悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

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82.ここにあるんです

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 聞き返されても、ゲキファは相手にせず、精霊と上層部の面々に向き直る。

「あなた方も、破壊の魔法を狙っていたと、すでにいくつも証言が取れています。あなた方が破壊の魔法欲しさに、ロフズテルの使い魔が封じられた森にいくつも使い魔や使いを放っていたことも。あの森は、今は立ち入り禁止になっているようですが、そうでないと主張するなら、今すぐに調査隊の派遣を許可していただけませんか?」

 そう言ったゲキファに、全員から非難の声が上がる。

「何を馬鹿なっ……! 言いがかりもいいところだ!!」
「ドグフヴル家の青二才がっ……!」
「学園長!! これは一体どう言うことだ!!」

 罵声のような聞くに堪えない声が響く中、ゲキファはかぶりを振った。

「あなた方はどこまで、破壊の魔法に執心しているのですか? そんな風だから、ヴァデスにも、そんなものしか渡せないのです」

 そう言って、ゲキファは、俺の手の中の使い魔の片割れを指す。一体、なんのことだ?

 それを見下ろす。確かに、ロフズテルの使い魔の片割れだ。けれど、それに触れて、魔力を探ると、微かに、違和感がある。感じる魔力が少ないんだ。これは……

 俺は顔を上げた。ゲキファには、すでに全てわかっているらしく、彼は上層部たちから目を離さない。

「よくできてはいるが、片割れをさらに砕いてできたものだ。あなた方は、破壊の魔法欲しさに、すでに片割れをいじり回してしまっていたのでしょう? そんなことをすれば、調査のために使った魔力がその片割れに残る。だから、ヴァデスに本物を渡すことができない。ヴァデスなら、それが誰の魔力か、言い当ててしまうかもしれないから。嘘だと言うなら、完全な状態の片割れを持ってきてください」

 そう言われて、上層部たちも精霊たちも、公爵も黙り込む。全員やってるのかよ。

 すると、学園長がやけに明るい、この場には似つかわしくない笑顔で言った。

「ゲキファ、そんな決めつけは良くないよ。彼らは、この学園を指揮する立場にある方々だ。そんなことをするはずがない」
「学園長…………?」
「君も、普段からお世話になっているはずだ。そんな方々を疑ったりして、君も苦しいんじゃないか? ここに、その片割れがある。君の気のすむように調べてみるといい」

 そう言って、学園長は小さな袋から、美しく光る水の球を取り出す。その場にいた誰もが、驚愕の声を上げた。誰も、それを持ち出されるとは思っていなかったようだ。

 上層部の一人が声を上げる。

「学園長っ……! それはっ……持ち出しには、上層部の許可がいるはずだ! なぜ持っている?」
「なぜ? あなた方が決定したのではありませんか。これを使い、ヴァデスに使い魔を追跡させると。それなのに、地下の立ち入り禁止の部屋に忘れてしまっているから、これは大変だと思い、もってきたのです」

 ニコニコ笑いながら言う学園長は、全く目が笑っていない。これまでの恨みが溜まっているらしい。

 誰もが黙り込む中、少しして、公爵は平然と言った。

「確かに、それには調査の跡が残っているかもしれない。しかし、それは、危険な使い魔の調査を急いだだけだ。ロフズテルの使い魔は、魔力を撒き散らし、学生たちを襲っている。そんなものの調査を急いで、何が悪い?」
「公爵……あなたは……」

 学園長の軽蔑した目を受けても、公爵はびくともしない。

 その時、岩山を取り囲む森で、ひどい魔力の衝突が起こるのを感じた。

 何度も爆発音が響いて、岩山の入り口にあたるあたりから、煙が上がっている。

 そして、森の方から誰か走ってきた。あいつのあの顔、使い魔を通して見たぞ。公爵の送り込んだ使者じゃないか。

 その男は、公爵の方に走っていく。

「こ、公爵閣下っ……! 大変ですっ……使い魔を探していたらっ……! も、森で俺の使い魔が暴走してっ……!」
「な、なんだ貴様は!! お前など知らん!!」

 知らないと喚く公爵に、パニックに陥った男はなんとかしてください、このままじゃ使い魔探しどころじゃありませんと喚いている。

 秘密裏に使者として送られたやつが、こんなに関係者が一堂に会した場で、雇い主に泣きついてどうする。

 なぜあんな奴を送るんだ……
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