艶女ぃLIFEは眠れない

メバ

文字の大きさ
上 下
17 / 25

第17話:芦田幸太は歓迎されない?

しおりを挟む
寺垣さんと美作みまさかさん、同期2人との飲み会の翌日。僕は昨日と同じく、静海課長補佐、吉良係長と職場に向かうバスに乗っていた。

静海さんが僕の隣、静海さんの前の席に吉良さんが座っていた。
昨日と同じだから、もしかしてこの席は固定になっちゃうのかな?

「おはようございます!」
そんな僕らに、バスの後ろの方の席から立ち上がった寺垣さんの声が聞こえてきた。

「運転中は、危ないですから立ち上がらないでください」
「あ、すみませーん!」
運転手の注意に明るく答えながら、僕と静海さんの後ろの席へと腰を下ろした。

「静海課長補佐、今日からよろしくお願いします!」
「えぇ」
静海さんは寺垣さんと視線も合わせず、冷ややかにそう返して黙り込んでいた。

さっきまで吉良さんと楽しそうに話していたのに。

不思議に思った僕が吉良さんに目を向けると、吉良さんは苦笑いを浮かべて肩をすくめて、前へと向き直っていた。

いや寺垣さん、なんで僕を睨むんですか。
僕何も言ってないからね?

むしろ僕だってこの状況は嫌なんだからね?

そう思いながら僕は、

「て、寺垣さん、二日酔いとか、大丈夫?」
そう彼に声をかけた。

でも寺垣さんは、静海さんにチラリと視線を向け僕の言葉を無視して、そのまま静海さん同様に黙り込んでしまった。

そっか。
昨日静海さんに言われたことを気にしてるんだ。

やってしまった。

でもだからって、無視しなくてもいいじゃないか。

結局僕もそのまま口を閉ざし、騎士ヶ丘大学に向かうバスは、とても居心地の悪い空間へと様変わりした。


「はぁ」
静海さんと吉良さん、それから寺垣さんと別れた僕は、居た堪れないあの雰囲気から脱したことに安堵のため息をつきながら、地方創生学部のある建物へと向かった。

昨日五島さんに案内してもらった僕の配属先となる地方創生学部教務課は、他の部署とは違って小部屋だった。

まだできて間もない学部だって五島さんは説明してくれていた。
それが理由なのか、他の2つの学部と違って地方創生学部教務課には、僕を含めて4人しかいないらしい。

ほかのところも正職員はあまり変わらないらしいけど、その分非常勤職員さん達が何人も居て、賑やかそうだったのを覚えている。

「お、おはようございます」
精一杯の声でそう言って、『地方創生学部教務課』と書かれた小さな紙の貼られている小部屋に入る僕に、視線が集中した。

「おはよう。君が芦田君だね」
そう言って笑顔で迎え入れてくれたのは、この教務課のドン、小林課長だった。

とはいっても、まだ出来て4年も経っていない学部なのでそれほど人員を割けないらしく、地方創生学部総務課の課長との兼任らしい。

つまり、実質的なこの学部の事務的なドンってことみたい。

「いや~、4月の忙しい時に初日から研修ってのは、ほんと勘弁してもらいたいよ。あ、芦田君に文句を言っているわけじゃないからな?」
そう言いながら笑いかけて来たのは、高橋係長。
僕の直属の上司になる人ね。

「はぁ。やっと人が増えたと思ったら新人なんて」
ため息混じりにそう言って僕に一瞬だけ視線を送ったのは、確か、松本さん。

僕と同じく高橋係長の部下で、僕の先輩になる人なんだけど・・・・

なんだか僕、歓迎されていないみたい。

「あ、あの、今日から、よろしくお願いします」
頭を下げる僕に頷いた小林課長は、松本さんに目を向けた。

「松本さん、今日の予定は?」
「明日の入学式の準備がてんこ盛りです。この無駄話をさっさと終わらせて準備に取り掛かりたいくらいに」

無駄話って松本さん・・・

「そうか。高橋君、学部長の予定は?」
「あぁ、今なら空いてますね」
松本さんの棘まみれの言葉を気にすることなく、小林課長は高橋係長へと声をかけていた。

どうやら松本さんの話しぶりは、いつものことみたい。

「よし、じゃぁさっさと学部長に挨拶済ませて、
仕事に取り掛かってもらおうか。これ以上待たせると、松本さんに後ろから刺されそうだしな」
「もういつでも刺す準備はできてますけど」

「はっはっは!松本さんは相変わらずキツいねぇ」
「新人しか取ってこれない課長に示す敬意は持ち合わせていないので」

「まぁそう言ってやるなって松本。もともと人は増やせないと言われていたこの部署に、こうやって新人を持っこれたのだって奇跡なんだから」
高橋係長は、そう言って松本さんを笑って諌めていた。

「そういうこと。少しは私の手腕を認めてくれてもいいじゃないか」
そう言った小林課長は、僕をチラリと見た。

「っと。芦田君が困っているじゃないか。とにかく、2人は先に準備を進めていてくれ。私は芦田君を連れて学部長の所に行ってくる。後で私も手伝うから」

「手伝うっていうか、それもあんたの仕事」
「松本、あれでも課長だぞ?あんたはないだろ。それより課長。総務課からも人手を出してもらえると助かります」

「あぁ・・・うん。あっちに余裕があったらな」
「絶対来ないわね、総務課。まったく、役に立たない課長だこと」

「聞こえてるぞ~」
辛辣な松本さんにそう返しながら僕に手招きしている小林課長について、僕はその小部屋をあとにした。

なんていうか、上下関係ってここにはないのかな?
高橋係長も優しそうに見えて、微妙に小林課長をディスってるし。

まぁ新人の僕は、先輩達の真似はできそうにもないけどね。

「松本さんの言うことは、あまり気にしないでくれ。君にどうこう思っているわけではないからね」
廊下を進む小林課長の苦笑いを浮かべた言葉に僕が頷いていると、僕らは別の小部屋の前へと立ち止まった。

『学部長室』
と手書きの文字が書かれた半紙の掲げられたその扉を、小林課長はノックした。

「学部長、失礼します。小林です。今日から教務課に配属された芦田と挨拶に伺いました」

「入りたまへ」

扉の向こうから、そんな威厳ある声が響いてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります! ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。 稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。 もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作の主人公は「夏子」? 淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。 ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる! 古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。 もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦! アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください! では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...