14 / 46
14.冷静に冷静に
しおりを挟む戸惑う僕の手を強く握って、ヴィユザはボロボロ涙を流している。どうやらかなり涙脆い人らしい。
「感動した! こんな酷い目に遭いながら、お前を傷つけた俺を庇って……口汚く罵られても仕方ないのに……」
「べ、別に僕、ひどい目になんてあってない……だ、だからお願い。気に病まないで……それに、え、えっと……間違いは誰にでもあるし……多分、僕の方がひどいし……」
「俺はお前の心に惚れた!!」
「へ!?? あ、あの! 僕、本当にそんなつもりなかったんだ! 会長に会いたかっただけで……」
「俺は、お前のおかげで助かった!! 俺、多分一つでも問題起こしたら退学だった……本当に、助かったよ……」
「う、うん……あ、あんまり、感謝しないで……は、恥ずかしいし、僕にはそんな気なくて……」
「なんだよ! 照れんなよ!! 今日からダチだ!!」
「へっ!?? だ、だちって……ともだち??」
「もちろんだ!! 嫌か!? 俺と友達になるのは!」
「えっと……嫌じゃないけど……」
「じゃあ、よろしくな! 俺はヴィユザだ!」
「うん……知ってる。さっきから僕もそう呼んでるし……あ、えっと……僕は、ディトルスティ。よろしく……」
「ああ! よろしくな!」
ヴィユザは、僕の手を握ってブンブン振り回してる。痛い……
だけど、初めて友達ができてしまった。い、いいのかな? 多分ヴィユザ、またなんか誤解してるけど……心に惚れたって、なんなんだろう……
そしたら、会長が僕を引き寄せて、僕らの握る手を離してしまう。
「彼と俺は、付き合ってるから。気安く触らないでくれる?」
するとヴィユザが、会長にも負けない勢いで、彼にすごむ。
「聞いてますよ。生徒会長。だけど、それなら、こいつに味方するべきだろ。風紀委員と一緒になってこいつ追い詰めて、それでも会長っすか? それどころか、状況を利用して公私混同でこいつを束縛して、恥ずかしくないんすか?」
「君には分からないかもしれないけど、学園で問題が起こったのに、付き合ってるからなんて理由で、彼に味方することはできない。そんなことをすれば、彼だって責められる。公私混同だと言われる筋合いもないね。学園と風紀委員からの要望には答えている。貴族たちの方にも、ちゃんと手は回すから」
「……なんでも狡賢く渡り歩く伯爵家らしい発想だな……どうせてめえも貴族贔屓なんだろ? 伯爵令息様。貴族の機嫌だけとって、そいつを生徒会の管理下になんて、よく言えたな。処分が重すぎるだろ!」
「公爵令息に手を出して、しかも、君の周りにいた連中も、公爵の息のかかった御令息たちだ。無罪にすれば、風紀委員という組織が疑われるんだよ。それに、彼のことは、学園を取り巻く貴族が既に目をつけている。放っておけば、彼はもっと危ない目に遭うんだ」
「だったらこいつを守ることに力入れるべきだろ! 監視だの拘束だの、俺が許さねえからな! こいつは俺のダチだ!」
ヴィユザが言って、僕は慌てて、彼を止めた。会長は僕を守ってくれたのに、それじゃ一方的に会長が悪いみたいじゃないか!!
「ヴィユザ! やめろ……! 会長は悪くない!! 僕ら付き合ってるんだから……!!」
だけど二人とも、もう僕の話を聞いてない。背の高い二人は、僕の頭の上で睨み合っていた。
「風紀委員から任されたのは、そいつの監視だけだろ……余計な真似したら、俺が許さねえからな」
「君に何ができるの? だいたい、惚れたってなに? 惚れたって。ディトルスティに近づかないでくれる? 彼は俺と付き合ってるんだから」
「こまけえこと気にしてんなあ? そんなに自信がねえのか? 俺はただ、人としてそいつがすげえって言ってるだけだ。それをなんだ? 難癖つけて束縛か? 付き合ってるなら恋人の嫌がることすんな!」
ヴィユザが叫んだ言葉が、僕の胸に深き突き刺さる。
言葉だけなのに、む、胸が痛い……
すみません会長……盗み聞きと覗き見はもうしませんっ……って、毎回した後に思うのに………………会長のそばにいたいし、会長にどこへも行って欲しくないし、僕だけのものであってほしいし、他の人と僕の知らない場所にいるって思っただけで…………変に怖くて、恐怖を拭いたくて、同じことを繰り返している。
眩しすぎる言葉で胸が痛いよ……僕は屑です。
ズキズキする胸を抑える僕の前で、ヴィユザはますます、会長に詰め寄っていった。
「俺は一度、そいつを誤解で傷つけたんだ。だからそいつを守るのが、俺の償いだ。好きにはさせねえぞ。生徒会長」
「鬱陶しい男だな……とりあえず消えろよ。目障りなんだよ」
「ああ? そっちこそ、平民のそいつを見下しているくせに!」
「ディトルスティの前で薄汚い憶測はやめてくれる? 彼が傷つくだろ。身分は関係なく、お前には教養と配慮が足りない」
「なんだと!! 気取ってんじゃねえぞ!」
二人が睨み合う中、僕は二人を止めたけど、どっちも全然聞いてくれない。
マモネークも、二人を止める気は全くないらしく、彼は僕の前に屈んで、僕と目を合わせてきた。
「僕も、生徒会長がスキャンダルで失脚なんて嫌だし、生徒会のせいで学生が苦しむのは、本意じゃないんです。僕もそばいるから、困ったことがあれば、相談してください」
「え、えっと……」
「君も、問題になるのは嫌なんですよね?」
「はい!! 会長には……もう迷惑かけたくない……です……」
「じゃあ、約束です」
そう言って、彼は自分の小指を僕の小指に絡めて微笑む。即座にそれも、会長が引っ張って離したけど。
「俺の恋人に触らないでくれる?」
「会長……狭量だとモテませんよ? 冷静に冷静に。あと、カッとなってスキャンダルなんて、起こさないように。そろそろ帰りましょう。寮の夕飯の時間です」
12
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる