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32.僕の方が腹を立ててる
しおりを挟む演習は、その後は特に何事も起こらずに終わった。
だけど、授業が終わり、寮の廊下を自分の部屋に帰るために歩く間も、僕はイライラして仕方がなかった。
「会長を狙った罠を仕掛けるなんて……悪ふざけがすぎる!!」
怒りを露わにしていると、隣を歩くヴィユザが「落ち着けよ」って言って、僕を宥め始める。だけど、こんなの落ち着けるはずがない。会長を狙っている奴がいるのにっ……!
「落ち着けるはずがないだろ!! あいつ……僕の会長が怪我したらどうしてくれるんだ!!」
「会長は……平然としていたし、大丈夫なんじゃないか? それに今、マモネーク先輩が、魔法がかけられた辺りを風紀委員と調べてるだろ。最初にお前が見つけた、無害っぽい魔法の主を調べるのは難しそうだけど、地中深くに隠されていた魔法具を使った犯人は、魔力が使われた跡を探る薬で見つかるだろ」
「そうだけど……」
さっき演習場でセルラテオの魔法を見たけど、彼に魔力のあとを隠すような魔法は使えなさそうだし、あんな風に、貴族たちが集まる場所で問題を起こしたんだ。いかに公爵令息と言えど、お咎めなしでは済まないはず。
これで、会長に手を出すのをやめればいい。
だけど埋めた犯人が見つかったって、会長を狙ったって証明できるわけじゃない。魔法の練習をしていて失敗して埋まったものって言われたら、随分処分が軽くなりそう。
セルラテオめ……今のうちに僕が葬ってやりたい。
「僕も、証拠探しに加わりたかった……」
「……やめとけ。見つかったら、すぐにでもセルラテオのところに殴り込みに行きそうな顔してるから」
「……」
「それにしても、あいつもどうかしてるよな……陛下や他の貴族がいる前で、あんなことするか? よほど会長に腹立てて……あ、いや、なんでもない……」
僕の怒りの表情に気付いたのか、ヴィユザの声がだんだん小さくなる。
僕の方が、絶対腹を立ててる。
もうこれ以上、会長に変な手出しさせるもんか!
そんなことを考えながら歩いていたら、廊下の反対側から、誰かが僕に手を振って近づいてくる。
僕を雇っていた商人たちのうち、中心的な役割を果たしていたロヴアーラだ。
買われた僕を、道具同然に扱う奴らばかりだった中で、彼は僕を人間扱いしてくれた。
素気ない態度だったけど、僕が屋敷でトウィント様に食事に誘われてからは、ますます態度が軟化した、わかりやすい人でもある。
とはいえ、そうなる前から殴られたり理不尽なことをされることはなかったから、僕は彼には感謝してるんだ。
だけど、何でここに?
「お久しぶりです……ロヴアーラさん」
「いいよー。挨拶なんてー。トウィント様とはうまくやってるのか???」
「…………はい」
会長のことを思い出しながら答えて、ヴィユザに彼を紹介すると、ロヴアーラは、少し驚いたように言った。
「……お、お前に……き、貴族の友人ができるとは……」
「………………なんでここにいるんですか?」
「ああ、これだよ」
そう言って、彼は持っていた紙袋を見せてくる。中にはたくさんのパン。会長が好きで、伯爵もここのパンが好きだったから、僕はよく伯爵家にこのパンを運んでいたんだ。
「ここのパン、トウィント様のお気に入りだから、ここの食堂とかカフェで使ってくれないかなーって思って、売り込みに来たんだ! ディトルスティも、宣伝しといてね!!」
そう言って彼は、僕に大量のパンが入った紙袋を渡してくれる。だけど、こんなに食べられない。
「あ、あの……重いです……」
抱えるほど大きな紙袋に、溢れるほどパンが詰まってて、紙袋が動いた瞬間、パンが一つ、落ちかけた。それをヴィユザが受け止めて、口の中に入れてしまう。
「うまいじゃないか! これ。甘くて俺の好みだぞ!」
「本当ですか!? これ、俺の地元で採れた小麦粉を使ってて、砂糖は妖精の国から取り寄せた一級品なんです!! ヴィユザさんの城まで届けられますよ!」
「城ってほどのもんは俺の家にはない! ディトルスティも食えよ! うまいぞ! これ!!」
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