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76.台本で練習したのに

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 俺はゲキファを怒鳴りつけた。

「貴様っ……なぜ来た!?」
「だって……ヴァデスが心配だったんだ!! 何もされてない!?」
「平気だ。馬鹿!」

 こんな話、刺客に聞かれるわけにはいかない。俺はそいつに魔法をかけて眠らせ、ゲキファに向き直った。

「来るなと言っただろうっ! 何をしているんだ!!」
「でも……やっぱり、こんなのダメだ!! 会議では、使い魔の片割れを持ち出すんじゃなくて、ヴァデスを拷問して吐かせようなんて話になってる!」
「……そんな余裕、向こうにはないから安心しろ。会議を長引かせたいか、感情的に喚いているだけの愚策だ。俺は魔力で体を強化できる。そんなものを拷問で吐かせようなんて、時間の無駄だ」
「だけどっ……!」
「それより、なぜ貴様が会議の内容を知っている?」
「魔法で気配を消して、会議室の窓から盗み聞きした」
「馬鹿!! 余計なことをするな!! バレたらどうする!?」
「会議室を守っていた連中には、記憶を消す魔法をかけて眠らせた。連中の護衛は全て調べ上げたけど、盗み聞きしてた俺に気付けそうな奴はいないよ」
「そこまでしてやることが俺の邪魔か!! 馬鹿がっ!! お前は俺が、ロフズテルの使い魔を回収し復活させる邪魔をしたいのか?」
「そんなつもりじゃない……!」

 ゲキファは、俺の手をぎゅっと握る。

「俺と逃げよう」
「一人で逃げろ」
「ヴァデス!」
「うるさい!!」

 こいつ、しつこい!! 俺を引きずって行こうとするゲキファと揉み合いになってしまう。

 そんなことをしているから、外にいる気配にも気づけない。もう一人、男が部屋に飛び込んでくる。

「ヴァデスっ……!」
「コキーラ??」

 なんでこいつまでくるんだ!! くそ……ゲキファがギャーギャー騒いでるから、外への注意が疎かになっていた! いつもなら、こんなやつ、すぐに接近に気づいてドアに鍵をかけられたのに!!

 コキーラは、俺と俺を糾弾したゲキファが揉み合っているのを見て、顔色を変える。

「ゲキファっ…………は、話はヴェアから聞いたっ……!」
「なにを聞いた……?」
「ヴァデスが……岩の庭園の魔力を狙ったって!! もうすぐ、拷問されて殺されるって……」

 何を話を大きくしてやがる、あの間抜けは……

 もう頭を抱えたい俺の前で、コキーラはやけに焦って聞いてくる。

「本当なのか!? ヴァデス!」
「嘘だ。だいたい、そんなこと、貴様に関係ないだろう。失せろ失せろ」
「か、関係なくはないっ……!」

 どうしたんだこいつ? なにをこんなに必死になっているんだ? 俺が拷問されようが疑いをかけられようが、それでこいつが何か不利益を被るわけではないだろう。

 それなのに、そいつは俺の両腕を掴んでいった。

「拷問は嘘か!? じゃあ、疑いがかかっているのは……」
「疑いはかかっている。だが、だからなんだと言うんだ? 疑いかかっているのは俺で、お前ではない。ゲキファのことなら、そいつには妙な疑いはかかっていないから……」
「俺はお前の話をしてるんだよ!!」

 怒鳴りつけて、コキーラは俺と目を合わせる。こいつ、なんだか怖いぞ!!

 なぜか必死のそいつは、ゲキファに振り返る。

「ゲキファはっ……! 本当にこいつがそんなことをしたと思ってるのか!?」
「思うわけないだろ!!」

 即座に答えるゲキファを見て、俺は青筋が立ちそうだった。

 思え。あれだけ台本で練習しただろ。このバカ犬。こいつ、俺を告発する役目を忘れたのか!?
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