艶女ぃLIFEは眠れない

メバ

文字の大きさ
上 下
18 / 25

第18話:芦田幸太はさらわれる

しおりを挟む
「学部長、朝からすみません」
小林課長が声をかけた目の前の人物は、それはもう威厳たっぷりの人だった。

顎と口にはたっぷりの白い髭。
そしてその髭の周りに深く刻まれたシワは、長い年月を歩んできた歴史すらも感じられるものだった。

でも、そんな学部長のいるこの学部長室は、よくある折りたたみ式の長机が2つ、重ねて置いてあるだけの質素なものだった。

その上にはたくさんの書類が積み重ねられていたけど。

「あ、あの、本日から地方創生学部教務課に配属されました、あ、芦田幸太と申します」
「うむ。学部長の、谷山だ」
学部長は、威厳たっぷりに頷いていた。

「芦田君、だったね。君は、この学部をどんな学部だと考えるかね?」
早速、学部長から質問が飛んできた。

これは、迂闊な答えだと怒られそうだな・・・

よかった。バスの中で事前に静海さんに聞いていて。
もちろん、寺垣さんの登場で雰囲気が悪くなる前にだよ?

「えっと・・・」

確か、

『地方創生学部は、そうねぇ。地方創生を牽引する人材の育成が、出来たらいいなぁって学部よ』
って静海さんは言っていた気がする。

「育成が出来たらいいなぁ、だとぉ?」
あれ?僕声に出してた?

まずい、まずいよ静海さん!
学部長ご立腹です!
いや、静海さんのせいではないんですけどっ!!

学部長が迫ってきてます!
助けて小林課長っ!!

チラリと目を向けた小林課長は、どこ吹く風と学部長室の窓から見える風景をのんびりと眺めていた。

裏切り者っ!

ほとんど初対面の小林課長に心の中で叫んでいた僕の肩を、学部長はガッシリと掴んだ。

あぁ、初日から怒られる・・・・

「よく分かっているじゃないか芦田君。いや、アッシー!!」

・・・・・・はい?

「そう!この学部は、地方創生を牽引する人材の育成を目標とする学部なのだ!
それを地域の人達は、学部の名前を聞いてこの学部が地方創生をする学部だと思っている!

そうじゃない!
我々教員は、研究者であり教育者なんだ!
決してイベンターではないのだっ!
もちろん我々教員ができることは協力するつもりだ!
だがこの学部のやるべきことは、学生を育てることなのだよっ!!」

学部長は、熱い瞳で僕にそう訴えかけていた。
えっと・・・いや、僕に言われましても。

戸惑う僕のことなど気にも止めていない学部長は、

「いや~。言いたいこと言ったらスッキリした!」
と、清々しい笑顔を浮かべていた。

お役に立てたなら良かったです。

「ところでアッシー。君は煙草は吸うのかね?」
そんな学部長は、突然そんなことを聞いてきた。

というか、僕アッシーで決定なんですね、学部長。

「あぁ、えっと・・・普段持ち歩いてはいないですけど、付き合い程度には・・・」
と言っても、完全に酒谷さんの付き合いだけですけど。

「ほぉ、若いのに珍しい。煙草は私のをあげよう。少し、付き合ってくれたまへ」
「えっ、いや、あの・・・」
僕は助けを求めるように小林課長へと視線を送った。

「高橋君と松本さんには伝えておく!行ってきなさい!」
小林課長は親指を立てながらそう言って、学部長に引きずられる僕を見送っていた。


「あ、あの、学部長・・・た、確かこの大学、敷地内禁煙では・・・」
「流石は喫煙者!よく調べているではないか!」
戸惑いながら学部長へとそういう僕に、学部長は満面の笑みを返した。

「とっておきの場所があるのだよ」
そう言いながら学部長は、駐車場へと入っていった。

まさか、わざわざ車で敷地外に?

そう思っていると学部長は、とある車の前で立ち止まった。

「これが、私の城、スモーキング号だ!」
そう言って自慢気に言う学部長は目の前にキャンピングカーが佇んでいた。

「車の中は敷地外というわけだ!」
学部長はそう言ってキャンピングカーの扉に手をかけた。

あれ?今鍵開けた?

「あ、あの、学部長・・・鍵は・・・」
「安心しなさい!取られるものなどここには置いていない!君も、いつでも勝手に使ってもらって構わないからな!」
いや、流石に人の車に勝手に入って煙草を吸うわけには・・・

そう思いながらも僕は、学部長にいざなわれるままに車内へと入っていった。

広い車内の真ん中にはテーブルが置かれ、それを囲むように小さな椅子が2脚とソファーが置かれていた。

でも、僕が驚いたのはそんなことではなかった。

ソファーの上では、当たり前のように1人の男の人がプカプカと煙草を吸っていた。

「あっ、谷山先生、おつかれ~ッス」
車内に入った学部長に、男の人は立ち上がることなくそう軽い挨拶を送っていた。

「あぁ、利島としま君。楽にしてくれたまへ」
現在進行形でソファーに座り、これ以上に無いほどに楽にしているその男の人に、学部長はそう声をかけて小さな椅子へと腰掛けていた。

「彼はアッシー。今日から教務課に来た期待の星だ」
学部長はそう、目の前で煙草を吸う男の人へと僕を紹介した。

いや、期待の星って。
僕まだここに来て何一つ仕事してません。

「彼は利島君。この学部の教員の1人だ」
「ちゃ~ッス」

え!?この人も先生なの!?

大学教員のイメージが今日一日で色々と塗り替えられたような気がする。

その後僕は、学部長からもらった煙草を吸いながら、学部長と利島先生の2人と、他愛ない会話をしてキャンピングカーを辞した。


なんとか高橋係長と松本さんがいる部屋を見つけて入ると、

「煙草臭い。初日から煙草なんて良いご身分ね」
そんな言葉を松本さんから投げかけられながらも、小林課長と高橋係長のフォローで事なきを得た僕は、翌日の入学式に向けた準備に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります! ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。 稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。 もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作の主人公は「夏子」? 淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。 ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる! 古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。 もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦! アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください! では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...