王道学園のハニートラップ兎

もものみ

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兎と犬の関係は?

第十六話

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 む、やる気か?

「ふふ、俺を口説いても意味ないですよ。でも―――嬉しいです、ありがとうございます。」
 前髪を流して顔が見えるようにして、相手の手をとって頬に当てる。それからうつむき加減で犬飼を見上げてそう言った。
「ッ!……お前、わざとだな?」
 犬飼が顔をほんのり赤らめて口許をひくつかせる。よかった、メガネをかけたままでもそこそこ効果はあるようだ。
「ふふふ、どうですかね?」
「はあ…。まあいい、学園について説明しておきたいことは多々あるけど、今日はもうもどれ。狐塚が待ってんだろ。」
 まだ耳がうっすら赤いままの犬飼が顔を片手でおおってそう言った。あからさまな照れ隠しだが結構時間がたっているので本当にそろそろ帰った方がいいだろう。
「そうですね。長居して怪しまれても困りますし、そろそろ戻ります。」
「おう。あいつも聞けば色々教えてくれるだろうよ。…いや、お前なら聞かなくても忠告されるかもな。まあ、分からんこととか協力できることがあったら言え。俺はここに残るから、帰るなら道は…」
「道は大丈夫です。では、失礼しますね。」
「…おう。」
 犬飼がひらっと片手を上げて俺を見送る。数学準備室の扉をガラッと開けて念のため周りを伺って誰もいないのを確認してから外に出た。教室までの道は同じフロアではあるもののかなり距離があるが、もちろん頭に入っている。
 今日犬飼と話しておけたのは大きい。犬飼が『こちら側』で、担任から協力が得られるとわかっていると、かなり大胆に動ける。それを考慮した上でプランを組まねば。それに、犬飼は個人的にかなり好印象の人物だった。ダウナーな感じではあるが言動は誠実そうだったし、嘘をついているようにも見えなかった。やはり初日に犬飼という協力者の存在を知れたのはでかいな。
 さて、まだ俺の入学初日は終わらない。狐塚に怪しまれないようになるべく急いで戻らないとな。俺は今日の成果に満足しながら早歩きでもと来た道を戻った。





《犬飼side》

「あ”~、くそ、してやられた。」
 あの人が学園内の有力な家の弱味を握るために送り込んだスパイだからやり手なのは分かっていたが…。元からスパイのような仕事をしたわけでもなく、拾い物だと言っていたからどんなもんかと思ったら、小柄で見た目はパッとしないやつだったから資料で見たときはどういうことかと思っていたが。
「まさかメガネ外して髪上げたらあんな美人とか、マジで漫画かよ…」
 思わず呟いてしまう。素顔の白兎は、むしろよくメガネと前髪だけでカムフラージュできてたな?というほどの美少年だった。この学園によくいるきゅるんとした、可愛いを全面に押し出した感じではなく、目はぱちりと大きいがスッと通った鼻筋や小さな口が上品に思われる顔つきだった。あれならスパイとして送り込まれたのも納得だ。顔つきもそうだが、さっき白兎にしてやられたと感じたときのあれ。可愛らしいのに色香漂うしぐさ、表情。あれはまさに、傾国の美女といった様相だった。いや、女じゃないんだけど。
「はあ…。あれはしてやられた。」
 15、16の色気じゃないだろ…。己の魅せ方も男に気に入られる態度も熟知したような風だった。頭も切れるようだし、隙があるようにみせてその実警戒心を解くことはない。少し自分の顔面への自覚が足りない気はしたが。まあ、だからこそ適任ではあるか。
「あの人もまだ子供になんつーことさせるんだと思ってたが…あいつならなんとかなるかもな。」


 人のいなくなった数学準備室で、犬飼はこれから一年間共犯者となる者の今後に思いを馳せ、口許に笑みを浮かべるのだった。
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