悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

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47.舐めるな!

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 俺は、結界を殴りつけた。

「ゲキファ! 結界を消せ!!」
「……だめ。あと少しで全部片付くから、そこにいて」
「やはり何かと交戦中かっ!!」
「さっきの……あれっ……使い魔化した、学生だよ!!」

 声が何度か途切れているのは、結界の外で戦っているらだろう。

 相手が使い魔化した学生なら、一番面倒な相手だ。
 水の矢や暴走した使い魔なら、情けなど全くかけなくて済む。けれど、相手が学生なら、単純に破壊するわけにはいかない。それで手こずっているのだろう。

 加えて、ゲキファはここにくるまでに、相当戦闘を繰り返している。ダメージも蓄積されているはずだ。

 急いで結界から出なくては……ここを出て加勢しないと、あいつが危ない。

 ゲキファの結界なら、破壊したことがある。できるはずだ。

 そう思って、俺は結界に触れた。結界の魔力を感じ取り、破壊の魔法を放つ。

 けれど、結界は崩れない。それどころか、びくともしない。前はあんなに簡単に破壊できたのに!

 結界全体に魔力が張り巡らされているようだ。俺の破壊の魔法で破られないためか? くそ……エセ忠犬が!! 余計なこと学習するな!!

 結界の外の使い魔の数は分からない。ゲキファが相当な使い手だと分かっているが、大勢を一人で相手にすれば、ただではすまないだろう。

「ゲキファ! おい! 結界を消せ!!」
「ヴァデスは危ないからっ……そこにいてっ……!」

 叫んだゲキファの声が途切れて、結界にいくつもヒビが入る。それでも結界が壊れないのは、ゲキファの魔力のなせる技だろう。

 くそ……あの男だけに事態を押し付けることなどできるか!

「ゲキファ!! 聞こえているんだろう!! ここを開けろ!! 嫌いになるぞっ!」
「……いいよ」
「ああ!?」

 こいつ、ついに開き直りやがった!! いいよって、いいはずがないだろう!

 ゲキファの声は、ひどく掠れていて苦しそうだ。劣勢なんだろう。

 隣にいるコレリールが、下がっていてくださいと言って、大剣で結界を切り付ける。それでも、結界はびくともしない。

 俺を舐めるなよ……ゲキファっ!!

 結界に触れる。確かに、それ一面に魔力が張り巡らされている。

「……俺は、ロフズテルの猫だぞっ!!!!」

 叫んで、全力で破壊の魔法を放つ。すると、結界にいくつも細かなヒビが入る。これだけじゃ、まだ足りない。

 何度も破壊の魔法を放つ。あいつ、どれだけ頑丈に作ったんだ!!

 苛立ちを込めて、破壊の魔法を放つと、ついに耐えきれなくなったのか、結界は音を立てて砕け散った。

「ざまあみろっ! ゲキファっ!! 飼い主の言うことを無視した罪は重いぞ!」

 叫んで、壊れた結界の外の様子を確かめる。

 そこには、凍りついた湖が広がり、俺たちを取り囲むようにして、さまざまな形の使い魔が倒れている。鳥のようなものもいれば、獣や竜のようなものもいる。中にはフラフラ動いている学生の姿もあった。

 けれど、ゲキファがいない。あいつ、どこへ行ったんだ!?

 きょろきょろしていたら、頭上で、声がする。うめき声のようだった。見上げれば、頭の上からゲキファが落ちてくる。

「は!? お、おい?!」

 慌てて俺は、体を魔力で強化して、落ちてくるゲキファを抱き止めた。

「う……」

 呻くそいつは、あちこちに傷やあざを作っている。なんで上から落ちてくるんだ!?

「おい! しっかりしろ!! ゲキファ!?」
「いて……結界、壊しちゃダメだよ…………破壊の魔法、使った?」
「当然だ!! 貴様が結界を消さなかったからだぞ!!」
「……俺、結界の上にいた……」
「………………は?」

 え? 結界の上?

「お、おい、まさか、結界に触れていたのか……?」
「うん……」

 え? え? それだと、俺の破壊の魔法は、結界の上にいたこいつにも、少なからず影響を与えたはずだ。

 それ、まずくないか?? こ、こいつの体まで破壊してる!?

「お、おいっ……! しっかりしろっ!! こ、コレリール!! 回復だ!! 急げ!!」

 叫ぶと、コレリールはすぐにゲキファに回復の魔法をかけてくれる。ゲキファの傷はすぐにふさがったが、コレリールは難しい顔をしていた。

「魔力による影響が大きいようですっ……! しばらくの間は動かないようにしないと……」
「くそっ……! だ、大丈夫か!? ゲキファっ……!」

 ゲキファの体を揺すってみても、そいつは苦しそうに呻くばかり。コレリールには、動かさないほうがいいです、と言われてしまう。

 ゲキファのことで頭がいっぱいで、周囲への警戒も疎かになっていた。

 俺のすぐそばまで迫っていた使い魔を、コレリールが破壊してくれる。

「師匠っ……!! まだいますっ!! 囲まれていますっ!!」

 そいつは、俺たちの周りを取り囲むようにして飛ぶ、さまざまな使い魔を指していた。くそ……もう次が来たか。
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