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65.居心地
しおりを挟むゲキファが、不思議そうに首を傾げて言った。
「じゃあ……これ、何で動いてるの?」
「……これはもともと、ロフズテルの使い魔だぞ……」
俺が言うと、ロフズテルの使い魔は、俺たちの前で、にっと笑って言った。
「俺は、ロフズテルだ」
「ロフズテルっ……!? ま、まさかっ……!!」
驚く一同を見て、ロフズテルは楽しそう。こいつはいつも、こういう奴だった。人を馬鹿にしては楽しそうに笑うんだ。
睨みつける俺に、ロフズテルの使い魔は振り返った。
「野良猫、よく俺の魔力を回収したな。褒めてやる」
「……いらん。いつまでも俺をガキ扱いするな!! 本物のお前はどこにいる!? どこからこれを操っているんだ!?」
「それは言えない」
言って、猫は俯いてしまう。その様子を勘違いしたのか、コレリールがそれを見下ろして言った。
「もしかして……破壊の魔法を狙う者から逃げているのですか?」
「…………ああ……そうだな……困っている。俺の魔法を狙う奴が多くて」
……相変わらず、調子のいい奴だ。何もせずにそこにいるだけなら美形のロフズテルは、よく誤解されるが、こいつはそんな奴じゃない。
コレリールが騙されてしまうと困るので、俺はすぐに訂正した。
「……コレリール。こいつが逃げている時は、借りた金を返せなくなった時か、食い逃げをした時か、酒を飲みすぎて酔った勢いで通行人を殴った時か、釣り銭を誤魔化したことが店主にバレた時か、研究に使う妙な薬の買いすぎで金がないのに店主を追いかけ回して警備兵に追われている時か、どれかだ」
「え……」
自分の想像とは、まるで違う話が出て、コレリールは目を丸くする。
ロフズテルの猫は、胸を張っていた。
「今回は全部だ」
「……全部か。お前、しばらく見ないうちに、ますますクズになったな」
呆れてしまう。こいつ、研究所にいた時から、ずっとこうだったんだ。
それなのに、ロフズテルは不満なようだ。
「クズとは何だ……そんな言い方はないんじゃないか? お前、可愛らしく俺を探していただろう。あの森で、俺のことを大声で呼んで、ずっと探してたって、そう言ってたじゃないか」
「言ったか?」
「言った。俺を探していたんだろう?」
「確かに探していた。俺はあの、海辺の研究所を再興したいんだ。そこの所長は、お前しかいない」
「俺と過ごした思い出の研究所を復活させたいのか……お前も、可愛いところあるな」
「……勝手に綺麗に言い換えるな。俺には、あそこが居心地がいいんだ。そして、お前のようないい加減な奴が所長のほうが、やりやすいだけだ」
「……いい加減?」
「森で生徒を襲ったのも、酔ってやったのか?」
「違うっ……! さすがにそこまでクズじゃない。わざとじゃないんだ。見ろ。俺も、体が崩壊しかけている」
猫が前足を出す。その爪の先は、まるで砂ようにハラハラ指先から崩れていく。魔力が足りないんだろう。
「森で見た時も、魔力を下手に抜かれて、制御不能になっていたのか?」
「ああ。使い魔の魔力を奪い、暴走して逃げ出したところを、いかにも事故の処理のために来たような顔をして捕まえる気だったんだろう」
「……やはり、あの第二部隊の隊長が実行犯か……」
「ああ。命じたのは、精霊の国からの使いだがな……すぐに回収するつもりが、妖精や、公爵が送り込んだ上層部の連中に邪魔されて、うまくいかなかったようだが。あの隊長に連れていかれてから、ひどい目にあったぞ。聞くに絶えない罵声が飛び交う取り合いの場に連れていかれるわ、そこにいるセアガレンに割られるわ」
猫は、セアガレンを睨みつける。
このままでは、この使い魔もすぐに動けなくなるだろう。
「……そんなことなら、今度は俺がお前に魔力を恵んでやる」
「本当か?」
「ああ。ありがたく思え!!」
俺が胸を張って言うと、そいつは苦い顔をする。
「嬉しそうだな……」
「まあな。俺がお前を越えたんだ……土下座で感謝してもらおうか?」
「そんなもの、お前が今まで研究所で食ったものの代金だ」
「はあーー!? あ、あれ、くれたんじゃないのか!?」
「世の中甘くみるな。ただの物など、この世に存在しない。今まで食ったものの代金分、きっちり俺のために働け」
「相変わらずのクズめ……」
「俺と一緒に、研究所を再興したかったんじゃないのか?」
「確かにしたかったが、それはお前ほど適当で楽な奴はいなかったからだ。俺に無茶苦茶な代金をふっかけてくる奴はいらん!!」
「……この使い魔が動かなくなったら、お前と話ができなくなる」
「そんなことはないだろう。お前本人がどこにいるのか教えればいいだけだ」
「それは言えんと言っただろう」
「……」
「仕方がないだろう。色んな奴が俺を追いかけてくるんだから……みんな怒って、俺を殺すって言ってるんだ……」
「クズめ……」
ますます呆れる俺。こいつは昔からクズだった。魔法を使うこととその研究に関しては天才だが、他のことはまるでダメ。クズなんだが、こいつのこういうところが、俺には居心地がいい。
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