好きな人の「好き」を信じられない僕には、会長の束縛じゃ物足りません

迷路を跳ぶ狐

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44.あなたのそばにいるのは

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 あまりにもひどい言い方に、ドアの外のフォーラウセは、黙り込んでしまう。

 この部屋には結界が張られている。ドアを叩くなんて真似をするためには、相当な魔力を使うはず。
 それなのに、セルラテオはフォーラウセを怒鳴りつける。

「お前は外にいろ! 邪魔だ! 余計な口を挟むな!!」

 我慢できなくて、僕は叫んだ。

「あ、あの人……あなたを心配してるんです! それなのに、そんな言い方、あんまりだ!! お前を心配してるんだぞ!」
「黙れっっ……! あんな奴、ただの駒だ! 使い走りの道具が何を言おうが、うるさいだけだ!!」
「お前っ……!」
「ディトルスティ!! 俺をみろ!! あんな男よりっ……! 俺の方が魅力的だろう!」
「ふざけるなよ……会長以上の人なんているわけねーだろ!! 会長以外なんて、僕の目に入ってないんだよ!!」
「お前は……俺のものだ。誰のものでもない!! 俺のものだ!」

 あー……鬱陶しい。なんでこんな奴の相手をしているんだ。

 こんな奴の話を聞いて、気分が悪くなりそう。もう、早く終わらせよう。

 僕はセルラテオに向かって、弱い風の魔法を放った。威力はないけど、驚いたセルラテオに隙ができる。

 僕はその隙に、セルラテオが持つ結界の鍵を掠め取ろうとした。けれど、そいつは僕から飛び退いてしまう。

 失敗だ。

「ディトルスティ……どうしても、俺のものになる気はないのか……? ディトルスティ…………ディトルスティ!!」

 魔力、まだ完全には戻ってない。結界くらい解かないと、こいつを一撃ではやれない。下手に抵抗されると、外にいるみんなまで危険だ。

 だけどそこで、激しくドアを叩く音がした。

「セルラテオ様! セルラテオ様!! どうかっ……!」

 フォーラウセの声だ。
 あいつ、よほど魔力を使って結界の中に干渉してるんだ。このままだと、魔力の使いすぎで彼自身も危ないかもしれない。

「あ、開けてやれよ……! あんなにお前を心配してるんだっ……! このままじゃ、フォーラウセが危険なの、お前にも分かるだろ!!」
「黙れ。あいつは物だ。俺に従うためだけにあるものだ」
「何……言って……」
「そんな物に、なぜ俺が配慮しなくてはならない!?」
「うるさい下衆っ……!! お前、あいつの気持ち知っててあいつのこと使ってるのかよ!!」
「ディトルスティ……俺、洗脳の魔法を覚えてきたんだ……お前は……お前は俺のものだ!! そうであるべきなんだ!」
「勝手なことばかり言うな!!」

 もうこれ以上、放っておけない。
 ドアを叩くフォーラウセに、セルラテオが怒鳴って振り向く。今しかない。
 僕は風の魔法で相手の足を狙い、そいつが体勢を崩した隙に、鍵を奪い取った。

 同時に、僕の背後で、大きな爆発の音がした。生徒会室のドアが粉々に砕け散り、部屋の中に飛び散る。
 とっさにソファの影に隠れたけど、そうしなかったら、体にドアの破片が突き刺さっていただろう。

 部屋にフォーラウセが飛び込んでくる。その右手は氷が張り付き腫れていた。感情のままに強い魔法を使ったせいだろう。

 会長も、僕に駆け寄ってきてくれた。

「ディトルスティっ……!」
「会長っ……ま、まさか、結界を破壊したんですか……!?」

 王家が用意した結界を破壊するなんて、並大抵のわざじゃない。会長の体にだって、ひどい負担がかかるはず。
 けれど会長は、僕を抱きしめて言った。

「俺とフォーラウセで破壊した。よかった……無事で……」
「ぼ、僕は大丈夫ですっ……! それよりっ……!」

 僕は、会長の手を振り払って、フォーラウセまで走った。
 彼は、半分凍りかけた手を引きずって、セルラテオに近づいていく。異様な様子だった。きっと、魔力の制御がうまくいってないんだ。

「セルラテオ様…………」
「な、なんなんだお前は!! なぜ入ってきた!? 結界を破壊してどうする!?」
「……だ、だって……セルラテオ様! なぜ俺まで締め出すんですか!! 俺は……あなたのためにここまで来たんです! あなたが望むからっ……! だからっ……な、なのに、なんで俺までっ……!!」
「黙れ役立たずっ!! 貴様には用はない! 失せろと言っているだろう!」
「……っ!」

 カッとなったのか、フォーラウセの腕から氷の剣がいくつも生まれる。だけど、結界の破壊で無茶をしたらしい彼の腕からは、血が流れていた。

 このままじゃ、自分のことすら傷つけてしまう。僕はフォーラウセに抱きついて、彼を止めた。

「や、やめろっ……!」
「離せっ……! なぜお前が止めるんだっ……! 俺はっ……俺はセルラテオ様にっ………………セルラテオ様! 俺をそばに置くと言ってくれましたよね!? 俺だけっ……俺だけ使うって……俺だけって!!!! 俺だけ……あなたのそばにいるのは俺だけだっっ!!」
「お、落ち着いてっ……!! せ、生徒会室で騒ぎは困ります!! お願いっ……!」
「邪魔だ!」

 暴れるフォーラウセは、僕を突き飛ばす。セルラテオに氷の魔法をかける気だったようだが、魔力がうまく扱えずに、周りの壁も、もう凍りかけている。

 すると会長が、彼に魔法をかけて、眠らせてくれた。

 セルラテオは腰が抜けたのか、へたり込んでいる。

 マモネークとヴィユザも駆け込んできて、それを見たら、僕もホッとして、体の力が抜けてしまった。
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