悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
81 / 85

81.どの口が言うんだ?

しおりを挟む

 怒りと焦りがおさまらない。それなのに、そんな俺の態度はますます誤解を生んでしまう。ガウィルディは、労わるような目をして言った。

「お前も、この学園の生徒だ。俺たちは、生徒を守るためにいるんだ」
「だったら今すぐ帰れ!」
「……」
「聞こえなかったのか!? 帰れと言っているんだ!! なぜ来たんだ!! 馬鹿め!! 余計なお世話だ!! 俺は道具でいいんだよ!! 失せろっ!! 俺は、使い魔欲しさにこいつらを利用するんだ!」

 俺は、背後のゲキファやコレリールを指して言うが、ガウィルディは、引いてくれない。

「お前はそうやって、すぐ悪ぶるが、俺はお前がどうなろうと、お前を助けるぞ」
「だったら帰れ!! 頼むからっっ!!」
「お前が盾に使われているのに、黙っていられるはずがないだろう」

 ガウィルディは、何を言っても引いてくれない。

 なんでだーー? なんでこうなるんだ!? あとはあの岩山まで行くだけなのに!! それなのに、なぜ邪魔をするんだーーーー!!

 どうにかして説明したいところだが、今まさに騙そうとしている上層部の連中が、全員勢揃いしてしまっているここで、俺の計画を伝えられるはずがない。

「か、帰れ!! 邪魔だと言っているだろう!!」
「いいや。帰らない」

 意志が硬いなあ……もう、どうにもならない気がしてきた。

 ガウィルディは、精霊たちを睨みつけて言った。

「学園長! 俺たちは、森で事故が起こったという報告は受けていました。しかし、出動は第二部隊をと言われて、待機を命じられていたのです」

 俺は頭を抱えたかった。

 案の定、後ろの上層部がざわざわし始める。このままじゃまずい。

 慌てていたら、コレリールが助け船を出してくれた。

「ガウィルディ、その件はまた、会議の場で話せばいいでしょう。破壊の魔法を使える使い魔が暴走しているんです。それの回収が先です」
「だったら、我々も同行させてもらう。今度こそ必ず、俺たちは生徒を守る。ヴァデスには、あの実習の森の事件で、仕事を肩代わりさせてしまったままなんだ」
「ガウィルディ……」

 そんな必要ないとでも言ってくれるかと思いきや、コレリールはガウィルディと握手している。おい、そんな奴ついてきたら邪魔だ。断れよーーーー!!

 なんでガウィルディはこんなに必死になってるんだ!? 事故の際に出動が遅れた件に第二部隊が絡んでいたなんてことになれば、あいつだって立場が危うくなるんだぞ!!

 俺は、コレリールに後ろから耳打ちした。

「何握手してるんだ! 止めろ!! 馬鹿!!」
「だけど、ガウィルディは本気です。師匠のことが心配なんです!」
「いらんっ! そんな心配!!」

 しかし、すでにここまでしている奴が、いまさら引いてくれるとも思えない。

 もうこのまま計画を続行する決意を固めていたら、公爵の怒鳴り声が響いた。

「黙れ!! 貴様ら!! ことの重大さがわかっていないのか!!??」

 上から押し潰してくるような、問答無用の迫力に、その場にいた全員が黙る。

「今、ヴァデスの送り込んだ使い魔が、膨大な魔力を手に入れようとしている……これがどういうことか分かるか? あの岩の庭園の魔力は、誰かが手に入れていいものではない。それなのに、貴様らのやることは、こうして争うことか? このままでは、無法者の野良猫が、あの膨大な魔力を手中に収めることになる。あれは、この地の秩序を守るために、選ばれたものが管理するべきだ。ぎゃーぎゃーと喚きあっている場合ではない。第二警備隊、その連中を捕らえろ」

 すると、それを聞いた第二警備隊が、武器を構える。公爵の後ろ盾をもらったんだ。怖いものなんてないだろう。

 しかし、それは俺も同じだ。

 けれど、前に出ようとした俺をさがらせ、ゲキファが公爵と対峙した。

「どの口が言うのですか?」
「なんだと……?」

 公爵に睨まれても、ゲキファは全く怯まない。

「岩の庭園の魔力を欲しがっていたのは、あなた方ではありませんか。公爵、あなたはコレリールを利用し破壊の魔法を手に入れようとしていたはずです。すでに調べはついています。彼の復讐心を利用して破壊の魔法を手に入れ、あなたはどうするつもりだったのですか?」
「……なんの話だ?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

息の仕方を教えてよ。

15
BL
コポコポ、コポコポ。 海の中から空を見上げる。 ああ、やっと終わるんだと思っていた。 人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。 そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。 いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚? そんなことを沈みながら考えていた。 そしてそのまま目を閉じる。 次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。 話自体は書き終えています。 12日まで一日一話短いですが更新されます。 ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

【完結】薄倖文官は嘘をつく

七咲陸
BL
コリン=イェルリンは恋人のシルヴァ=コールフィールドの管理癖にいい加減辟易としていた。 そんなコリンはついに辺境から王都へ逃げ出す決意をするのだが… □薄幸文官、浮薄文官の続編です。本編と言うよりはおまけ程度だと思ってください。 □時系列的には浮薄の番外編コリン&シルヴァの後くらいです。エメはまだ結婚していません。

処理中です...