悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
40 / 85

40.誤算

しおりを挟む

「が、学内警備隊の方じゃないんですか?」

 そいつはキョロキョロして、俺の背後にいたゲキファを見つけたようだ。

「げ、ゲキファ……? 何でこんなところに……」
「ここで事故があったと聞いて来た。柵が壊れて、使い魔が逃げたらしい。知らないか?」
「柵が壊れた!? 何ですかそれ!! 初めて聞きました……」

 どうやらこいつも、柵が壊れたことを知らないようだ。だとすれば、やはり誰かが故意に柵を壊したのか……

 俺はそいつに近づいて言った。

「……他に逃げ遅れた奴はどれくらいいる?」
「え、えっと……多分、十人くらいだと思います……湖のあたりで実習をしていたら、突然、変な形の使い魔が飛び出して来て……みんな、散り散りに逃げたんです。何がどうなっているのか、僕にもわからなくて……」
「……コレリールを知らないか?」
「確か、使い魔を追って行ったと思います。この先です!! 湖があるんですけど、そこから使い魔が飛び出して来て、みんな散り散りになって逃げたんです!! だけど、何人かは使い魔に向かって行って……その中に、コレリールもいたはずです!!」
「分かった……」
「あ、あの……!! あなたは? この学園じゃあんまり見かけないですよね……?」
「……俺のことはいい。さっさと行け!!」
「は、はいっ……もちろんです! ほんとぉに……ぁりがとうございました!」

 礼を言うそいつの口の端が吊り上がる。目の端より高く、こめかみのあたりまで。

 口が裂けたっ……!?

 そいつの体の中の魔力が膨れ上がるのを感じる。

 しまった……!!

 俺は、即座に応戦しようとした。しかし、相手は既に俺の目の前まで迫っている。

 覚悟を決め、自分自身に防御の魔法をかける。多少のダメージはこれで防げるはず。
 腕の一本くらい持って行かれることも覚悟したが、俺に飛びかかってこようとしていた男は、ゲキファに蹴り飛ばされた。

 男はそばの木に叩きつけられるが、痛みを感じないのか、ニヤリと笑っていた。その視線は、自分を蹴り飛ばしたゲキファの足に向けられている。

 ゲキファの足には、そいつが残した爪が突き刺さっていた。

 罠だ。そう気づいた時にはもう遅い。

 突き刺さった幾つもの爪が爆発する。とっさに魔法で体を守ったのだろう、ゲキファが倒れることはなかったが、その体は大きく焼けてしまっている。

「ゲキファっ!!」

 すぐにそいつに駆け寄る。ゲキファの下半身は火傷だらけだ。すぐにその体に回復の魔法をかけようとしたが、ゲキファは俺の手を握り、背中に羽を作って空に飛び上がった。

 そのままゲキファは、俺を連れて森の中を飛んでいく。

「お、おいっ……ゲキファっ!?」
「……逃げなきゃ…………あいつ、何かの術にかかってる」
「さっきの男かっ!? それは見ればわかるっ! お前はさがっていろ! 俺が飛ぶっ!」

 もう、森の中にあいつの姿は見えない。けれど、いつどこから狙ってくるかわからない。今の、大怪我をしたゲキファに、俺を連れて飛んで逃げるのは無理だ。

 それなのに、ゲキファは羽を閉じようとしない。

「…………ヴァデスは俺のそばにいて。危ないから。周りから……異常な魔力を感じるっ!!」

 そう言って彼は羽を大きく羽ばたかせる。すると、俺たちに向かって来ていた水の矢が、俺たちに届く前に破壊されて落ちていく。

 まだ攻撃が来るのかっ……さっきのあいつの仕業か? くそっ……やはりこの森は異常だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

その日君は笑った

mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。 それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。 最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。 拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。 今後ともよろしくお願い致します。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

君と秘密の部屋

325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。 「いつから知っていたの?」 今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。 対して僕はただのモブ。 この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。 それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。 筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子

処理中です...