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守銭奴、勇者に巻き込まれる
第34話:ジョーイとミーシアを追うドラゴンの作り方
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「ミーシアっ!待って、待ってくれ!」
ジョーイはミーシアの背にそう叫びながら、逃げるように走るミーシアを追っていた。
そのまましばらく追いかけっこをする2人であったが、いつしかミーシアの足が徐々にそのスピードを緩めていった。
「ミーシ―――あっ!」
それまで必死にミーシアを追っていたジョーイは、やっとのことでミーシアへと追いつくことができる安堵から、いつものように油断し、たまたま転がっていた石ころで躓いて盛大にその場に転倒した。
「ジョ、ジョセフ様っ!」
顔面から地面へとダイブしたジョーイを見たミーシアは、それまで彼女の中に渦巻いていた複雑な想いを忘れ、想い人へと駆け寄っていた。
突然目の前に地面が迫るジョーイも、そんな彼を心配して駆け寄るミーシアも、気がついてはいなかった。
ジョーイの胸元から1枚の銅貨が飛び出し、空へと向かっていったことに。
それは、ここ1週間毎日のように依頼をこなし、そのたびにキンジからの厳しい取り立てにあいながらもなんとかキンジの目を盗んで溜め込んだ、ジョーイの全財産とも言える1枚の銅貨だった。
常にキンジから金を巻き上げられるジョーイは、その銅貨をキンジの目から隠すため、常に懐に忍び込ませていたのだ。
そんな銅貨は、どういうわけかジョーイの懐から飛び出し、彼を嘲笑うかのように高々と空へと舞い上がっていく。
そしてその銅貨、たまたま空を飛んでいた鳥がなんの気無しにその嘴で掴み、そのままジョーイから離れて空の旅を満喫していた。
しかしその優雅な旅も、銅貨が食べ物ではないと察知した鳥が吐き捨てるように目下の森へと放つことで、終わりを告げた。
哀れな銅貨は、森の木々をくぐり抜け、これまたたまたま地に寝そべっていたアースドラゴンの頭へと降り立った。
アースドラゴン
通常のドラゴンと違い、翼の発達していないその生物は、地を走ることを得意としていた。
今その生物は、一仕事終えて休む主を背に乗せていた。
立ったまま寝るという特異な才能を持つ主の眠りを妨げぬよう静かにしていたアースドラゴンは、その頭に落ちた銅貨に、怒りを感じていた。
もしもこれが、主に当たったならば、主の眠りを妨げたかもしれない。
アースドラゴンは、怒りを懐きつつその銅貨から臭う人間の香りに、歓喜した。
この銅貨を宙へと放ったであろうその人間は、どうやらそれほど遠いところにはいないことが、アースドラゴンには分かったのだ。
主の嫌う人間を狩れば、きっと主は喜んでくれるだろう。
そう考えたアースドラゴンの頭からは、最早主を起こさないようにしようという想いは消え失せていた。
その頭にあるのは、ただ主に喜んでほしいという感情だけであった。
そしてアースドラゴンは、立ったまま眠る主を背に乗せたまま、銅貨の持ち主である人間に向かって、歩き出した。
「ジョセフ様、大丈夫ですか!?」
鼻血を流すジョーイに肩を貸しながら、ミーシアは心配そうにジョーイへと声をかけた。
「す、すまないミーシア。それよりも、君こそ大丈夫かい?」
やっとミーシアとゆっくり話すことができると安堵したジョーイは、鼻血も気にせずにミーシアを見つめ返した。
「キンジが、あんなことを言うなんて・・・」
申し訳無さそうにそういうジョーイに、ミーシアは小さく笑いかけた。
「いえ、それは気にしてはいません。あのときのキンジは、なんと言うか、いつもと何かが違う気がしました。
それよりも・・・・」
そこで言い淀むミーシアを見たジョーイは、何かを察するように口を開いた。
「彼らも彼らだ。ミーシアが魔族だなんて、そんなこと関係ないじゃないか」
「ですが、私が魔族であることは事実ですから。人間から恐れられることは、慣れていますので」
「だったら、なぜミーシアは逃げたんだい?」
「魔族である私がパーティに居るという事実によって、ジョセフ様のお立場が悪くなる。そう考えると、あの場に居るのが辛くて・・・」
「そんなこと、関係ない!ミーシアは僕の大事な仲間だ!誰が何と言おうと、その事実は変わらない!!」
「あぁ・・・ジョセフ様・・・・」
ジョーイの言葉に、彼への想いを強めて熱い視線を送るミーシア。
その視線を、友情の視線だと感じるジョーイ。
そんな一方通行の良い雰囲気は、
「ガサガサッ」
そんな茂みの音により、終わりを告げる。
「どうやら、キンジも心配して来てくれたみたいだ――――」
そう言いながら音のする方へ目を向けたジョーイの視界に写ったのは、一頭のアースドラゴンであった。
「「・・・・・・・・・」」
アースドラゴンの視線の先にいる2人は、しばし見つめ合い、互いに小さく頷いた。
そのまま一目散に逃げるジョーイとミーシアを、アースドラゴンは喜々として追い始めた。
背に乗る主のことなど、一切気にもとめずに。
ジョーイはミーシアの背にそう叫びながら、逃げるように走るミーシアを追っていた。
そのまましばらく追いかけっこをする2人であったが、いつしかミーシアの足が徐々にそのスピードを緩めていった。
「ミーシ―――あっ!」
それまで必死にミーシアを追っていたジョーイは、やっとのことでミーシアへと追いつくことができる安堵から、いつものように油断し、たまたま転がっていた石ころで躓いて盛大にその場に転倒した。
「ジョ、ジョセフ様っ!」
顔面から地面へとダイブしたジョーイを見たミーシアは、それまで彼女の中に渦巻いていた複雑な想いを忘れ、想い人へと駆け寄っていた。
突然目の前に地面が迫るジョーイも、そんな彼を心配して駆け寄るミーシアも、気がついてはいなかった。
ジョーイの胸元から1枚の銅貨が飛び出し、空へと向かっていったことに。
それは、ここ1週間毎日のように依頼をこなし、そのたびにキンジからの厳しい取り立てにあいながらもなんとかキンジの目を盗んで溜め込んだ、ジョーイの全財産とも言える1枚の銅貨だった。
常にキンジから金を巻き上げられるジョーイは、その銅貨をキンジの目から隠すため、常に懐に忍び込ませていたのだ。
そんな銅貨は、どういうわけかジョーイの懐から飛び出し、彼を嘲笑うかのように高々と空へと舞い上がっていく。
そしてその銅貨、たまたま空を飛んでいた鳥がなんの気無しにその嘴で掴み、そのままジョーイから離れて空の旅を満喫していた。
しかしその優雅な旅も、銅貨が食べ物ではないと察知した鳥が吐き捨てるように目下の森へと放つことで、終わりを告げた。
哀れな銅貨は、森の木々をくぐり抜け、これまたたまたま地に寝そべっていたアースドラゴンの頭へと降り立った。
アースドラゴン
通常のドラゴンと違い、翼の発達していないその生物は、地を走ることを得意としていた。
今その生物は、一仕事終えて休む主を背に乗せていた。
立ったまま寝るという特異な才能を持つ主の眠りを妨げぬよう静かにしていたアースドラゴンは、その頭に落ちた銅貨に、怒りを感じていた。
もしもこれが、主に当たったならば、主の眠りを妨げたかもしれない。
アースドラゴンは、怒りを懐きつつその銅貨から臭う人間の香りに、歓喜した。
この銅貨を宙へと放ったであろうその人間は、どうやらそれほど遠いところにはいないことが、アースドラゴンには分かったのだ。
主の嫌う人間を狩れば、きっと主は喜んでくれるだろう。
そう考えたアースドラゴンの頭からは、最早主を起こさないようにしようという想いは消え失せていた。
その頭にあるのは、ただ主に喜んでほしいという感情だけであった。
そしてアースドラゴンは、立ったまま眠る主を背に乗せたまま、銅貨の持ち主である人間に向かって、歩き出した。
「ジョセフ様、大丈夫ですか!?」
鼻血を流すジョーイに肩を貸しながら、ミーシアは心配そうにジョーイへと声をかけた。
「す、すまないミーシア。それよりも、君こそ大丈夫かい?」
やっとミーシアとゆっくり話すことができると安堵したジョーイは、鼻血も気にせずにミーシアを見つめ返した。
「キンジが、あんなことを言うなんて・・・」
申し訳無さそうにそういうジョーイに、ミーシアは小さく笑いかけた。
「いえ、それは気にしてはいません。あのときのキンジは、なんと言うか、いつもと何かが違う気がしました。
それよりも・・・・」
そこで言い淀むミーシアを見たジョーイは、何かを察するように口を開いた。
「彼らも彼らだ。ミーシアが魔族だなんて、そんなこと関係ないじゃないか」
「ですが、私が魔族であることは事実ですから。人間から恐れられることは、慣れていますので」
「だったら、なぜミーシアは逃げたんだい?」
「魔族である私がパーティに居るという事実によって、ジョセフ様のお立場が悪くなる。そう考えると、あの場に居るのが辛くて・・・」
「そんなこと、関係ない!ミーシアは僕の大事な仲間だ!誰が何と言おうと、その事実は変わらない!!」
「あぁ・・・ジョセフ様・・・・」
ジョーイの言葉に、彼への想いを強めて熱い視線を送るミーシア。
その視線を、友情の視線だと感じるジョーイ。
そんな一方通行の良い雰囲気は、
「ガサガサッ」
そんな茂みの音により、終わりを告げる。
「どうやら、キンジも心配して来てくれたみたいだ――――」
そう言いながら音のする方へ目を向けたジョーイの視界に写ったのは、一頭のアースドラゴンであった。
「「・・・・・・・・・」」
アースドラゴンの視線の先にいる2人は、しばし見つめ合い、互いに小さく頷いた。
そのまま一目散に逃げるジョーイとミーシアを、アースドラゴンは喜々として追い始めた。
背に乗る主のことなど、一切気にもとめずに。
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