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48.ここは
しおりを挟むコレリールを押し退け、俺は前に出た。
こんなところで死んでたまるか。せっかく、ロフズテルの使い魔を手に入れることができたんだ。この二人だって、死なせるものか! これは俺のものだ!
決意して、拳を握り締める。
「鬱陶しいっ……そこをどけっっ!!」
地面に手をつき、一気に魔力を注ぐ。俺が魔力を突っ込んだ土が、一斉に使い魔化して噴き上がる。
相手の使い魔はにわか作りの上、暴走しているだけあって魔力もこもっていない。俺が使役した土の使い魔は、槍の形になって敵の使い魔を切り裂いていく。
全て片付けるとまではいかないが、一気にかなりの数の使い魔が減り、道が開けた。
今だ。敵を振り切って逃げる!
俺は、竜の形の使い魔を作り出し、敵を大剣で切り付けていたコレリールに向かって叫んだ。
「使い魔に乗れ!! コレリール!!」
「はい!!」
コレリールを竜に乗せ、ぐったりしているゲキファを、強化した体で抱っこして、竜を羽ばたかせる。
敵はなんとか振り切れたが、空に飛び上がった竜の上で、普段ずっと俺の周りをチョロチョロしているゲキファは、どんどん顔色が悪くなっていく。
「ゲキファ!! 死ぬなよっ!! し、死んだら嫌いになるからな! 大嫌いになるからな!!」
叫んだら、目の周りがじんと痛い。いつのまにかそこが湿ってきていて、俺は泣いてるんだって分かった。
すると、ゲキファは俺の前で無理矢理笑顔を作る。
「……ヴァデス…………? 泣かないで……」
「泣いてない!! 俺を泣かすことができる奴なんて、この世にいないんだからな!!」
「…………うん…………じゃあ、俺がこの世にいるうちに、キスしてよ……」
「ふざけるなっ……! な、なんで俺がっ……そんなこと言うな!! 帰ったら……お前が生きてたら、嫌と言うほどキスしてやる! 褒美としてな!! だから死ぬな!! 死んだらもう……ずっと嫌いだ!」
使い魔の竜のスピードを上げる。このまま学園に戻って、こいつを回復させる!
けれどその時、俺の背後のコレリールが叫んだ。
「し、師匠! 見てください!! 警備隊です!!」
なんだ……!?
驚く俺の前に、武装した数人が、背中に大きな羽を作って飛んできた。
学内警備隊かと思ったが、違うようだ。
学内警備隊には、この学園に入ったばかりの頃、何度か世話になったが、そいつらとはまるで違う。警備隊の制服は着ていないし、武装したその姿は、魔法使いの兵士のようだ。
一緒に、真っ青な顔をしたセアガレンもいる。
ぞろぞろ飛んできた奴らのうち、一際大きな羽をつけた男が、俺の前に出た。精霊だろう。透き通る美しい羽を持っていて、髪も目も、空のような水色だ。背の高い、秋の薄雲のような雰囲気の男で、無表情のまま、感情が感じ取れない口調で言った。
「遅れてすみませんでした。私は、今回の事故の処理を任された、警備隊第二部隊の隊長、コーレジョと申します」
「第二? 聞いたことがないぞ。そんなもの」
「特別に編成されました。貴方たちを保護します」
「保護だとっ……!? 何を勝手なことをっ……!!」
言いかけた俺の両腕を、そいつの後ろにいた二人の兵士が掴んで連れて行こうとする。
「おい!! 何をする!?」
怒鳴りつけても、隊長の男は涼しい顔だ。
「ここは危険です。すぐに避難してください」
「待てっ!! 俺は自分で歩ける! 離せ!!」
俺が喚くと、一緒にいたコレリールが「やめろ!! 師匠に手を出すな!!」と怒鳴りだし、ぐったりしていたゲキファまでもが起き上がろうとする。
「ヴァデス……下がってて……」
「馬鹿を言うな! お前の方こそ寝ていろ!!」
二人が、俺を守るように前に出ようとするのを見て、特別編成部隊の隊長とやらは、あからさまなため息をついた。
「お二人とも。私は何も、ヴァデスさんを拘束しにきたのではないのです。ここは危険です。すぐに避難してください」
同じことを繰り返す隊長は、ゲキファとコレリールを前にしても、少し丁寧になるだけで、強気な態度を崩さない。このままだと、二人まで拘束されかねない。
俺は、俺の手を捕まえていた兵士たちの手を振り払った。
「触るなっ……! 大人しく避難してやる! ありがたく思え!!」
俺が避難に同意したことで、ゲキファたちも、暴れるのをやめて大人しくなった。
俺の不満な気持ちを悟ったのか、コレリールが俺に振り向き聞いてくる。
「師匠……よろしいのですか?」
「ふん。同意したわけではないぞ……行くぞ! 二人とも!!」
乗っている竜の使い魔の手綱を握る俺だが、それを隊長の男が止めた。
「お待ちください」
「なんだ!? まだ何かっ……!」
怒鳴りかけて振り向くと、急に風が吹いた。明らかに魔力で操られている。風は、俺の懐から、ロフズテルの使い魔を掠め取ると、隊長の男のところまで持っていってしまう。
「貴様っ……!! 何をするっっ!?」
「私たちは、これを回収しにきたんです」
「それを見つけたのは俺だ!! 返せっっ!!」
「これは、学内に破壊されるために保管されていたものです。よって、私たちが回収します」
「ふざけるな!! 返せっ……!」
俺が怒鳴りつけたことで、コレリールとゲキファも、臨戦態勢に入る。このままじゃダメだ。二人を巻き込む。
そもそも、この隊長は、自分の意思で使い魔を求めているんじゃない。この男を動かしている奴らがいる。そっちを潰さないとダメだ。
見たところ、こいつらは、すぐに使い魔を破壊する気はないらしい。
本来の学内警備隊も、いつまで経っても飛んでこないし、やはり、裏で使い魔を手に入れようとしている奴らがいるようだ。
「……それをどうする気だ?」
「すぐには破壊できないので、ここより強固な学園内の檻で保管します」
「……だったら、せいぜい傷つけないように気をつけるんだな。飼い主に、何を言われても知らないぞ」
「邪推はやめてください」
そう言いながらも、微かに隊長の眉が動いている。多少は動揺しているらしい。
いけ好かない男だ。
「ここは引いてやる。だが、俺が諦めると思うなよ!!」
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