悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

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 あの学園から岩山を取り囲む森までは、腕のいい魔法使いが空を飛ぶ使い魔を作ればすぐに着く。
 両手を拘束され、魔法を封じる首輪をつけられ、学内警備隊の作る使い魔が引く客車に乱暴に乗せられた俺は、岩山を取り囲む森の入り口に連れてこられた。

 それは予想どおりなんだが、この魔法を封じる首輪、初めて学園長につけられた時と同じで、簡単にはずれる。

 学園長、これだけ苦手なのか……? これまでも問題を起こした奴の処分の際に同じ魔法を使っているはずだから、使えないはずないんだが。

 不思議に思っていたら、森の前に立たされた時に、学園長と目があった。一瞬だけだったが、笑っているように見える。

 あいつ……まさか、気付いてないだろうな……

 なんだか不気味な笑みを浮かべるそいつを睨んでいたら、あの第二部隊の隊長のコーレジョが近づいてくる。そして俺の前で、仰々しい鍵付きの箱の蓋を開いた。その中には、かけた金属のようなものが入っている。よく見るとそれは、光があたるたびに揺らいでいる。水でできているんだろう。これが、あの使い魔の片割れか。

 コーレジョが、俺を睨んで言う。

「妙な真似をすれば、殺します」
「黙れ……先に俺に妙な真似をしたのは貴様らだ」

 つい、言い返してしまった。今こんなことを言ってどうする。思惑がバレたら終わりなんだぞ。

 しっかりしろ、俺。喜びを顔に出してはならない。

 学園長が俺に振り向き、始めろと一言だけ言う。

 ついに、この時が来た。

 使い魔の片割れを受け取り、握りしめる。だが、こんなものなくても、俺の使い魔は制御不能にはなっていない。場所も状態も、手に取るようにわかる。

 今は、岩山のそばにいる。そばに、ロフズテルの操る使い魔もいる。あいつはクズだが、魔法の能力だけは、世界でも一二を争うほど。うまくやってくれるだろう。あとは、俺が岩山に破壊の魔法をかけて、この片割れと共に、ロフズテルの使い魔を岩の庭園に突っ込ませるだけだ。

 とりあえず、少し探すふりをしてから、岩山に向かうか。

 俺は、片割れを握って歩き出そうとした。それなのに、そこで余計な声が聞こえた。

「学園長!!」

 声の主は、空から俺たちの前に降りてくる。その後ろには、学内警備隊の制服を着た数人がいた。もちろん、にわかに結成された第二部隊ではなく、正規のものだ。

 その先頭に立っているのが、ガウィルディ。あいつ、何しにきたんだ? 今回の使い魔討伐部隊には、あいつは入っていないはずだ。

 ガウィルディは、一同の前で、学園長を見据えて、朗々と声を上げた。

「学園長!!」
「とうした? ガウィルディ。君は今回、同行を許されていない。職務に戻れ」
「戻っています……」

 苦しそうな顔をする彼の前に、コーレジョが出て行く。

「こんなところで油を売っている暇があるのですか? さっさと学園に戻り、ゴミでも拾っておいてください」
「……拾いにきた。ここに」

 言って、ガウィルディはコーレジョを突き飛ばし、学園長と対峙する。

「学園長!! ヴァデスの処分を取り消してください!!」

 ……何を言ってるんだ。あいつは。
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