君は俺の光

もものみ

文字の大きさ
上 下
30 / 41
再会ー優月sideー

30

しおりを挟む
「…お願い、もう逃げないで。」

 優月がとっさに身をよじると、陽仁は優月の肩の上から回した手にぎゅっと力を籠める。

(はる君の手、震えてる。)

 優月は逃げようとしていた力を抜いた。

「…はる君、この近くに俺の家があるから付いてきて。」

 優月は静かな声で告げる。落ち着いているように見えるが、その内心は動揺と、久しぶりの恋人に反応して熱くなってしまう体を鎮めるのに必死だった。二人はすぐそこの優月の家に向かって歩き出す。優月の左手は、しかっりと陽仁に繋ぎ止められていた。左手から、あの日よりはいささか冷たい体温を感じる。

(はる君…はる君だ。)

 優月は無意識に左手を握り返してしまう。

(……って、だめだ、落ち着かないと。)

 そうは思うものの、優月は焦ったりはしていなかった。どうしてか体から力が抜け、安心感すら感じてしまっていたのだ。

(久しぶりのはる君……。…ちゃんと説得できるかな。)

 優月はすでに思い通りにならない自分の体に不安を覚えつつ、賃貸の我が家に帰ってきた。やや古めの、家賃の安さを重視した部屋だ。長身の陽仁には玄関の扉は低すぎたらしく、くぐるようにして部屋へ入ってくる。

「こんなとこにいたんだね。この辺も探させたんだけど…。」

 陽仁は優月の家に入り、目を細めて部屋の中を見渡す。陽仁の上品な雰囲気とこの部屋はどう見ても似合っておらず、それがなんだかおかしかった。ちなみにこの辺を探してもが見つからないのは当然だ。この部屋は優蘭名義で借りているのだから。

「……座ってて、お茶いれるよ。」
「……。」

 陽仁がぎゅっと優月の手を握る。離す気はないようだ。

「…大丈夫だよ。そこら辺に座ってて。キッチン、見えるでしょ。」

 そう言うと、陽仁はしぶしぶテーブルの近くに座り、お茶を入れる優月の後姿をじっと見つめる。

「はい、お茶。」

 優月は陽仁にそっとお茶を差し出し、陽仁の対面に座る。

「…ありがとう。」

 そう言ってお茶を受け取ると、陽仁は優月と距離を詰めて隣に座りなおした。

「うん…。」
「……。」

 二人の間にしばらく無言が続く。優月もどこから話をすればいいのか考えあぐねている。しばらくそのままの時間が続き、陽仁が先に切り出す。

「…ゆづ、少し痩せた?…この一か月、元気だった?」

 陽仁が優月の頬に手を添え、じっと優月を見つめながら言う。

「…うん、元気だったよ。はる君は……少し隈ができた?お仕事忙しかった…?…あんまり寝れてない?」

 優月も陽仁を見つめ返す。陽仁は前と変わらずシミ一つない陶器のような肌に美し顔立ちであるが、その目元にはうっすらと隈がにじんでいた。

「うん。仕事はそんなに忙しくなかったけど、隣にゆづがいないから寝れなかった。」

 陽仁が少し拗ねたような口ぶりで言う。久しぶりの陽仁の甘い言葉に優月はかあっとほほに熱が集まり、何も言葉を返せなかった。

「…ゆづ、こっち、来て?」

 陽仁が優月に伺う。優月は静かに頷き、陽仁の足の試打に収まると陽仁が先ほどのように後ろから優月を抱きしめた。一緒に住んでいた時はソファーの上で陽仁がよくこうしたり膝の上にのせたりしてきて、なんでもない時間を一緒に過ごしていた。しかし、今日の抱きしめ方にはいつもとは違う点があった。いつもは脇の下から手を入れてぎゅっと体に密着させるのだが、今日は優月の肩の上から腕を回し優月を包み込むように抱きしめている。

「……もう、知ってるの?」

 優月が陽仁に尋ねる。この抱きしめ方は、明らかに優月のお腹に触れないようにとの配慮からだろうと気づいたのだ。

「…うん。」

 陽仁は短くそう答えた。

「…そう。」
「……俺も、触っていい?俺との子…なんでしょ?」

 陽仁が優月に伺う。

「…うん、そうだよ。……そんなこと、分かってるくせに。」
「ゆづから直接聞きたかったから。」

 陽仁がそっと優月の腹を撫でる。

「ちょっとぽっこりしてる。……ここに、俺たちの子どもが…?」
「…そうだよ。」

 優月は首肯する。おそらく陽仁はもう何もかも知っている。そもそも初めに病院に行ったときはチョーカーもスマホもそのままだったし、この場所まで分かったということは、いまさら何を隠しても無駄だろうと思った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

処理中です...