44 / 85
44.こいつは犬だ!
しおりを挟むまだ、ロフズテルの使い魔がいる。しかも、その使い魔は、倒れた学生たちに自らの魔力を込めて、使い魔化している。
襲われた学生たちを助け、魔力を回収し、さらにロフズテルの使い魔も回収すれば、あいつの使い魔と、それを構成した魔力が手に入る……
お、俺の欲しかったものがこんなに一度に手に入っていいのか!?
「行くぞ!! ゲキファ! コレリール!! 学生を助け、使い魔を捕まえるんだ!!」
「ヴァデス……嬉しそう。だけど、待って。キャッテルを外へ連れて行く」
ゲキファに言われて、俺は気づいた。
また、使い魔に夢中になってしまっていた。先ほどこれで失敗したばかりなのに、ロフズテルの使い魔と、その魔力が一気に手に入ることを考えたら、つい……
落ち着け。冷静でいなくては、ロフズテルの使い魔には近づけない。
「分かった。そいつを外へ連れて行けばいいんだな」
俺はすぐに使い魔の鳥を作り出し、キャッテルの腰あたりを咥えさせて空まで飛ばした。
突然巨大な鳥に咥えられて、キャッテルは悲鳴をあげていたが、別に食いつかせたりはしない。外まで運ぶだけだ。森の外に出たあたりに置いておけばいいだろ。
「さあ、これで問題ないだろう。ロフズテルの使い魔を探すぞ!!」
使い魔の猫に乗って、森の中を走る。途中、何人かの学生たちが倒れていた。うち何人かは襲ってきたが、それも先ほどの方法で打ち倒し、魔力だけ抜いて、森の外に放り出した。
しかし、相手はあのロフズテルの魔力を授かった使い魔だ。何度か手こずってしまい、何度もコレリールに回復してもらった。
ロフズテルとは関係ない使い魔までしょっちゅう飛び出してくる。あの水の矢のようなもの以外に、学生たちが作ってそれが暴走したらしい使い魔もいた。
俺が、飛んできた水の矢に、背中を切り裂かれたあたりで、コレリールが叫んだ。
「師匠! これ以上は無理です!! 戻って救援を呼びましょう!」
「馬鹿を言え!! そんなことをしている間に、使い魔が破壊されてしまったらどうする!!」
「しかしっ……!」
「それより、回復を頼む!」
水の矢を斬り払ってコレリールに振り向くと、コレリールは困った様子で、俺に回復の魔法をかけてくれた。
コレリールが優しく触れたところから、痛みが引いていく。
「……回復は本当に上手だな。魔法が苦手だと言っていたが、見直したぞ」
「……僕は、まだまだです。魔法だって、兄上に比べたら……」
「兄は関係ないだろう?」
「僕は、兄を後ろから支援するためだけにいるんです……」
「それが嫌だと言うなら、俺と共にくればいい。貴様は俺の隣に侍るに値する」
「師匠……もちろんです……師匠! 僕、頑張ります!!」
「いい心がけだ! 俺がそばにいることを許可することなど、まずないぞ! 光栄に思え!!」
「はい!! 師匠!!」
そいつが俺の手を握ったところで、ゲキファが、俺とコレリールの間に入ってくる。
「回復くらいなら、俺にもできる」
「……落ち着け。ゲキファ。貴様も回復してもらったらどうだ?」
「俺は大丈夫。このくらいなら、自分でなんとかできる」
そう言って、そいつは自分自身に回復の魔法をかけて、俺に向き直った。
「……ヴァデス。俺もコレリールに賛成だ。倒れた学生たちに加えて、そこら中から水の矢や使い魔が飛んできている。これ以上先に進むと危険だ」
「それなら、貴様らは先に外へ出ていい」
「ヴァデスを置いて行けるわけないだろ!!」
「俺も同じだ。ロフズテルの使い魔と、その魔力を取り込んだ学生たちを放っては置けない」
「……ヴァデス……なんで、そこまでするんだ?」
「…………」
俺は、無言で自分の使い魔の猫に寄りかかった。回復はしたが、すぐには動けそうにない。
こいつらは、俺に手を貸しているんだ。少しくらい、話してやってもいいか。
「……あいつは、俺の目標だ」
「あいつって、ロフズテル?」
首を傾げるゲキファに、俺はうなずいた。
「ああ。俺は、あいつに勝ったことがないんだ。初めて会った時からな」
「……」
「ロフズテルに会ったのは、腹を空かせて、海辺の研究所に忍び込んだ時だ。物心ついた頃から、親なんていなかったし、腹が減ったら、飯は盗んで手に入れてた。あの日も、あいつが持ってたツナサンドが美味そうでなー。喧嘩を売ったらあっさり負けた」
「ロフズテルに!?? 破壊の魔法の使い手で、天才と言われた魔法使いに!?」
「そんなこと知らなかった。ぼーっとした男が一人でいるから勝てるかと思ったんだが、全然ダメだった。俺は独学で魔法も使えるようになっていたから、思い上がっていたらしい」
「独学でってのもすごいけど……警備隊に捕まらなかったのか?」
「あいつが呼ばなかったんだ。あいつはいつも、負けた俺にサンドイッチをくれて、俺も毎日、あいつに会いに行くようになった。そうしているうちに、あいつは俺の憧れになったんだ。だから……俺は絶対にあいつの使い魔を手に入れる!! 魔力もだ!! 臆する奴はいらんっ!! ここに置いて行く!!」
俺がゲキファを指差して言うと、コレリールが立ち上がって、俺の手を握ってきた。
「傷ついても学生たちを守り、師の残したものを追い求める師匠の姿には感服しました!! 必ず使い魔を師匠に捧げて見せますっ……!」
「へっ……!? あ、ああ……貴様も、め、珍しく、物分かりがいい………………のか?」
な、なんだか、すごく綺麗な風に変換されているような気がするんだが……
俺は、俺を負かし続けたものの正体が知りたいし、俺をガキ扱いしていたロフズテルに、一泡吹かせてやりたいだけなんだが。
まあ、いいか。納得したようだし……
体の痛みが引いていき、俺は、すっかり回復した体に、何度か自分で触れて、そこに傷跡すら残っていないことを確認した。
すごい技術だ……俺ではこうはいかない。初めて会った時に、魔法は下手だと思ったが、こんなことができたとは。
「すごいな……さすがだ!! 行くぞっ……」
「待ってっ……!」
俺を止めたゲキファが、上着を脱いで俺の肩にかけてくる。
「服、破れてる」
「ああ……さっき、学生にやられた時だな……」
確かに、俺の肩から尻のあたりにかけて、服が引き裂かれていて、背中が見えている。回復の魔法で、服の下の体は治っているが、服まで元通りとは行かないようだ。
だからといって、ゲキファの上着を借りるのは大袈裟な気がする。俺は多少服が破れても気にしていないのに。
「それ、着て行って」
「は? いらん。必要ない」
「ヴァデスがそんな格好してると、俺が嫌だ。あと、危なかったら、引きずってでも、学園まで連れ帰るから」
「余計な真似をするな。犬め。貴様は黙って、俺に付き従っていればいい」
「犬は飼い主の心配をするもんだろ? さっきみたいに、俺の前に出るなよ? 俺、盾なんだから」
「……ふん。うるさい。死ね」
こんな奴の後ろにいるなんて、屈辱だ。それに、こいつが俺の前にいて、俺を守っているのも、なんとなく嫌だ。
だって俺より、ゲキファの方が傷だらけじゃないか……そもそも、使い魔を手に入れたいのは俺で、こいつは関係ないのに。
「……い、犬なら犬らしく……飼い主に心配かけるな…………」
ぼそっと、本音が漏れるが、ゲキファには聞こえていなかったらしい。首を傾げて振り返る。
「え? なんか言った?」
「……何も言ってない。死ね……」
こいつは犬!! 礼なんか必要ないんだ!!
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
イケメン幼馴染に執着されるSub
ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの…
支配されたくない 俺がSubなんかじゃない
逃げたい 愛されたくない
こんなの俺じゃない。
(作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる