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85.うまくいかない計画
しおりを挟む「これでどうだ?」
言って、セアガレンが立ち上がる。
俺は、自分の体を見下ろした。いいできた。さすがはセアガレンだ。
「助かった……ありがとう」
「やめてくれ。私はお前に感謝している。お前があの岩山の魔力を消滅させてくれたおかげで、私は自由だ」
そう言って、セアガレンは微笑んだ。
俺は泣きたい。使い魔は確かに修復できたか、岩山の魔力は予想よりずっと強大だった。使い魔の修復だけでは消滅せずに、よりにもよって、俺の中に入ってきたんだ。そんなものが俺の体に取り込まれたなんて知れたら、今度は俺が争いの中心になる。どうしようか困っていたら、セアガレンが、俺の部屋まで来て、隠匿の魔法をかけてくれた。
あの岩山の魔力がなくなって、それを監視するためにいたセアガレンの役割は終わった。そのせいか、なんだか彼は晴れやかな顔をしている。
「貴様は……これからどうするんだ?」
「もうしばらくここにいる」
「なに?」
「お前にかけた魔法の具合も見ておきたい。それに、もう精霊の国へ帰る気はないしな……」
「ずっと学園にいるのか?」
「私はあの港町が気に入っている。いずれあそこに向かう気だ」
「貴様は……それでいいのか?」
「ずっと考えていたことだ。精霊の国の結界にかけた隠匿の魔法の維持のため、帰ってきてほしいと言われてるんだが、代わりはいずれ見つかるだろうし、私は……必要ないだろう」
「……精霊の結界はお前が維持しているのか?」
「いや、維持……と言うほどでもない。結界の要となる部分を敵から隠していただけだ。私の代わりなど、他にたくさんいる」
いないと思うぞ……
こいつの隠匿の魔法は、俺が思うに、右に出るものはいないレベルだ。こいつ自身の自己評価が低いせいで、本人は全くその自覚がないようだが。
さぞかし今頃精霊の国は困っていることだろう。しかし、それをこいつに話して、じゃあ帰ると言われたら、隠匿の魔法で魔力を隠してもらう俺が困るので、黙っておこう。
「貴様はあの港町が好きなのか?」
「もちろんだ。ゲキファ様も誘ってくださった。私は、あの街が一番好きだ」
「そうか……」
それはなんとなく俺にもわかる。俺の、港町の研究所再興の夢も、少し進んだ。学園長が、検討してもいいと言ってくれたんだ。あとは、伯爵の説得と、いまだ逃げてるロフズテルを探すだけだ。
ロフズテルの使い魔は魔力を取り戻し、修復もされたため、今は俺の部屋の隅で丸くなっている。ロフズテルが操っていない間も、普通の猫のように振る舞うからすごい。やはり、あいつの魔法は底が知れない。もう少し、体の魔力の様子を見たら、ロフズテルを探しに行こう。
復学は取り消されるかと思ったが、学園長は「君は便利だからもう少しいていいよ」と言って、俺の復学を正式に認めてくれた。堂々と「利用させてね」と言われているとこれは気に食わないが。上層部を混乱に陥れて、かなり機嫌がいいらしい。
「では、私はそろそろ失礼する。何か具合の悪いことがあれば話してくれ」
「ああ……貴様は有能だ。俺の部下にしてやろう」
「御免蒙る!」
バンッと乱暴な音を立ててドアを閉め、セアガレンは部屋を出て行った。
代わりに、コレリールとゲキファが部屋に入ってくる。
相変わらずのコレリールは、俺の顔を見るなり、顔を綻ばせた。
「師匠!! 元気になったんですねっ……! よかった……」
「ああ……コレリール。どうだ? 貴様、魔力を感じるか?」
「いいえ。全く!! 隠匿の魔法が効いているのでしょう。貴族たちは、今回の件と実習の森での事故の件も併せて、責任逃れに必死です! 師匠の魔力にまで気づかないでしょう!」
「そうか」
「これ、快気祝いです!!」
そう言って、コレリールが俺にバラの花束を渡してくる。
「なんでこんなに……」
「高貴な師匠に似合う花だと思いました!!」
「そうか…………おい」
「なんですか? 師匠」
「公爵のことは……もう吹っ切れたのか?」
「…………本当に、信じていましたから……残念でしたが、僕には師匠がいます!! だからもう大丈夫です! そうだ!! バラ、生けてきます!!」
そう言って花束を抱えて出ていくコレリールは、晴れやかな笑顔だ。切り替えは早い方らしい。
これで部屋に残ったのは俺とゲキファだけ。二人きりはひさしぶりだ。それなのに、ゲキファはムッとして言った。
「今度、あいつより大きいバラの花束持ってくる」
「そんなにたくさんバラはいらん! それよりツナ缶はどうした!?」
すると、そいつは袋にたくさん入ったツナ缶を見せてくれた。
「よくやったぞ!! ツナ缶……マヨネーズはあるか!?」
「もちろん。中に入ってる。それより、ヴァデス……」
ゲキファは、俺の部屋の端に積まれた木箱を指差している。
「あの木箱の中のツナ缶は何……?」
「あれはガウィルディとキャッテルが置いていった。生徒かららしい」
「あいつら…………俺、今度は部屋いっぱいのバラと木箱とツナ缶送るから!!」
「木箱はいらん!!」
全く、こいつは何を言っているんだ。
「それより、貴様も随分な賭けに出たな……あそこで公爵の使いが出てこなければ、どうするつもりだったんだ?」
「…………あの時は、みんな破壊の魔法と岩山に夢中だったし、お抱えの第二部隊も、そっちにいっていた。その間、ガラ空きだった実習用の森の方に、夜の間に、ヴェアとコキーラを連れて潜り込んでた」
「貴様……」
「証拠は集まったよ」
「…………貴様も結構悪いな……」
「コキーラも協力したいって言ってくれたんだ。みんな、ヴァデスの力になりたかったんだよ」
「ふん……何を言っているんだ。貴様は……」
「俺、ずっとヴァデスの犬だから」
ゲキファは嬉しそうに笑って、パン買ってくるって言って立ち上がる。
「…………………ずっと犬では困る」
呟いた声が聞こえたのか、ゲキファが俺に振り向いた。
「……ヴァデスも行く?」
「……」
俺は無言で頷いて、そいつの後についていった。
*悪の策士のうまくいかなかった計画*完
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