20 / 41
ある使用人の忙しい日々ー使用人sideー
20
しおりを挟む 小指を絡める約束方法など知るはずもなく、ローズは停止する。だが、冨岡が口にした『大人と子どもではなく』という言葉は彼女の心を確実に揺らしていた。
「子ども扱いしないってほんと?」
ローズに問いかけられた冨岡は優しく頷く。
「約束に大人も子どももありませんよ。俺とローズお嬢様の約束です」
「じゃあ、私に押し付けるようなことしない?」
その時ローズが言葉にしたのは素直な気持ちなのだと、冨岡は気づいた。年齢に相応しい話し方と甘えたような声色。それが演技であればすぐさま女優になれるだろう。全米が涙することも、権威ある女優賞を受賞することも間違いない。
その言葉から察するに、これまで様々な大人に『理想のお嬢様』を押し付けられてきたことは間違いない。
彼女には彼女なりの理由がありそうしているのだ、と薄々気づいている冨岡はローズの右手に小指を近づけた。
「押し付けるようなことはしないと約束しますよ。ほら、ローズお嬢様も小指を出してください」
「小指・・・・・・これは一体なんなの?」
「あ、そっか。これは俺の国で約束を交わす時にする、儀式のようなものです」
「儀式?」
「そうですよ、小指で固い約束を交わすんです。これは重い重い儀式ですから、約束を破ると針を千本飲まなければなりません」
冨岡がそう説明するとローズは左手で右手の小指を握って隠す。
「そんなことしたら死んじゃうじゃない!」
「ええ、命がけの約束です」
想像していたよりも彼女が大きく反応したことで、思わずにやけそうになるのを我慢する冨岡。決して馬鹿にしているわけではなく、ローズを子どもらしく可愛いと思ってしまったのだ。
そんなローズは少し怯えた表情で言葉を返す。
「野蛮過ぎないかしら、あなたの国」
「それほど約束を大切にする国なんです。そんな国から来たこんな俺との約束なら安心でしょう? 俺はお嬢様に何かを押し付けるようなことはしません。だから、俺にお嬢様と話す時間をください。約束です」
再び冨岡はローズとの指切りを試みる。
ここまで驚いてばかりのローズだったが、幼いなりに冨岡がまっすぐ自分と向き合ってくれていると気づき小指を絡めた。
「約束を破ったら本当に針を千本飲むのね?」
慎重に確認を怠らないローズ。考えるまでもなく、冨岡は頷いた。彼の根底には『ホース公爵の後ろ盾を得るため』という目的はあったが、今は『ローズの話を聞きたい』と心から思っている。『困っている人がいれば助けられる人間であってくれ』という源次郎の言葉が冨岡の行動に大きく影響していた。
「もちろんですよ」
「私は公爵家の娘よ? 針を用意することなんて簡単なんだから」
「約束は互いにですから、ローズお嬢様が飲むことになるかもしれませんよ?」
「子ども扱いしないってほんと?」
ローズに問いかけられた冨岡は優しく頷く。
「約束に大人も子どももありませんよ。俺とローズお嬢様の約束です」
「じゃあ、私に押し付けるようなことしない?」
その時ローズが言葉にしたのは素直な気持ちなのだと、冨岡は気づいた。年齢に相応しい話し方と甘えたような声色。それが演技であればすぐさま女優になれるだろう。全米が涙することも、権威ある女優賞を受賞することも間違いない。
その言葉から察するに、これまで様々な大人に『理想のお嬢様』を押し付けられてきたことは間違いない。
彼女には彼女なりの理由がありそうしているのだ、と薄々気づいている冨岡はローズの右手に小指を近づけた。
「押し付けるようなことはしないと約束しますよ。ほら、ローズお嬢様も小指を出してください」
「小指・・・・・・これは一体なんなの?」
「あ、そっか。これは俺の国で約束を交わす時にする、儀式のようなものです」
「儀式?」
「そうですよ、小指で固い約束を交わすんです。これは重い重い儀式ですから、約束を破ると針を千本飲まなければなりません」
冨岡がそう説明するとローズは左手で右手の小指を握って隠す。
「そんなことしたら死んじゃうじゃない!」
「ええ、命がけの約束です」
想像していたよりも彼女が大きく反応したことで、思わずにやけそうになるのを我慢する冨岡。決して馬鹿にしているわけではなく、ローズを子どもらしく可愛いと思ってしまったのだ。
そんなローズは少し怯えた表情で言葉を返す。
「野蛮過ぎないかしら、あなたの国」
「それほど約束を大切にする国なんです。そんな国から来たこんな俺との約束なら安心でしょう? 俺はお嬢様に何かを押し付けるようなことはしません。だから、俺にお嬢様と話す時間をください。約束です」
再び冨岡はローズとの指切りを試みる。
ここまで驚いてばかりのローズだったが、幼いなりに冨岡がまっすぐ自分と向き合ってくれていると気づき小指を絡めた。
「約束を破ったら本当に針を千本飲むのね?」
慎重に確認を怠らないローズ。考えるまでもなく、冨岡は頷いた。彼の根底には『ホース公爵の後ろ盾を得るため』という目的はあったが、今は『ローズの話を聞きたい』と心から思っている。『困っている人がいれば助けられる人間であってくれ』という源次郎の言葉が冨岡の行動に大きく影響していた。
「もちろんですよ」
「私は公爵家の娘よ? 針を用意することなんて簡単なんだから」
「約束は互いにですから、ローズお嬢様が飲むことになるかもしれませんよ?」
21
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

視線の先
茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。
「セーラー服着た写真撮らせて?」
……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!


モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ
雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け
《あらすじ》
高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。
桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。
蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる