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33.気を付けろよ

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 ヴィユザは僕にパンを渡して、自分は僕が抱えていた紙袋を持ち上げた。

「運んでやるよ。部屋まで。重いだろ?」
「だ、大丈夫だよ。ここにくる前はもっと重いの運んでたし……」
「いいから。任せろ。せっかくの菓子パンが落ちたら大変だからな!」

 そう言ってヴィユザは、すでに二個目のパンに手を伸ばしてる。本当に甘いもの好きなんだな……

 僕は、彼にお礼を言って、ロヴアーラに振り向いた。

「……ロヴアーラさん。最近、魔法具がこの学園の関係者に売られた話って聞いたことありませんか?」
「魔法具? どういうこと?」
「……もしかしたらそのうち、詳しく聞くことがあるかも知れないので」

 ロヴアーラだったら、あの時埋まっていた魔法具の仕入れ先を調べることができるかも知れない。
 とはいえ、今回のことは、陛下の目の前で起こったこと。僕が勝手に、部外者に詳細を話すわけにはいかない。会長に相談してみよう。

 彼もその辺りは理解してくれているらしく、微笑んで言った。

「トウィント様のお役に立てるなら、俺たちは何だってする!! いつでも言ってー」
「はい……」
「じゃあ。俺はこれで! ディトルスティ、パン、ちゃんと売り込んでおいてね!!!! 絶対だよ!!」

 そう言って、ロヴアーラは僕に手を振って廊下を去っていった。

 相変わらずだな。あの人……だけど、あの人があんな風だから、僕はあそこで道具扱いされずに済んだんだ。

 二人になってから、ずっと菓子パンを食べていたヴィユザが、急に黙って立ち止まった。

「……なあ。ディトルスティ」

 僕が振り向くと、ヴィユザは、急に真剣な顔で僕を見つめていた。

「さっきの演習……気づいてたか?」
「会長にしかけられた罠のこと?」
「そうじゃなくて、物見櫓の方だよ!! お前、あそこに公爵閣下や陛下がいらっしゃること知っててあんな目立つことしただろ!」
「め、目立ってた? でも僕、今回は誰かに手を出したわけじゃないよ?」
「そうじゃなくて、貴族たちみんな、お前を見てた。みんな、お前の力に興味があるんだ。少しは気をつけたほうがいい。セルラテオだって、お前のこと睨んでたぞ」
「僕を……? ……あんな奴に負けないから大丈夫……むしろ、あっちからきてくれるなら、ちょうどいいよ。今度こそ……二度と会長に手を出せないようにしてやる」
「……俺は心配だよ。お前……会長以外のことには、極端に鈍そうだから」
「会長以外のことなんて、興味ないよ……」
「……気を付けろよ。お前のことだって、狙ってくるかも知れないんだからな」
「……何でそんなに心配するの……」
「そんなの、決まってるだろ! 仲間だからだよ!」

 そう言ってヴィユザは、何度も僕の頭を撫でていた。会長以外に触れられても困るんだけど……それでも、悪い気はしない。なんだかヴィユザって、調子狂う。さっきまで、怒りばかり感じていたのに、ヴィユザがこんな風だから、少し落ち着いちゃったじゃないか。

「……あの、ヴィユザ」
「なんだ?」
「……さっき、その……演習の時に、か、回復してくれて……ありがと」
「そんなの気にすんな!! とにかく、今日はちゃんと休めよ! 明日は朝から生徒会室だろ!?」
「うん……あ、もう、ここまででいいよ」
「なんでだよ? 部屋まで行くぞ?」
「でも、ヴィユザの部屋、こっちとは反対方向だろ? ヴィユザも、早く休んだほうがいい」
「そうか? 分かった! じゃあ、また明日な!! 会長になんかされたら言えよ!」
「会長は、僕の嫌がることはしないよ。ヴィユザ!? 聞いてる!?」

 大事なことなのに、ヴィユザは僕に手を振って廊下を走って行ってしまう。たまに困るけど……あいつといるのも、なんだか心地よく思えてきた。
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