、『島田さん』なんかじゃなくって、紀子って呼んでいいのに。それとも、お互いにノリなんて呼び合っちゃったりなんかしてっ!)
1人脳内で暴走さながらクネクネしている島田さんを、ニヤニヤしながら斎藤が横目で見ているのを尻目に、花園が店の看板を見てのほほんと呟く。
「『あで~じょ』?不思議なお名前ですねぇ~。」
「そうでしょう?でも、ここの女将さんはこの名前気に入ってるみたいだから、店内でそんな事言っちゃダメよ?」
そんな花園に斎藤が身も凍るようなウインクを飛ばし、そのまま店内へと入って行き、一行はそれに続いて『あで~じょ』の暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませぃ!!」
店内に、小料理屋とは思えない軽いノリの声がこだまする。
「いやだから、あんたはいい加減その掛け声やめないかいっ!」
和服を身に纏った女性を軽く小突きながら、もう1人のふくよかな女性がそう言って店内に入るノリ達に声をかける。
「よっちゃん、待ってたよ。座敷でいいよね?」
「来華ちゃん、お久しぶりね。えぇ、そちらで構わないわ。」
斎藤が、そう返しながら座敷の方へと進んでいく。
「あら、今日は良い男連れてるじゃないの。」
斎藤から来華と呼ばれた女性がそう言って、ノリにウインクを仕掛けてきた。
「いやいや、こちらのお店には敵いませんよ。雰囲気も、それに女将の美しさも。」
そう言って笑うノリに来華は頬を赤く染める。
「あらやだ。こんなおばさんにお世辞言っても何にも出ないわよ~」
「いえいえ、お世辞なんてとんでもない。」
「もう、ちょっとドキドキしちゃうじゃないのさ~」
「来華ちゃん、それはきっとただの動悸よ。もう年なんだから、無理しちゃダメよ。そんなことより、とりあえず生4つちょうだい。お料理は、お任せで構わないわ。」
だんだんとその気になってきた女将の出鼻を挫くが如く、斎藤がバッサリと切り捨ててさっさと注文を告げると、来華女将も特に反論するでもなく、ただ「はいよ」とだけ答えてその場を去るのであった。
「それにしても・・・」
4人だけになると、斎藤がそう言いながらノリに目を向ける。
「古賀ちゃん、あれだけ上手いこと返せるのに、なんで独身なのよ?」
「いや、それ結婚と関係なくないですか?っていうか以前も言いましたけど、私の方が先輩なのに、その呼び方どうにかならないんですか?」
ノリが若干不機嫌そうにそう返していると、
「確かに、古賀先生が独身って、意外ですよね。か、彼女とか、いらっしゃらないんですか?」
「いいえ。残念ながら。」
島田さんの質問に笑顔で返すノリに、もちろん島田さんは、
(よっしゃーーーーーー!彼女いないことを確認っ!!勝機は我に在りじゃぁーーーーーーーー!)
もう既に、出来上がっていた。
まだ一滴もアルコールは入っていないのだが。
その時、先程女将に小突かれていた女性がジョッキを4つと料理を持ってやって来た。
「お待たせしましたっ!」
「愛流ちゃん、相変わらず居酒屋みたいなノリねぇ~」
「まぁ、元が居酒屋出身なもんすからね。」
そう言いながら、愛流と呼ばれた女性は手際よくジョッキを4人へと配り、花園は愛流の持ってきた料理を取り分けてそれぞれの前へと配られる。
「じゃぁみんな、今日もお疲れ様!」
斎藤の掛け声とともに、教師達のひと時の休息が幕を開けた。
バスの中で、花園の甘ったるい声を出す。
「せっかく羽目を外して飲むんだから、どこにいるかも分からない生徒の保護者の皆様の視線を気にしたくなんてないでしょ?」
それに答えるように、斎藤のドスの聞いたたくましい声が、花園の耳元で囁かれる。
「ま、そういうことですよ。」
猫を被ったノリが、そう言って花園に笑顔を向ける。
(はぁ~。古賀先生の笑顔だけで、もう酔っちゃいそうだわ~)
そのノリの笑顔を見た島田さんが、もう既に何かに酔っていた。
彼ら4人は現在、2中のある忍が丘市から車で30分程の距離の騎士が丘市に向かうバスの中。
この日は4人での飲み会なのであった。
「今日のお店は、斎藤先生のチョイスでしたっけ?」
騎士が丘市へと到着したバスを降りたノリが、そう言って斎藤を見る。
「さ、斎藤先生の選んだお店・・・いかがわしいお店じゃないでしょうね?」
島田さんが疑うように斎藤を見る。
「ちょっと島田ちゃん、あなた私のことを何だと思ってるのよ!?」
「カマ口調のイカツイ変態教師、ですね。」
「あら、変態は失礼じゃない?」
「あらぁ、それ以外はいいんですねぇ~。」
斎藤の言葉に、花園がのほほんとつっこんだ。
まさか花園がつっこみに回ることになるとは。
この集まり、恐ろしいものである。
そうこうしているうちに、一行は一軒の小料理屋へと到着した。
「あら、斎藤先生の選んだお店にしては、まともみたいですね。」
「いやだから島田ちゃん、あなた私をなんだと―――」
「まぁまぁ斎藤先生。島田さんも、あんまり私の後輩をいじめないであげてくださいよ。」
猫被りモードのノリが、2人の間に立つ。
尊敬する平八の真似をしているノリは、いつもジェントルメンなのである。
(古賀先生ったら。もう、『島田さん』なんかじゃなくって、紀子って呼んでいいのに。それとも、お互いにノリなんて呼び合っちゃったりなんかしてっ!)
1人脳内で暴走さながらクネクネしている島田さんを、ニヤニヤしながら斎藤が横目で見ているのを尻目に、花園が店の看板を見てのほほんと呟く。
「『あで~じょ』?不思議なお名前ですねぇ~。」
「そうでしょう?でも、ここの女将さんはこの名前気に入ってるみたいだから、店内でそんな事言っちゃダメよ?」
そんな花園に斎藤が身も凍るようなウインクを飛ばし、そのまま店内へと入って行き、一行はそれに続いて『あで~じょ』の暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませぃ!!」
店内に、小料理屋とは思えない軽いノリの声がこだまする。
「いやだから、あんたはいい加減その掛け声やめないかいっ!」
和服を身に纏った女性を軽く小突きながら、もう1人のふくよかな女性がそう言って店内に入るノリ達に声をかける。
「よっちゃん、待ってたよ。座敷でいいよね?」
「来華ちゃん、お久しぶりね。えぇ、そちらで構わないわ。」
斎藤が、そう返しながら座敷の方へと進んでいく。
「あら、今日は良い男連れてるじゃないの。」
斎藤から来華と呼ばれた女性がそう言って、ノリにウインクを仕掛けてきた。
「いやいや、こちらのお店には敵いませんよ。雰囲気も、それに女将の美しさも。」
そう言って笑うノリに来華は頬を赤く染める。
「あらやだ。こんなおばさんにお世辞言っても何にも出ないわよ~」
「いえいえ、お世辞なんてとんでもない。」
「もう、ちょっとドキドキしちゃうじゃないのさ~」
「来華ちゃん、それはきっとただの動悸よ。もう年なんだから、無理しちゃダメよ。そんなことより、とりあえず生4つちょうだい。お料理は、お任せで構わないわ。」
だんだんとその気になってきた女将の出鼻を挫くが如く、斎藤がバッサリと切り捨ててさっさと注文を告げると、来華女将も特に反論するでもなく、ただ「はいよ」とだけ答えてその場を去るのであった。
「それにしても・・・」
4人だけになると、斎藤がそう言いながらノリに目を向ける。
「古賀ちゃん、あれだけ上手いこと返せるのに、なんで独身なのよ?」
「いや、それ結婚と関係なくないですか?っていうか以前も言いましたけど、私の方が先輩なのに、その呼び方どうにかならないんですか?」
ノリが若干不機嫌そうにそう返していると、
「確かに、古賀先生が独身って、意外ですよね。か、彼女とか、いらっしゃらないんですか?」
「いいえ。残念ながら。」
島田さんの質問に笑顔で返すノリに、もちろん島田さんは、
(よっしゃーーーーーー!彼女いないことを確認っ!!勝機は我に在りじゃぁーーーーーーーー!)
もう既に、出来上がっていた。
まだ一滴もアルコールは入っていないのだが。
その時、先程女将に小突かれていた女性がジョッキを4つと料理を持ってやって来た。
「お待たせしましたっ!」
「愛流ちゃん、相変わらず居酒屋みたいなノリねぇ~」
「まぁ、元が居酒屋出身なもんすからね。」
そう言いながら、愛流と呼ばれた女性は手際よくジョッキを4人へと配り、花園は愛流の持ってきた料理を取り分けてそれぞれの前へと配られる。
「じゃぁみんな、今日もお疲れ様!」
斎藤の掛け声とともに、教師達のひと時の休息が幕を開けた。
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