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43.抱っこなんかするからだ!
しおりを挟む俺は、コレリールとゲキファを連れて、大きな猫の使い魔に乗ると、使い魔の魔力を追って走り始めた。
焼け焦げた森の至る所から、魔力を感じた。
猫を走らせながら、いつどこから使い魔が飛び出して来ても応戦できるように、爪に魔力を込める。俺の後ろに乗ったゲキファが、後ろから俺に聞いてきた。
「……ヴァデスはこの騒動、どう思う?」
「……十中八九、学園内の者の仕業だろうな」
「やっぱり……」
「学外の者には不可能だろう。柵が壊れたのは、事故ではなさそうだし、森には出どころのわからない異常な魔力が飛び交っている。誰かが、故意に使い魔を逃したのかもしれない。だとすれば、狙いはロフズテルの使い魔だろう」
「破壊の魔法を狙ったのか……?」
「それが関係していることは間違いないだろうな。ゲキファ、貴様が俺を……その…………」
「なに?」
「だから……その…………だ、抱っこして飛んでた時に襲ってきた、水の矢のような使い魔だが…………」
くそ……あの時のことを思い出すと、勝手に顔が赤くなる。ゲキファが抱っこなんかするからだ!
それを聞いたコレリールまで「抱っこって何ですか」と騒ぎ出してしまう。
「師匠! どういうことですか!? その男に乱暴を働かれたのですか!?」
「う、ううううるさい!! そんなはずがないだろう!! 貴様も周りに集中しろ! どこから水の矢が飛び出してくるか分からないんだぞ!!」
俺に言われて、コレリールは渋々森の方に向き直る。
赤くなった顔を俯かせて、俺は話を続けた。
「げ、ゲキファ! さっき飛んできた水の矢のような使い魔だが、魔力はどのくらい感じた?」
「ほとんど感じない。使い魔を動かすには、およそ足りないくらいだ」
「そうか……だとすれば、あの使い魔を使って俺たちを妨害したのは、おそらく、魔力がなくても使い魔を操れる力を持った奴ら……精霊かもしれない。面倒なことになりそうだ。とにかく、横取りされる前に使い魔を…………!」
言いかけた俺は、そこで足を止めてしまった。少し先の木の上から、一人の男がこちらを見下ろしている。
あいつ……さっき、俺たちを襲った学生だ!!
「来るぞっ!!」
叫んだ俺に応えて、背後の二人が構える。
ゲキファが枝の上の男に向かって、魔法の矢を放った。目で追えないほどのスピードで飛ぶ矢を、男が避けられるはずもないのだが、男はそれを片手で薙ぎ払う。
相手は学生だ。ゲキファの放った魔法は、だいぶ手加減したものだったのだろう。魔法の矢を素手で受けても、男の傷は大したことはないようだが、それでも無傷とはいかない。細かい傷だらけになった腕に構いもせず、男は、正気とは思えない形相で、俺たちに向かってきた。
「一体なんだ!! あれはっ……学生なのか!?」
叫んだ俺に、そばにいたコレリールが言った。
「僕たちと一緒に実習を受けていたキャッテルですっ……!」
「誰だそれは!! 知らんぞ!」
なんで知らない奴が俺たちをしつこく狙うんだ!!
その時、男の腹の中に何か見えた。何かが光っている。ロフズテルの魔力を感じた時に見つけた、あの歪ながらも不思議と惹きつけられるような魔力だ。
俺は爪に魔力を込めて、キャッテルに飛びかかった。伸ばした手は、そいつの服を貫き、その男を地面に押し倒す。
倒れた男の体の中に、確かに見える。森の中にあった魔力が。
戦闘で傷ついて、抵抗力のなくなった学生に魔力を込めて暴れさせているのか? まるで学生を使い魔にしてしまったかのようだ。そんなことが、本当に可能なのか……?
詳細は分からないが、もしそうであるなら、回復させて自ら魔力を振り払わせればいい。
俺は、コレリールに向かって叫んだ。
「コレリール!! 回復の魔法だ!!」
「は!? 襲ってくる奴にですか!?」
「体が回復すれば、こいつは自分で目を覚ます!! やれ!」
しかし、キャッテルは傷ついているとは思えない力で俺を振り払い、裸足の足を振り上げる。その足先には、ゲキファを蹴り飛ばしたあの爪が生えていた。
避けられるようなものではなかったが、そいつの足が俺に当たることはなかった。
ゲキファが、背後からそいつを押さえ込んでいたからだ。
「不意打ちじゃなかったら、随分非力じゃないか……俺のヴァデスに手を出せると思うなよ」
「ぐっ……」
キャッテルは、なんとか拘束から逃れようと暴れているようだが、男を押さえつけるゲキファの腕はびくともしない。
「コレリール! 回復の魔法だ!!」
俺が叫ぶと、コレリールは傷ついた男の体に回復の魔法をかけた。すると、見る間に男の体は回復していき、そいつは地面でもがき始める。
「うぐ……」
うめきながら体を掻きむしるキャッテルに、俺は駆け寄った。
「おいっ……! 聞こえるか!? しっかりしろ!! 体は回復しているはずだ!! 自分で魔力を放りだせ!!」
と言っても、一人だけでは無理だろう。俺はそいつのそばまで自分の猫の使い魔を連れて行って、その鼻先で男に触れさせた。すると、キャッテルの中に入っていた魔力の光が、引き寄せられるように俺の使い魔に移る。
キャッテルはやっと息を整えて、目を覚ました。
「う……ぐ…………なんだったの……今の……」
「森の中を飛び交っている魔力に囚われていたんだ。もう大丈夫か? 体は動くか?」
「……まだ、腕が少し……」
「出してみろ」
そいつが出した腕に、俺は使い魔で触れて、そこに残っていた、微かな魔力も吸い取った。
……確かに、ロフズテルの魔力を感じる。あいつの使い魔から染み出したものか?
魔力だけで生徒を使い魔化するとは……なんていう力だ。
さすがはロフズテル。その魔力を回収できただけでも、俺は嬉しい。
まだ自由になったばかりの体を動かしているキャッテルは、何が起こったのかわからないようで、手を握ったり開いたりしている。
俺はそいつに詰め寄った。
「おい、逃げ遅れた学生たちは、まだ他にいるのか?」
「え? は、はい。多分…………み、湖がある、向こうの方です! さっきはごめんさない……話している途中で、急に体が動かなくなって……気づいたら、あなたのことを襲っていて……ほ、本当に、ごめんなさいっ!!」
「そんなことはどうでもいい!!」
「ええっ!?」
「ロフズテルの使い魔を見たのか!?」
「ろ、ロフズテルの使い魔!? し、知らない……だけど、大きな、獣みたいな使い魔が向かってきて……僕じゃ相手にならなくて、食べられるって思ったんだけど、そいつ、僕にとどめは刺さずに……も、森の奥の方へ逃げて行ったんだ!!」
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