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44.こいつは犬だ!

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 まだ、ロフズテルの使い魔がいる。しかも、その使い魔は、倒れた学生たちに自らの魔力を込めて、使い魔化している。

 襲われた学生たちを助け、魔力を回収し、さらにロフズテルの使い魔も回収すれば、あいつの使い魔と、それを構成した魔力が手に入る……

 お、俺の欲しかったものがこんなに一度に手に入っていいのか!?

「行くぞ!! ゲキファ! コレリール!! 学生を助け、使い魔を捕まえるんだ!!」
「ヴァデス……嬉しそう。だけど、待って。キャッテルを外へ連れて行く」

 ゲキファに言われて、俺は気づいた。

 また、使い魔に夢中になってしまっていた。先ほどこれで失敗したばかりなのに、ロフズテルの使い魔と、その魔力が一気に手に入ることを考えたら、つい……

 落ち着け。冷静でいなくては、ロフズテルの使い魔には近づけない。

「分かった。そいつを外へ連れて行けばいいんだな」

 俺はすぐに使い魔の鳥を作り出し、キャッテルの腰あたりを咥えさせて空まで飛ばした。
 突然巨大な鳥に咥えられて、キャッテルは悲鳴をあげていたが、別に食いつかせたりはしない。外まで運ぶだけだ。森の外に出たあたりに置いておけばいいだろ。

「さあ、これで問題ないだろう。ロフズテルの使い魔を探すぞ!!」







 使い魔の猫に乗って、森の中を走る。途中、何人かの学生たちが倒れていた。うち何人かは襲ってきたが、それも先ほどの方法で打ち倒し、魔力だけ抜いて、森の外に放り出した。

 しかし、相手はあのロフズテルの魔力を授かった使い魔だ。何度か手こずってしまい、何度もコレリールに回復してもらった。
 ロフズテルとは関係ない使い魔までしょっちゅう飛び出してくる。あの水の矢のようなもの以外に、学生たちが作ってそれが暴走したらしい使い魔もいた。

 俺が、飛んできた水の矢に、背中を切り裂かれたあたりで、コレリールが叫んだ。

「師匠! これ以上は無理です!! 戻って救援を呼びましょう!」
「馬鹿を言え!! そんなことをしている間に、使い魔が破壊されてしまったらどうする!!」
「しかしっ……!」
「それより、回復を頼む!」

 水の矢を斬り払ってコレリールに振り向くと、コレリールは困った様子で、俺に回復の魔法をかけてくれた。

 コレリールが優しく触れたところから、痛みが引いていく。

「……回復は本当に上手だな。魔法が苦手だと言っていたが、見直したぞ」
「……僕は、まだまだです。魔法だって、兄上に比べたら……」
「兄は関係ないだろう?」
「僕は、兄を後ろから支援するためだけにいるんです……」
「それが嫌だと言うなら、俺と共にくればいい。貴様は俺の隣に侍るに値する」
「師匠……もちろんです……師匠! 僕、頑張ります!!」
「いい心がけだ! 俺がそばにいることを許可することなど、まずないぞ! 光栄に思え!!」
「はい!! 師匠!!」

 そいつが俺の手を握ったところで、ゲキファが、俺とコレリールの間に入ってくる。

「回復くらいなら、俺にもできる」
「……落ち着け。ゲキファ。貴様も回復してもらったらどうだ?」
「俺は大丈夫。このくらいなら、自分でなんとかできる」

 そう言って、そいつは自分自身に回復の魔法をかけて、俺に向き直った。

「……ヴァデス。俺もコレリールに賛成だ。倒れた学生たちに加えて、そこら中から水の矢や使い魔が飛んできている。これ以上先に進むと危険だ」
「それなら、貴様らは先に外へ出ていい」
「ヴァデスを置いて行けるわけないだろ!!」
「俺も同じだ。ロフズテルの使い魔と、その魔力を取り込んだ学生たちを放っては置けない」
「……ヴァデス……なんで、そこまでするんだ?」
「…………」

 俺は、無言で自分の使い魔の猫に寄りかかった。回復はしたが、すぐには動けそうにない。
 こいつらは、俺に手を貸しているんだ。少しくらい、話してやってもいいか。

「……あいつは、俺の目標だ」
「あいつって、ロフズテル?」

 首を傾げるゲキファに、俺はうなずいた。

「ああ。俺は、あいつに勝ったことがないんだ。初めて会った時からな」
「……」
「ロフズテルに会ったのは、腹を空かせて、海辺の研究所に忍び込んだ時だ。物心ついた頃から、親なんていなかったし、腹が減ったら、飯は盗んで手に入れてた。あの日も、あいつが持ってたツナサンドが美味そうでなー。喧嘩を売ったらあっさり負けた」
「ロフズテルに!?? 破壊の魔法の使い手で、天才と言われた魔法使いに!?」
「そんなこと知らなかった。ぼーっとした男が一人でいるから勝てるかと思ったんだが、全然ダメだった。俺は独学で魔法も使えるようになっていたから、思い上がっていたらしい」
「独学でってのもすごいけど……警備隊に捕まらなかったのか?」
「あいつが呼ばなかったんだ。あいつはいつも、負けた俺にサンドイッチをくれて、俺も毎日、あいつに会いに行くようになった。そうしているうちに、あいつは俺の憧れになったんだ。だから……俺は絶対にあいつの使い魔を手に入れる!! 魔力もだ!! 臆する奴はいらんっ!! ここに置いて行く!!」

 俺がゲキファを指差して言うと、コレリールが立ち上がって、俺の手を握ってきた。

「傷ついても学生たちを守り、師の残したものを追い求める師匠の姿には感服しました!! 必ず使い魔を師匠に捧げて見せますっ……!」
「へっ……!? あ、ああ……貴様も、め、珍しく、物分かりがいい………………のか?」

 な、なんだか、すごく綺麗な風に変換されているような気がするんだが……

 俺は、俺を負かし続けたものの正体が知りたいし、俺をガキ扱いしていたロフズテルに、一泡吹かせてやりたいだけなんだが。

 まあ、いいか。納得したようだし……

 体の痛みが引いていき、俺は、すっかり回復した体に、何度か自分で触れて、そこに傷跡すら残っていないことを確認した。

 すごい技術だ……俺ではこうはいかない。初めて会った時に、魔法は下手だと思ったが、こんなことができたとは。

「すごいな……さすがだ!! 行くぞっ……」
「待ってっ……!」

 俺を止めたゲキファが、上着を脱いで俺の肩にかけてくる。

「服、破れてる」
「ああ……さっき、学生にやられた時だな……」

 確かに、俺の肩から尻のあたりにかけて、服が引き裂かれていて、背中が見えている。回復の魔法で、服の下の体は治っているが、服まで元通りとは行かないようだ。
 だからといって、ゲキファの上着を借りるのは大袈裟な気がする。俺は多少服が破れても気にしていないのに。

「それ、着て行って」
「は? いらん。必要ない」
「ヴァデスがそんな格好してると、俺が嫌だ。あと、危なかったら、引きずってでも、学園まで連れ帰るから」
「余計な真似をするな。犬め。貴様は黙って、俺に付き従っていればいい」
「犬は飼い主の心配をするもんだろ? さっきみたいに、俺の前に出るなよ? 俺、盾なんだから」
「……ふん。うるさい。死ね」

 こんな奴の後ろにいるなんて、屈辱だ。それに、こいつが俺の前にいて、俺を守っているのも、なんとなく嫌だ。

 だって俺より、ゲキファの方が傷だらけじゃないか……そもそも、使い魔を手に入れたいのは俺で、こいつは関係ないのに。

「……い、犬なら犬らしく……飼い主に心配かけるな…………」

 ぼそっと、本音が漏れるが、ゲキファには聞こえていなかったらしい。首を傾げて振り返る。

「え? なんか言った?」
「……何も言ってない。死ね……」

 こいつは犬!! 礼なんか必要ないんだ!!
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