君は俺の光

もものみ

文字の大きさ
上 下
7 / 41
決意ー優月sideー

7

しおりを挟む
 不安な心持ちで待つ優月に、医師は告げた。検査後なぜか産婦人科に通された時からおかしいと思ってはいたが、この時は医師の言葉が理解できなかった。

「にん、しん…?」
「ええ、五週目ですね。おめでとうございます。」

 五週目…ちょうど前のヒートの時だ。そういえば今月はヒートが来ていないなと思っていたところだった。前のヒートの時もちゃんと避妊していたはずなのだが…。

「そ、そんな…。」
「…?…もしかして、望まないことですか?今でしたらまだ、手術も可能ですよ。」

 望まないこと?無論だが、相手は陽仁だ。優月は生まれてこのかた陽仁以外と行為に及んだことがない。つまり、お腹にいるのは陽仁との子供。それが、望まないこと?

「いえ!!その、」

 気がついたら否定の言葉が出て、目の前が滲んでいた。目が潤んで大粒の涙が溢れ出す。陽仁と美女のことを知った時とは比べ物にならないほど、優月は泣いていた。

「え?!西原さん?大丈夫ですか?」

 担当していた女医が慌てて言う。女医は男のΩである優月への偏見もないようで、とても親切にしてくれていた。

「大丈夫、です…。…産みます。産ませてください。」

 優月が女医に向かって頭を下げる。涙はまだ止まらなかったが、これは決して悪い感情からではなかった。むしろその逆、嬉しくて、嬉しくて。優月は初めての感情で心がいっぱいになり、涙を溢れさせていた。

「西原さん…。もちろんですよ、頑張りましょうね。」

 そう言って女医は優月に涙を拭うためにガーゼを差し出してくれた。それからも女医は親身に話を聞き、優月が相手と自分は番ではなく、自分はすぐに引っ越すことになるかもしれないと言うと、複雑な事情を察してか何も聞かずに遠方の婦人科を紹介してくれた。

「そこはΩの出産のサポートに優れた病院なので、きっとここより設備が整っているはずです。…事情は分かりませんが、あなたの健康と幸せを祈っています。頑張って。」

 優月は女医に感謝を告げて病院を後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

朝起きたら幼なじみと番になってた。

オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。 隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた 思いつきの書き殴り オメガバースの設定をお借りしてます

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ
BL
親友をとられたくないという独占欲から、高校生男子が催眠術に手を出す話。 美形×平凡、ヤンデレ感有りです。完結済みの短編となります。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...