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41.今回は

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 俺は、俺を連れて逃げるゲキファの羽に触れた。手の先から羽根の魔力を吸い取ると、ゲキファの羽は俺が触れたところから光の粒になって消えていく。

「何をっ……ヴァデス!?」

 驚くゲキファを抱きかかえ、俺は森の中に降りた。すぐにゲキファは羽を作り出そうとするが、俺はそいつの手を握り、魔力の流れを止めた。これでもう、羽は作れないだろう。

「ヴァデスっ……何をっ……!」
「無理をするな。回復の魔法をかけている」

 握った手から光が溢れ、ゲキファの痛々しい傷口が塞がっていく。しかし、傷口を塞いだだけだ。まだ不十分だろうが、俺にはこれが限界だ。

「歩けるか?」
「……大丈夫だよ。ヴァデスの使い魔を探そう」
「馬鹿を言え。俺は回復の魔法が苦手なんだ。早く外へ出て、ちゃんとした手当を受けないと、命を落とすとまでは言わないが、当分の間動けなくなるぞ」
「だけどっ……!」

 そいつはなおも食い下がってくる。だが、俺には首を横に振ることしかできない。

 今すぐこいつを外に連れ出し、誰かに預けないと、こいつの回復は難しくなる。治療が遅れれば、当分魔力を使うことすらできないだろう。

 ロフズテルの使い魔は大事だが、俺を庇って負傷した奴が、当分動けなくなることを承知で連れ回すことはできない。

「来いっ! 森の外へ連れていく!」
「ヴァデスの足手まといにはならないよ……」
「……足手まといとは思わない。グダグダ言わずに乗れ!」

 俺は、俺たち二人が乗れる大きさの使い魔の猫を作り出した。森の中に、俺たちを狙ってくる奴がいるなら、地上を行ったほうが安全だ。空を飛べば狙い撃ちにされる。それくらい、コキーラの話を聞いた時に思いつくべきだった。得体の知れない使い魔がうろついていることは知っていたのに、不用意だった。ロフズテルの使い魔のことで、冷静でいられなかった。

「くそっ……! 行くぞっ……!」
「ダメだっ……大事なものなんだろ!?」
「確かにそうだ。だが、諦めるわけじゃない! 来いっ!!」

 俺はそいつを無理矢理使い魔の上に引き上げた。

 猫を操り走り出す。森の中を駆ける俺たちに、何かが駆け寄ってくる。とっさに構えるが、走って来たのは、コレリールだ!
 そいつは、大きな剣を下げて、自分に向かって飛んでくる矢を斬り払いながら、こっちに向かってくる。

「師匠!! ご無事ですか!?」
「ああ……コレリール。回復の魔法を使えるか!?」
「はい!! もちろんです!!」
「こいつの回復を頼む!」

 俺は、使い魔の猫の上のゲキファの服を引っ張りながら言うが、コレリールはあからさまに嫌そうな顔をする。

「何でそんな奴を……嫌です」
「コレリール!! 頼むっ……!」
「な、なぜそんなに必死に……」
「こいつは俺を庇って負傷したんだ!」
「……師匠を?」
「ああ……腹立たしいが、放ってはおけないんだ」
「…………分かりました」

 嫌そうに頷いて、コレリールはゲキファに回復の魔法をかけようとする。けれど、ゲキファはあろうことか、魔法をかけようとしたコレリールの手を握りしめた。

「余計な真似するな…………あと、ヴァデスから離れろ……」

 こいつ……俺の使い魔の上でぐったりして、起き上がることもできないのに、何でそんな強がりを言えるんだ……

「おい! お前、自分の体がどんな状態かくらい分かるだろう! 大人しく回復されろ!」
「…………何でこんな奴に……」

 ぶつぶつ言いながらも、ゲキファは大人しくなる。そして、コレリールの方も、嫌々といった様子で、そいつの傷に触れた。

「何でこんな奴を……貴様など、師匠の頼みでなければ、絶対に回復していないんだからな!! ありがたく思え!」
「こっちだって、お前になんか、見つけてほしくなかった」
「それにしては、魔力を飛び散らすように飛んでいたじゃないか。助けに来るはずの学内警備隊に居場所を知らせていたんじゃないのか?」
「……うるさい」

 俯くゲキファは苛立っているようだった。こいつ……そんなことしていたのか……

 むやみに突っ込んでこいつを負傷させ、救援を呼ぶことも遅れた。今回はこいつらに助けられてばかりだ。

 くそ……仕切り直しだな……
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