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再会ー優月sideー
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(……俺の一か月は、意味なかったのかな…?)
陽仁がお腹を感慨深そうに撫でながら呟く。
「ずっと、俺たちの子を大事に育ててくれて、守ってくれて、ありがとう。」
「……。」
優月は何も返さない。否、何も返せないのだ。陽仁と会ってから、ずっと我慢していた涙がぽとりと落ちる。
「なんで…なんでここに来たの…?なんであんなに探したの?………なんでおれなんかに、そんなこと言うの…?」
優月は瞳からこぼれる涙を止めることができず、本格的に泣き始めてしまった。
「…ゆづが好きだから。何度も言ってるじゃん。」
陽仁が肩に回している方の手に力を籠め、もう片方の肩まで腕を回し優月をがっちりと抱きしめる。
「だけどっ…!」
「ゆづが言ってたのはこいつ?」
しゃっくりを上げながら涙を流す優月に陽仁が一枚の写真を見せる。そこには、例の美女が映っていた。
「あ…」
思わず優月が声を漏らす。その美女は、確かに優月が目撃した人物で間違いなかった。分かってはいてもあの時の光景を思い出してしまい、ずきりと胸が痛む。写真を見せられてぱちりと瞬いたときに瞳を潤す涙は止まったが、また無意識に優月の眉尻が下がる。
「…そんな悲しそうな顔しないで。」
陽仁が優月の瞳にたまった涙を指で拭う。
「ゆづ、前に行ったパーティー覚えてる?」
「え…?」
「言ってなかったんだけど、あのパーティーの主催者の娘さんなんだ。その人。」
そういえば、優月は一度だけ陽仁の連れられてパーティーに行ったことがあったが、その詳細は伝えられていなかった。
(あのときのパーティーの…。…でも、それがどうしたんだろう?)
優月は名家の令嬢だということは分かっていたのでさほど驚かず首をかしげる。だから何だというのか。
「あの時も言ったけど、ゆづはかわいいからほんとはあんなとこに連れて行きたくなくかったんだけどね。…それまでは実際連れて行かなくてもよかったし。でもあのご令嬢だけはしつこくて…もうパートナーがいるって言ってるのにしつこく言ってくるから、連れて行かなきゃいけなくなったんだ。」
どうしてもパートナー同伴でいかなきゃいけなくなった、というようなことはあの時陽仁から聞いていた。
(だけど、この言い方はいったいどういう…?パートナー…?それにあの令嬢がしつこくてっていったい…)
優月は分からないことだらけだった。陽仁の言い方では陽仁はすでにパートナーがいると公言していて、しかもそれが優月だと言っているように思える。それに、あの令嬢は陽仁の恋人ではなかったのか。
「それってどういう…?」
優月は首をかしげて陽仁を見上げる。ネガティブな優月だが、先ほどの陽仁の言葉はどう考えても優月にとって都合のいい意味にとれてしまう。優月は心臓の音が大きくなるのを感じながら聞き直す。
「ゆづが思ってるのであってると思うけど。…あの令嬢は俺に一目ぼれしたとか言って無理に言い寄って来てただけ。俺は全然好きじゃないしむしろ迷惑してるくらい。あのパーティーで父親から言ってもらって諦めてもらおうと思ってたんだけど…意味なかったみたいで。ゆづがいつ見たのかはわからないけど、この子が勝手にすり寄って来てただけだからね。…ほんと、信じて。優月。」
陽仁が自信を見上げている優月のほほに手を当てて目線を合したまま、真剣な表情で優月に言う。優月はゆっくりと陽仁の言葉をかみ砕く。陽仁は普段優月のことを”ゆづ”と呼ぶ。”優月”と呼ぶのは、真剣な時だけだ。
優月は陽仁の真剣な目を見る。
「………そう、だったん、だ…。」
優月は陽仁の言葉をじっくり考えて、そう返す。あの令嬢とのことは優月の勘違いだったらしい。そのことに優月は少しほっとする。
「だけど、」
しかし、だから陽仁の元に戻るかと言われると、はいそうですかとは頷けない。本質はそこではないのだ。優月は目を伏せて俯く。
「はる君には俺なんかよりもいい人が、きっといるよ。」
陽仁がお腹を感慨深そうに撫でながら呟く。
「ずっと、俺たちの子を大事に育ててくれて、守ってくれて、ありがとう。」
「……。」
優月は何も返さない。否、何も返せないのだ。陽仁と会ってから、ずっと我慢していた涙がぽとりと落ちる。
「なんで…なんでここに来たの…?なんであんなに探したの?………なんでおれなんかに、そんなこと言うの…?」
優月は瞳からこぼれる涙を止めることができず、本格的に泣き始めてしまった。
「…ゆづが好きだから。何度も言ってるじゃん。」
陽仁が肩に回している方の手に力を籠め、もう片方の肩まで腕を回し優月をがっちりと抱きしめる。
「だけどっ…!」
「ゆづが言ってたのはこいつ?」
しゃっくりを上げながら涙を流す優月に陽仁が一枚の写真を見せる。そこには、例の美女が映っていた。
「あ…」
思わず優月が声を漏らす。その美女は、確かに優月が目撃した人物で間違いなかった。分かってはいてもあの時の光景を思い出してしまい、ずきりと胸が痛む。写真を見せられてぱちりと瞬いたときに瞳を潤す涙は止まったが、また無意識に優月の眉尻が下がる。
「…そんな悲しそうな顔しないで。」
陽仁が優月の瞳にたまった涙を指で拭う。
「ゆづ、前に行ったパーティー覚えてる?」
「え…?」
「言ってなかったんだけど、あのパーティーの主催者の娘さんなんだ。その人。」
そういえば、優月は一度だけ陽仁の連れられてパーティーに行ったことがあったが、その詳細は伝えられていなかった。
(あのときのパーティーの…。…でも、それがどうしたんだろう?)
優月は名家の令嬢だということは分かっていたのでさほど驚かず首をかしげる。だから何だというのか。
「あの時も言ったけど、ゆづはかわいいからほんとはあんなとこに連れて行きたくなくかったんだけどね。…それまでは実際連れて行かなくてもよかったし。でもあのご令嬢だけはしつこくて…もうパートナーがいるって言ってるのにしつこく言ってくるから、連れて行かなきゃいけなくなったんだ。」
どうしてもパートナー同伴でいかなきゃいけなくなった、というようなことはあの時陽仁から聞いていた。
(だけど、この言い方はいったいどういう…?パートナー…?それにあの令嬢がしつこくてっていったい…)
優月は分からないことだらけだった。陽仁の言い方では陽仁はすでにパートナーがいると公言していて、しかもそれが優月だと言っているように思える。それに、あの令嬢は陽仁の恋人ではなかったのか。
「それってどういう…?」
優月は首をかしげて陽仁を見上げる。ネガティブな優月だが、先ほどの陽仁の言葉はどう考えても優月にとって都合のいい意味にとれてしまう。優月は心臓の音が大きくなるのを感じながら聞き直す。
「ゆづが思ってるのであってると思うけど。…あの令嬢は俺に一目ぼれしたとか言って無理に言い寄って来てただけ。俺は全然好きじゃないしむしろ迷惑してるくらい。あのパーティーで父親から言ってもらって諦めてもらおうと思ってたんだけど…意味なかったみたいで。ゆづがいつ見たのかはわからないけど、この子が勝手にすり寄って来てただけだからね。…ほんと、信じて。優月。」
陽仁が自信を見上げている優月のほほに手を当てて目線を合したまま、真剣な表情で優月に言う。優月はゆっくりと陽仁の言葉をかみ砕く。陽仁は普段優月のことを”ゆづ”と呼ぶ。”優月”と呼ぶのは、真剣な時だけだ。
優月は陽仁の真剣な目を見る。
「………そう、だったん、だ…。」
優月は陽仁の言葉をじっくり考えて、そう返す。あの令嬢とのことは優月の勘違いだったらしい。そのことに優月は少しほっとする。
「だけど、」
しかし、だから陽仁の元に戻るかと言われると、はいそうですかとは頷けない。本質はそこではないのだ。優月は目を伏せて俯く。
「はる君には俺なんかよりもいい人が、きっといるよ。」
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