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42.振り払えばいいのに
しおりを挟むコレリールに回復の魔法をかけられたゲキファは、しばらくして、めちゃくちゃ仏頂面で立ち上がった。あれだけひどい火傷だったのに、もうすっかり治っている。コレリールの魔力のなせる技なのだろうが、魔力だけで、こんな真似はできない。
「回復の魔法が得意なのか?」
俺が聞くと、コレリールは不満そうな顔をしていた。
「……王家の血を引く者として、教え込まれただけです……僕はこんな魔法、興味ありませんでした。他にも、身体を強化する魔法や、諜報のためになる魔法や……そんなものばかりを。兄上は、数多の魔法に関する英才教育を受けたのに、僕はいつだって、兄上の補佐です。僕はっ……そんなもので終わりたくないのにっ……」
「……それなら、今日から俺のためにその魔法を振るえばいい」
「え……?」
「貴様のその魔法は、俺にとって有用だ。今もこうして、俺のためになっている。これからは、俺のためにその魔法を振るえばいい」
「師匠…………」
コレリールがキラキラした目で俺を見上げる。その間にも、ゲキファの微かな傷跡まで消えていくからすごい。一体どうやっているんだ。俺ではこうはいかない。回復の魔法にはあまり興味がなかったが……こいつのそばにいれば、その研究もできそうだ。
「コレリール……」
「は、はい!! 師匠!!」
「見直したぞ。これからも、俺の手足となって働け」
「はい!! もちろんでっ…………おい!!」
もちろんですって言いかけたんだろう。コレリールは、話の途中ですっかり回復したゲキファに、首根っこを掴まれ後ろに下げられている。ゲキファの方が圧倒的に背が高いからか、コレリールがまるで子犬みたいに見えた。
「貴様! 何をする!? 離せ!! 無礼者!!」
「回復してもらったことには礼を言う。だけど、ヴァデスには近づくな……」
「なんだ!? 嫉妬か!? 鬱陶しい!! これから師匠の一番そばにいるのは僕だ! 関係のない奴は帰れ!!」
「……こんな危険な森に、ヴァデスを置いて行くことはできない。俺はヴァデスと一緒に使い魔を探す」
まだそんなことを言っているのか。あれだけ言ったのに。
俺は、ゲキファの手を握った。ゲキファが驚いて俺を見下ろす。
「ヴァデスっ……!?」
「お前は森の外へ連れていく。回復したとはいえ、まだ傷が体内に残っているかもしれない」
「……もう大丈夫だ。俺の体の中のことくらい、俺が一番よくわかっている」
「だが」
「ここにいる使い魔は、ヴァデスの恩師のものなんだろ? そんなものが破壊されるかもしれないのに、ヴァデスの足を引っ張るような真似はできない」
「……聞き分けのない奴だ」
俺はそっと、そいつの体に触れようとした。こうなったら、気絶させて外へ連れていく。
だけど、そいつは俺が魔法を使うより早く、俺の手をぎゅっと握った。
「俺のこと、盾にするんじゃなかったの?」
「……使い捨ての盾にしたつもりはない。痛んだから治しにいくだけだ」
「もう回復したよ」
「……」
ゲキファは魔法を使っていない。振り払えばいいだけだ。
だけど、そいつが真っ直ぐ俺を見ているだけで、俺はそいつを振り払えない。
なんでこいつはこんなに必死になっているんだ。俺が使い魔を手に入れられるかどうかなんて、こいつには関係ないだろう。
それならそれで、俺も振り払えばいいのに。
「……分かった。だが、貴様の体が回復しきっていないことが分かったら、すぐに連れ帰る。いいな?」
「うん……ありがとう…………ヴァデス!!」
嬉しそうに頷くゲキファが、俺は不思議でならない。何がそんなに嬉しいんだ……
なるべくそいつとは目を合わせないようにして、俺は森の奥に向き直った。
「コレリール、貴様は使い魔を追って行ったと聞いたが、使い魔はどこへ行った?」
「それが……こっちの方へ走って来たんです。見かけませんでしたか?」
「なに……? どんな形の使い魔だ?」
「僕の前に出てきた時は、獣の姿をしていました。僕の身長と同じくらいの……これを見てください!」
コレリールが俺に渡してきたのは、小さな金属の固まりのようなもの。
「使い魔の一部です。まだ魔力が残っているようなので、それを追えば……!」
「よくやったぞ!!」
それを握り、握った手に魔力を集中させる。すると、森の中に紛れた使い魔の魔力を見つけることができた。
「こっちだっ……!!」
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