18 / 46
18.この部屋、片付けてないじゃないか!
しおりを挟むか、会長と部屋に二人きり……もう、何をされてもいいです!
いやでもまだ心の準備がっ……! き、緊張するけど……もう大丈夫!
「じ、じゃあっ……! どうぞっ……!!」
僕は、ドアノブに手をかけた。
しかし。
ちょっと待て。
いや、かなり待て。
この部屋、片付けてないじゃないか!! か、会長を散らかった部屋に入れるなんてできない!
二人部屋だけど、ルームメイトがいなかったから、会長の写真もいっぱい並べてある。
あ! それに、魔法で作ったポスターとか会長の抱き枕とかも勝手に置いてあるんだ!!
いや……それよりもっとまずいものがあるんだ。自分でするときのために作った、会長そっくりな姿をしたもの。空気に魔法をかけて作った、人形みたいなものだ。空気だから、触れることはできないけど、僕が魔法をかけると、僕の命じたことを話してくれるやつ……こ、これを見られたらまずい!!
いつも部屋を出る前に消すんだけど、今朝は消すのが惜しくてそのままにっ……! あんなの見られたら……秒で嫌われる……というか、貴族への不敬で退学かも……
僕は、ぎこちない笑顔を浮かべて、会長に振り向いた。
「か、かいちょう……僕の部屋……あのその……ち、散らかってて……」
「そのほうが、普段のディトルスティが見れて、俺は嬉しい。ドア開けて」
間髪を入れずに言われて、威圧感まで感じるよ……だけど、怯んでる場合じゃない! 会長を入れるわけにはいかないんだ!!
「で、でも……あの! ご、ゴミも捨ててなくて……虫とか魔物とか……そうだ!! 魔法が暴走するかもしれません!」
「そんなの、俺が全部綺麗さっぱり消し去ってあげる」
「でもあの、あ、危ないし……す、少しだけ掃除させてください! 魔法を使うので、お待たせはしません! 僕、隠蔽の魔法が得意なんです!」
「ダメ」
「なんでですか!?」
「言っただろ? 今日から君は、俺の管理下に置かれる。勝手に掃除なんかしちゃダメ」
「そ、掃除もダメなんておかしいです! 掃除と、僕が公爵家に手を出したことと、どう関係が……」
「会長命令。ドア、開けて?」
「生徒会にそんな権限ないはずです!」
「じゃあ、俺の個人的な頼み事。ドアを開けて俺を中に入れて?」
「う、お願いしますうぅ…………ち、ちょっとだけ……十分、一分……いや、十秒でいいんです!」
「だめ」
……会長、頑な。だけど、この部屋に会長を入れるなんて、死刑と一緒だ。
会長に嫌われたくない……こうなったらドア越しに魔法をかけるか……?
悩んでいたら、会長がちょっと笑って言った。
「自慰の時に使ってるもの、見られたらそんなに困る?」
「………………え?」
い、今、なんて?? き、き、き、気づかれてるの?? 嘘……あれを誰かに見られたことなんてないのに!!
焦る僕が、あまりの事実に固まっていると、会長は僕の横をすり抜け、ドアノブに手をかけてしまう。
とっさに僕は、ドアに鍵の魔法をかけた。これは、禁書の魔法を使ったものだ。会長でも開けられないはず!
だけど会長は、それをあっさり開けた。
そして中に入っていく。
え……?? なんで?? この魔法を打ち破ってドアを開いた人なんて、今までいなかったのに!!
「会長! まっ……待ってください!」
「俺、鍵を開ける魔法は得意だから」
「あ、あ…………待って!!」
慌てて部屋に入った僕だけど、もう遅い。会長は会長そっくりの姿をしたものが、ベッドに座っているのを見つけてしまう。
終わった……そんな風に思ったのに、会長はそれを見て、微笑んだ。
「これ、俺?」
「あ、あの……その……」
「空気に魔法をかけたのか……すごいな……こんなことまでできるんだ……すごいけど、あんまり使わないほうがいいよ? 貴族たちに目をつけられちゃうから。こっちは二人で撮った写真だよね? こんなにたくさん……大事にしてくれてるんだ」
「え、えーーっと……ち、違う……違うんです……け、決して僕が並べたわけではなく……あの、ある日、空から降ってきて、気づいたら僕の部屋にあって…………」
混乱した頭で、言い訳にもならない言い訳を並べていたら、案の定、会長は噴き出してしまう。
「それ、いいわけ? 咄嗟に思いついたの?」
「……ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ。知ってたし」
「へ!?? な、なんで……!??」
「……俺も魔法使いだから。こっそり、ディトルスティのこと、全部見てた」
「ぼ、僕を……?」
「たまに商人たちに怒鳴られてたりしただろ? もう大丈夫?」
「は、はい……だい、じょうぶです……会長のところに出入りするようになってから……何もされなくなりました」
あ、あれって、もしかして、会長のおかげなのかな……
「あのっ……か、会長! 僕……」
「どうしたの?」
「えっと……あ、ありがとうございました……あの時から……いろいろ気にかけていただいて……」
「……そんなの、気にしなくていいんだよ。俺、ずっとディトルスティのこと、好きなんだから」
「会長……」
嬉しい……会長……そんな風にしてくれてたんだ……急に商人たちの態度が変わったから、もしかしてって思ってたけど……
また鼓動が大きくなる。会長といると、ずっとドキドキして、心臓に悪いよ……
状況も忘れて俯いていたら、会長は、僕の顔を覗き込んできた。
「とりあえず、ここにあるの、片付けていい?」
「あ!! は、はい!! 僕、やります!! す、すみませんっ!」
「うん。じゃあ、ここにあるもの、消滅させるね」
「え? あ、はい……」
答えるより先に、会長は、消滅の魔法を使って、僕の部屋にあった会長に関するものを全部消し去ってしまった。
「あ……」
あまりにも一瞬すぎて、僕は何が起こったのかすら、分からなくなりそうだった。
会長に関するものが、全部なくなった部屋は、僕がここにくる前と、ほとんど変わらない気がする。授業のための教科書と、ずっと愛用していた魔法に関する本が数冊あるだけ。ひどくがらんとしていて、空っぽになる一歩手前。
本当に……全部消えちゃったんだ……二人で撮った写真は残して欲しかったのに。
だけど会長は、僕を見下ろして微笑んでいた。
「ごめんね? だけど俺、我慢できないから」
「……はい……」
「俺じゃないものに、ディトルスティが気を取られてるなんて」
「……え?」
「だって、写真なんて、俺じゃない。俺は、俺だけをディトルスティに見ててほしい。さっきも、俺よりヴィユザを見てただろ?」
「へ!? そ、そんなことないです。ヴィユザは、ただの友達で……」
「それに、俺と歩いてるのに、周りに集まった学生たちのこと、見てた」
「き、気づいていたんですか!?」
「もちろん……気づかないとでも思った? ずっと群衆に気を取られてた。俺と歩いてるのに……ね」
「会長……」
き、気づかれてたのか……確かにさっきは、周りの人が会長を見ているのが気になって仕方なくて、そっちに気を取られていた。
「さっきだって、ここにあるものに気を取られて、俺を部屋に入れるのを拒もうとしただろ? そんなの、許されると思った?」
「あ…………え、えっと……ごめん、なさい……」
何を謝っているのか、分からなくなりそうだ。へ、部屋に入れるの拒んだの、そんなに怒ってるの??
「あの……かいち……やっ!」
急に、何をするのかと思った。会長は僕の手をとり、押し倒す。そこにはベッドがあって、僕はそこで、会長に組み敷かれていた。
11
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
セカンドライフ!
みなみ ゆうき
BL
主人公 光希《みつき》(高1)は恵まれた容姿で常に女の子に囲まれる生活を送っていた。
来るもの拒まず去るもの追わずというスタンスでリア充を満喫しているつもりだったのだが、
ある日、それまで自分で認識していた自分というものが全て崩れ去る出来事が。
全てに嫌気がさし、引きこもりになろうと考えた光希だったが、あえなく断念。
従兄弟が理事長を務める山奥の全寮制男子校で今までの自分を全て捨て、修行僧のような生活を送ることを決意する。
下半身ゆるめ、気紛れ、自己中、ちょっとナルシストな主人公が今までと全く違う自分になって地味で真面目なセカンドライフを送ろうと奮闘するが、色んな意味で目を付けられトラブルになっていく話。
2019/7/26 本編完結。
番外編も投入予定。
ムーンライトノベルズ様にも同時投稿。
同室者の怖い彼と、僕は恋人同士になりました
すいかちゃん
BL
高校に入学した有村浩也は、強面の猪熊健吾と寮の同室になる。見た目の怖さにビクビクしていた浩也だが、健吾の意外な一面を知る。
だが、いきなり健吾にキスをされ・・・?
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる