5 / 41
優月の過去ー優月sideー
5
しおりを挟む 無抵抗に体を差し出したバフォールにアランが持つブラッディソードが腹部を貫いた。ドクドクと剣が血を吸い取っていることを感じるほど剣が脈打つ。
「契約者の死は我の自由……。さあ、あいつが来る前に我を求めよ――――」
耳元でバフォールが囁くがアランは目を閉じ、剣がソルブの血を飲み込んでいくのをただ感じていた。全てを吸いつくすとバフォールの力が抜け、アランの胸からずり落ちるように倒れた。
「お前は簡単に契約者を捨てるんだな」
干からびたバフォールに向かってアランは吐き捨てるように言う。汚いものを見るかのようにバフォールを睨んでいるとモワっと黒い煙が上がる。アランは思わず後ずさり、剣を構えてその様子を注意深く見つめた。
煙は影となり、大きな二つの角、山羊のような耳、背中には大きなコウモリのような翼があるような形を形成していった。しかしその姿もまた苦しそうに立っている。
「それがお前の本来の姿か……哀れだな」
"……あのままいても本体と共に朽ちていた……お前の体をよこせ……さすればここから逃げることもできよう……さあ、望みを言え……手に入れたいものがあるのだろう……?"
「俺はお前と契約などしない」
アランははっきりとバフォールを拒絶をし、目の前の大きな黒い塊に剣を横から切り込んだ。しかし、影が散りじりとなるだけで当たることはなかった。
"くっくっく……お前はまだその剣を使いこなせてはいないようだ……"
身体の無くなったバフォールは、しつこくアランを誘う。黒い影がアランにまとわりついてくる。
"素直になるがいい。お前の心は何を求めている……? 本当は――――"
「いい加減にしろ!」
「アラン!」
アランが声を張り上げたその時、セイン王子が背後から走ってくる。
"一番知られたくはないやつが来たな……俺があいつに教えてやろうか? くっくっく……その体を差し出せば秘密を守ろう……"
アランの耳元で小さく囁く。アランの剣を持つ手が震える。手の中のブラッディソードが相変わらず禍々しい色で鈍い光を放っていた。
「アラン、退いて!」
セイン王子は影となったバフォールに光の剣を両手で振り上げ、飛び掛かる。しかしバフォールはアランの背後へ素早く移動をしたため、アランはセイン王子の振るう剣を受け止めた。後ろからバフォールの声が囁く。
"セイン王子よ……お前はこの者の想いを知らない……これ程までに苦しんでいる原因は――――"
「いい加減黙れ! 根拠がない!」
アランは怒鳴り声をあげ、セイン王子の剣を弾いた後、背後のバフォールに斬りかかる。バフォールはセイン王子に何かを伝えようとしているようだった。アランの苛立ちがセイン王子に伝わり、二人を交互に見る。
俺たちの仲を引き裂こうとしているのか?
「アラン! こんなやつの言葉に耳を傾けちゃダメだ!」
「分かってる! お前は、真実ではないことを言って俺たちの動揺を誘っているだけだ!」
しかし、アランは実際には動揺をしていた。ただ、たとえセイン王子にバフォールの言う真実というものが知られたとしても魂を売るつもりはなかった。アランには信念がある。
――アトラスを守る!
アランは再度剣を振るう。肉体のないバフォールは、今までと同様に剣で切り裂こうとしてもすぐにすり抜けてしまった。しかし今回は、すり抜けた瞬間にアランの持つ剣がドクンと脈打つ。剣を見ると、すり抜けたはずの剣から赤い無数の蜘蛛の糸ようなものがバフォールにまとわりついていた。その糸は蛇のようにうねうねと這い回る。
これなら煙のように散り散りにならない。
"っ! これがお前が引き出した力か……!"
「レイ! 早く!」
「言われなくても! バフォール、人の気持ちを弄ぶのも大概にしろ!」
バフォールの背後にまわったセイン王子は、すべての魔力を剣に注ぎ込む。今まで囲っていた光の壁までをも吸収していく。
その光が全て剣に集まると、セイン王子は勢いをつけるために剣を後ろに引いた。
赤い糸が張り巡らされた身動きの取れないバフォールもまた最後の足掻きをする。
"この者はおまえの―――"
「もう煩いんだよっ!!!!」
セイン王子が力を込めて背中の翼と翼の間に剣を突き刺す。
"ぐ、ぐはぁあああああっっ!!"
手ごたえはある。刺し込んだ手元、バフォールの内側から光が次々と侵食していく。
「俺とアランの間にもし何かあったとしても俺はアランを信じる! 俺たちの仲を裂こうとしたって無駄だ!」
さらに剣に魔力を込めるとバフォールの体全体が輝き、一気に弾け飛んだ。光の雨が降り注ぎ、その場にいた全員が息をするのも忘れて見入った。何が起きたのか頭の整理が出来ていなかったのだろう。誰もが声を発しなかった。
「終わった……?」
最初にその沈黙を破ったのはセイン王子だった。
「……」
「終わったの?」
「……ああ、終わったみたいだな……」
もう一度問いかける。目の前に立つアランも放心状態だった。お互いの目が合うと、じわじわと実感が込み上げてくる。
二人は片手を上げ、思いっきり手を振り、高い音を響かせた。
そんな二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
「契約者の死は我の自由……。さあ、あいつが来る前に我を求めよ――――」
耳元でバフォールが囁くがアランは目を閉じ、剣がソルブの血を飲み込んでいくのをただ感じていた。全てを吸いつくすとバフォールの力が抜け、アランの胸からずり落ちるように倒れた。
「お前は簡単に契約者を捨てるんだな」
干からびたバフォールに向かってアランは吐き捨てるように言う。汚いものを見るかのようにバフォールを睨んでいるとモワっと黒い煙が上がる。アランは思わず後ずさり、剣を構えてその様子を注意深く見つめた。
煙は影となり、大きな二つの角、山羊のような耳、背中には大きなコウモリのような翼があるような形を形成していった。しかしその姿もまた苦しそうに立っている。
「それがお前の本来の姿か……哀れだな」
"……あのままいても本体と共に朽ちていた……お前の体をよこせ……さすればここから逃げることもできよう……さあ、望みを言え……手に入れたいものがあるのだろう……?"
「俺はお前と契約などしない」
アランははっきりとバフォールを拒絶をし、目の前の大きな黒い塊に剣を横から切り込んだ。しかし、影が散りじりとなるだけで当たることはなかった。
"くっくっく……お前はまだその剣を使いこなせてはいないようだ……"
身体の無くなったバフォールは、しつこくアランを誘う。黒い影がアランにまとわりついてくる。
"素直になるがいい。お前の心は何を求めている……? 本当は――――"
「いい加減にしろ!」
「アラン!」
アランが声を張り上げたその時、セイン王子が背後から走ってくる。
"一番知られたくはないやつが来たな……俺があいつに教えてやろうか? くっくっく……その体を差し出せば秘密を守ろう……"
アランの耳元で小さく囁く。アランの剣を持つ手が震える。手の中のブラッディソードが相変わらず禍々しい色で鈍い光を放っていた。
「アラン、退いて!」
セイン王子は影となったバフォールに光の剣を両手で振り上げ、飛び掛かる。しかしバフォールはアランの背後へ素早く移動をしたため、アランはセイン王子の振るう剣を受け止めた。後ろからバフォールの声が囁く。
"セイン王子よ……お前はこの者の想いを知らない……これ程までに苦しんでいる原因は――――"
「いい加減黙れ! 根拠がない!」
アランは怒鳴り声をあげ、セイン王子の剣を弾いた後、背後のバフォールに斬りかかる。バフォールはセイン王子に何かを伝えようとしているようだった。アランの苛立ちがセイン王子に伝わり、二人を交互に見る。
俺たちの仲を引き裂こうとしているのか?
「アラン! こんなやつの言葉に耳を傾けちゃダメだ!」
「分かってる! お前は、真実ではないことを言って俺たちの動揺を誘っているだけだ!」
しかし、アランは実際には動揺をしていた。ただ、たとえセイン王子にバフォールの言う真実というものが知られたとしても魂を売るつもりはなかった。アランには信念がある。
――アトラスを守る!
アランは再度剣を振るう。肉体のないバフォールは、今までと同様に剣で切り裂こうとしてもすぐにすり抜けてしまった。しかし今回は、すり抜けた瞬間にアランの持つ剣がドクンと脈打つ。剣を見ると、すり抜けたはずの剣から赤い無数の蜘蛛の糸ようなものがバフォールにまとわりついていた。その糸は蛇のようにうねうねと這い回る。
これなら煙のように散り散りにならない。
"っ! これがお前が引き出した力か……!"
「レイ! 早く!」
「言われなくても! バフォール、人の気持ちを弄ぶのも大概にしろ!」
バフォールの背後にまわったセイン王子は、すべての魔力を剣に注ぎ込む。今まで囲っていた光の壁までをも吸収していく。
その光が全て剣に集まると、セイン王子は勢いをつけるために剣を後ろに引いた。
赤い糸が張り巡らされた身動きの取れないバフォールもまた最後の足掻きをする。
"この者はおまえの―――"
「もう煩いんだよっ!!!!」
セイン王子が力を込めて背中の翼と翼の間に剣を突き刺す。
"ぐ、ぐはぁあああああっっ!!"
手ごたえはある。刺し込んだ手元、バフォールの内側から光が次々と侵食していく。
「俺とアランの間にもし何かあったとしても俺はアランを信じる! 俺たちの仲を裂こうとしたって無駄だ!」
さらに剣に魔力を込めるとバフォールの体全体が輝き、一気に弾け飛んだ。光の雨が降り注ぎ、その場にいた全員が息をするのも忘れて見入った。何が起きたのか頭の整理が出来ていなかったのだろう。誰もが声を発しなかった。
「終わった……?」
最初にその沈黙を破ったのはセイン王子だった。
「……」
「終わったの?」
「……ああ、終わったみたいだな……」
もう一度問いかける。目の前に立つアランも放心状態だった。お互いの目が合うと、じわじわと実感が込み上げてくる。
二人は片手を上げ、思いっきり手を振り、高い音を響かせた。
そんな二人の顔には笑顔が浮かんでいた。
12
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

視線の先
茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。
「セーラー服着た写真撮らせて?」
……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる