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26.会長の隣

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 セルラテオのことばかり考えてしまう僕の目の前に、いきなりパンが出てきた。びっくりして我に返ると、会長が僕にパンを差し出している。

「はい、あーん」
「え!?? あ、は、はいっ……!」

 差し出されたものをパクッとくわえると、一気に口の中に甘みが広がる。会長に食べさせてもらうと、余計に甘くなるみたい。

「そんな顔しないで。ディトルスティは俺のそばにいればいい」
「はい……」

 頷くと、会長が微笑んだ。

 会長の笑顔って、本当にホッとする……好きです。誰よりも。

 こうしていることが、僕の幸せだ。会長のことは、僕が守ります。

 隣で食事ができることが嬉しくて、いつもより朝ご飯も美味しく感じる。パンにバターを塗っていたら、遠くから会長を呼ぶ声がした。

 会長と一緒に振り向くと、会長の友人のフラントが、こっちに向かって駆け寄ってくる。

「トウィントー。朝から見せつけてんなー」
「フラント……おはよう。見せつけてる気はないんだけどな……」
「……十分見せつけてるよ……気づけよ……お前」

 そう言ってフラントは、僕とは反対側の会長の隣に座る。

 会長の隣に人が……いや、何を気にしているんだ。フラントは、ただの友人。恋人は僕なんだし、気にすることない。

 だけど、距離が近い。それに、名前で会長を呼んでいる……

 だけどそんなことを気にしているのは僕だけみたいで、フラントもヴィユザたちも、もちろん会長も、普通に食事を再開してる。

「そういえば、今日、火炎の魔法の授業、あっただろ? 俺、あれ苦手でさー。コツ教えてよ」

 そう言って、ホットドッグを咥えるフラント。会長も「仕方ないな」なんて言いながら、火炎の制御の話をしている。なんだか楽しそう。

 普段、友達といる時はそんな風なんだ……

 僕といる時とは、少し違う。笑って、たまに小突かれたりしながら、やめろよなんて言ってる。

 楽しそう。

 あと、距離が近い。
 触りすぎな気がする……僕だってそんなに触ったことないのに。

 ……って、フラントはただの友人なのに、僕は何を気にしているんだ。

 会長と同学年の彼は、これから会長と同じ授業を受けるんだ。

 いいな……会長の友人って。
 恋人の僕とはしない話もしたりするんだろうな……
 僕は会長の恋人だけど、友人とすることも、僕としてほしい。友人の役割も、僕に欲しい。そんな風に考えるのは、わがまま??

 すると、ディトルスティは、食べていたものを飲み込んで時計を見て、会長の耳に自分の顔を近づけた。

「トウィント……あのさ、ちょっといいか?」
「ん? 何?」
「……今日の火炎の魔法の授業だよ。あっちの重鎮が絡んできてるって話」
「ああ……それか。分かった」

 そう言って、会長は立ち上がると、僕に振り向いた。

「ちょっと行ってくる」
「え?」

 そう言って、会長は立ち上がってしまう。

「すぐ戻るから」
「でもっ……」

 呼び止めようとした僕にキスをして、会長がフラントと一緒に食堂を出ていく。

 二人で何の話をしていたんだろう。僕も聞きたかった。会長が聞く話は、僕も聞いていたい。

 会長が行ってしまった後も、会長のことばっかり考えていたら、すぐに見透かされたらしい。
 向かいに座ったマモネークが、「会長がいなくて寂しいですか?」って聞いてきた。

「そんなこと………………はい。やっぱり寂しいです」
「素直ですね」
「……会長の、そばにいたいので……」
「……」
「……」

 彼が黙って、僕も黙って、少し沈黙が続いたら我に返った。
 会長が友人と行っちゃったからって、こんなこと言ってちゃダメだ!!

「あ! ち、ちがっ……僕は! 会長を束縛する気なんて、全然ないんです! フラントさんはご友人って知ってますし、会長は会長として忙しいのも理解しています! ふ、不満に思ったりしてません!」
「……そうですか……」
「ほ、本当です! あの……すみません。僕がこんなこと言ってたなんて、か、会長には秘密にしてください。会長の重荷になりたくないんです……会長には、迷惑かけないって、決めたので……」
「もちろん言いませんが、これからうちの会長も迷惑をかけるでしょうし、そんなに気にしなくていいのではないでしょうか?」
「……」

 うちの会長、じゃなくて、僕の会長、な。

 ……違う違う。こんな言葉の端っこ一つで目くじら立てるな。

 決めたんだ。会長に迷惑かけない、会長が困ることしないって!

 かぶりを振って、浮かんだ余計な嫉妬を打ち消そうとしていたら、ヴィユザが心配そうに言った。

「頭、どうかしたのか?」
「……どうかしてるのは君だよ。それ、なに?」

 彼はパンケーキの皿に、なみなみとシロップをかけて、その上から砂糖を振っている。最初からシロップかかってて粉砂糖もかなり振ってあるのに。

「俺は甘いのが好きなんだよ。食うか?」
「……いらない」
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