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5.悪巧みなんかしてるからです
しおりを挟む付き纏うって、僕が? 会長じゃない人の後を、僕が付け回したって言うのか?
冗談じゃない。僕は、会長以外になんて、なんの興味もない。会長じゃない人となんて、考えただけで寒気がする。
それなのに、ヴィユザは折れた杖を僕に投げつけてくる。それは、魔法の練習用のもので、小さな木の枝に似た簡素なもの。学園から配布されるものだけど、真ん中のあたりで無惨に折れてしまっている。これじゃもう使えない。
「これが、なに?」
僕がたずねると、ヴィユザは僕を指差して怒鳴った。
「とぼけんな!! それは、セルラテオ様のものだ!! お前がやったんだろう!!」
「はあ???」
何言ってるんだろう……この人。僕は、会長を追いかけるので忙しいんだ。それなのに、なんで他の人のことなんか気にしなきゃならないんだ?
頭に砂でも詰まってるのかな……って言いたいけど、完全なバカでもないみたい。
魔力を使ってその杖を見下ろすと、微かに、折れたあたりが光っている。
学園から配布される杖は、丈夫さ重視で選ばれているから、魔法を使わないと、素手で折るのは至難の業。そして、その折れた杖に残る微かな光は、水の魔法によってできた水滴だ。
水の魔法は、僕の得意な魔法。これを攻撃魔法として使う人はあまりいない。だからこれは僕のせい……っていう筋書きなんだろう。
少しくらいは、証拠を偽造してきたんだ。
「僕がそれに残った水を使った証拠でもあるんですか?」
「お前以外、やる奴いないだろ。フォーラウセも、お前がセルラテオ様の杖の周りをうろついてたのを見たって言ってる」
ヴィユザは、背後に立っていた四人のうちの一人を指して言ったけど、それは証拠にならない。言うだけなら、誰にでもできる。
「そんなの、どうにでも偽造できるだろ? それに、その杖だって、普段セルラテオ様が使っているものじゃないですよね?」
「なんでそんなこと分かるんだ?」
「なんでって……そんな、新品同様のもの持ってきて、何言ってるんですか……僕がセルラテオ様に付き纏っていて、彼に嫌がらせするなら、普段使っている、愛用の杖を折ると思います」
「それは……」
「見てください」
僕は、持っていたカバンの中から、一つの薬の瓶を取り出した。中には、無色透明な液体。
ヴィユザは首を傾げていたけど、取り巻きたちには、これがなんだか分かったらしい。顔色を変えていた。
「魔力が使われた跡を見つけるための薬です。その杖が、本当に普段からセルラテオ様が使っているものなら、これをかけたら跡が見えるはずですよね? やってみましょうか?」
折れた杖にそれをかけようとすると、ヴィユザの背後にいたフォーラウセが、慌てた様子で杖を取り上げてしまう。
そして、僕を睨みつけて喚いた。
「ひ、必要ない!! とにかく……お、お前がやったことに間違いないんだ!! 二度とやるな! 心の広いセルラテオ様が許すのも、今回だけだぞ!!!」
「そんな無理矢理な……僕は知りません」
「黙れ!! へ、平民のチビが!! そ、そんなもので揚げ足とるような真似して、ど、どういうつもりなんだよ!!」
「平民とかチビとか、今、全然関係ないです。それに、どうって言われても、困ります。僕は杖なんて知らないし、そっちこそ、セルラテオ様に言ってもらえませんか? 会長相手に嫉妬なんて、見苦しいだけですよ」
「なんだと!! き、貴様っ……セルラテオ様を侮辱するか!! こ、来い!! お前がそんな態度なら、直接セルラテオ様に謝らせる!」
「え? なんで?」
「だ、大体、お前、ぬ、盗み聞きの件はどう説明するんだ!!」
「盗み聞き? ああ……だってそれは、セルラテオ様達が悪巧みなんかしてるからです。ちゃんと、魔法でその時の声も記録していますよ? 聞かせてあげましょうか?」
「な、なんだとっ……!? だ、黙れっっ!! 黙れ黙れっっ!! そ、それこそ偽造だろう!!」
「僕のはちゃんと、本物です。僕に声を変えたり作ったりする魔法は使えません。学園側に問い合わせてもらえばわかります。そうだ、ついでに、あなた方の中に、水の魔法を使う人がいないか、聞いてみませんか? 学生は、入学の時に学園に魔力の解析結果を提出しているはずです。これが、学生間で揉め事が起こった時に、誰が魔法を使ったのか特定する証拠になることは知ってますよね?」
「う、うるさい!! 犯人はお前だ!! 盗み聞きもお前だ!! お前が犯人以外、考えられない!!」
もう無茶苦茶言い出した。
魔力の解析結果は、それすら偽造できるほど高度な魔法を使えれば、全く証拠にならないんだけど……多分彼らは、そんな魔法が使えるわけじゃないんだろう。
そうでなかったら、こんなに無理矢理な決めつけ、するはずないんだから。
ああ、面倒だな……何でこんな奴ら、相手にしなきゃならないんだ。どうせなら、演習が始まる前に、会長のところに行きたいのに。
もうこの場で全員気絶でもしてもらおうか。後で必ず問題になるけど、その方が、こんな無駄なことで、会長のために使うはずの貴重な時間をむしり取られなくてすむ。
それに、彼らが気絶している間に、セルラテオが何を企んでいるのか明らかにしておけば、僕に対する処分も軽くなる。軽い処分を我慢する方が、会長に会える時間も多くなるかも。
やるか。
そう思って、こっそりと、指先に魔力を集中。
だけどそこで、背後から、僕の大好きな声がした。
「何してるの?」
うそ……この声って……
振り向いたら、廊下に立っていたのは、やっぱり僕の大好きな会長。僕が会長の声を間違えるわけない。
金色の髪は、さっきリボンが切れたせいで、下ろしたまま。目は少し怒っているのか、鋭い。
会長……そんな目、久しぶりに見ました。そんな目が見れるなら、こいつらに絡まれてよかったかも……
なんでこんなところにいるんですか? もしかして、僕を助けに……!?? そんなわけないか……会長の次の授業は、ここから離れた校舎であるはずだし、わざわざ、反対方向のこっちに来るはずないから。
だけど今会えて嬉しいです! 会長!!
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