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57.これから
しおりを挟むしばらく本に夢中になって、俺は途中でツナサンドを買いに行った。昨日、あのツナ缶の警備隊に教えてもらった店のものだ。
サンドイッチを頬張ったゲキファを見ていたら、俺まで腹が減ってきて、一緒に昼食をとった。
「美味しい……さすがヴァデスだ」
「なかなか分かってるじゃないか……き、気に入ったか?」
「うん」
そいつは、本当に嬉しそうに笑う。何だか俺も嬉しい。俺も、ここのツナサンドは気に入っていたから。
……いや、だから、何でこんなことがこんなに嬉しいんだ!!
急に俯いて、ぶんぶん首を横に振る俺を、ゲキファは心配したのか狼狽え出す。
「ど、どうしたの? ヴァデス!?」
「な、なんでもない!! なんでも……は、早く食べろ!!」
皿からサンドイッチを一つとって、ゲキファに突き出してやる。するとそいつは、そっとそれを受け取って、微笑んでくれる。
本当に、どうしたんだ。俺は何をしているんだ。
こいつは、ただの犬だ。飼い慣らした犬。それだけだ!!
「おい、犬……」
「なに? 飼い主様」
「……犬って言われて嬉しそうにするなよ……え、笑顔見せるのもやめろ!!」
「なんで?」
「そ、そんなこと、どうでもいいだろう!! そ、それより、今回は……貴様のおかげで助かった。礼を言っておく」
「でも……ヴァデス。使い魔、取られちゃっただろ? これからどうするんだ?」
「考えてある。あの使い魔は、必ず取り返す。まずは……」
話しかけたところで、ドンドンと激しくドアがノックされた。何かと思えば、すぐにコレリールの声が聞こえてくる。
「師匠っ……! 師匠ーーーー!! 無事ですか!? 師匠ーーーー!! 襲われていませんか!!??」
「何を言ってるんだお前は!!」
寮で変なことを叫ぶな!!
俺はすぐに、コレリールを部屋に引き入れて、ドアを閉めた。
部屋に入ったコレリールは、俺の両腕を掴んで、心配そうに叫ぶ。
「大丈夫ですか!? 何もされませんでしたか!?」
「……されていない。心配するな」
「し、しかし、この部屋に、その不届きな男と二人きりだったんですよね!?」
「なぜ知っている?」
「コキーラという男のクラスメイトから聞きました!! あなたがゲキファと出て行ったと……無事でよかった……」
コレリールがゲキファに振り向いて、早速、ゲキファと睨み合いになる。
「何だ貴様は……なぜ師匠と二人でいる? 貴様は寝ていろ!」
「そんなわけにはいかない。ヴァデスが来てくれたんだから」
これじゃ話が進まない……
俺は手を叩いて、二人に喧嘩をやめるように言った。
「止めろ。二人とも休め。余計な魔力を使うな!」
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