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39.羨ましくなりそうだ
しおりを挟む自分の体に魔法をかけ、強化した体で木の上まで飛び上がり、魔力を感じる方を目指して木々を飛び移っていく。
ロフズテルの使い魔が破壊されるかもしれないと思うと、走ることすら焦ったい。
もっと急ぎたいところだが、使い魔の魔力を探しながら走るには、これが限界。
苛立ちながら木々を飛び移っていると、背後から、羽の音がした。後ろから、背中に大きな羽をつけたゲキファが飛んできて、俺を抱き上げ横抱きにして飛んでいく。
「お、おいっ……! 離せっ!! 何をするっ……!」
「こっちの方が早いだろっ……ヴァデスの大事な使い魔っ……! ぶっ壊されたら困るから!」
「それはそうだがこんなのも困る! なんで貴様に運ばれなければならないんだ!!」
「この方が、ヴァデスは使い魔探しに集中できるだろ? 俺、ヴァデスの犬だし、使ってよ」
「それはっ……!」
確かにそのとおりだ。早く使い魔を探し出したい。しかし、こんなのは嫌だ!! 早くついても嫌なもんは嫌だっ……!!
すぐに降ろせと言うつもりだったが、森と、そしてこの状況の異常さを感じとった俺は、暴れるのをやめて、そいつに抱きついた。
どうやら、暴れている場合じゃなさそうだ。
今のこの状況は異常だ。いや、最初から使い魔が逃げ出すという異常事態は起こっているのだが、その後も、異常が続いている。
なんでいつまで経っても、学内警備隊が来ないんだ? 学内で異常が起これば、必ず、学内警備隊が来るはず。いくらなんでも遅い。
この事故をセアガレンが報告していないのか? 事故が表沙汰になることを恐れたのか……そう考えられなくもないが、すでに、生徒が襲われている。隠したところで必ず露呈する。すでにセアガレンが報告をしているなら、なぜこない?
それに、森のあちこちで、魔力の異常な流れが起きている。いくつもの魔力の塊が森の中を動き回っているのが見える。生徒たちの作った使い魔かと思ったが、それにしては数が多い。
誰かが故意に放ったのかもしれない。いち早く到着した教授あたりが使い魔を探しているのか? それにしては応援が来ない。
ともかく、急いで使い魔を探した方が良さそうだ。あれが破壊されたら、泣くに泣けない。
ゲキファに抱えられながら、森の中の魔力に集中する。すると、森の中で、何かが光って見えた。それは、俺たちに向かって飛んでくる。獲物を撃ち落とす能力を持った、水の矢のような形をした使い魔だ。
あの程度なら、魔法で撃ち落とせる。
構える俺だが、俺を抱き上げるゲキファは、避けるどころか、その羽をかすかに羽ばたかせただけで、矢を全て吹き散らしてしまう。
普通はこんなことはできない。羽の先まで魔力が込められている証拠だ。
相変わらず、魔力だけはある奴だ。羨ましくなりそうだ。
もうこうなったら、この状況を利用させてもらう。
抱き上げられて運ばれているうちは、移動と敵の相手はゲキファに任せておける。だったら、そっちは任せて、俺は状況を理解することと使い魔探しに集中させてもらう。
感覚を研ぎ澄ます。そもそも、探しているのはロフズテルの使い魔なんだ。俺はずっと、あいつの使い魔を見てきた。少なからず、懐かしいあいつの魔力が使い魔の体に残されているはず。あの魔力を感じ取ればいいんだ。
俺は、耳を立てて、過去のことを思い出した。
吹き付ける風から俺を守るように、結界が張られる。ゲキファの力だろう。おかげで集中できそうだ。
じっと、ロフズテルの魔力を探していると、森の中でも一際背の高い木々が集まる辺りに、揺れている魔力を見つけた。
「向こう……あっちの方だ! ゲキファ!」
叫ぶ俺だが、目指していた背の高い木立は爆発して、折れた幹が空高く飛び上がる。
そして、それに続くようにして、次々起こる爆発。使い魔の魔力が見えたあたりの木が次々吹っ飛んで、燃え上がる。
それに混じって、確かに感じる。魔法を使う時の魔力だ。誰かが使い魔と戦っているのか?
俺は、ゲキファに向かって叫んだ。
「急げ!! ゲキファ! 向こうだ!!」
「分かってる!」
速度を上げたゲキファは、魔法で森の炎を消しながら、俺が指示する方に飛んでいく。
感覚を研ぎ澄まし、魔力を探す。すると、焼けた木々がいくつも立ち並ぶ向こうに、微かな魔力を感じた。俺が、森に入った時に感じた不思議な使い魔の気配だ。
同時に、焼けた木々の向こうから、さっきの水の矢のような使い魔が飛び出してくる。しかしそれも、ゲキファがあっさり吹き消した。
いくつも倒れた木々の下に、消えそうな魔力を感じる。使い魔の魔力かと思ったが違う。これは……学生のものか!?
俺は、ゲキファの腕から飛び降り、倒木が重なる方へ走った。
「おいっ……! 誰かいるのか!?」
叫んでも、だれの声も聞こえない。急いで魔法を使い、倒れた木々をどかすと、その下に、学生らしき一人の男が倒れていた。
「おい!! しっかりしろ!!」
駆け寄って、すぐに回復の魔法を使う。だけど、そいつは目を覚さない。
全身が濡れている。さっきの水の矢にやられたのか!?
「くそっ……!」
魔法で水を取り除くしかない。そいつの体に触れようとすると、背後から、ゲキファが俺の手を取った。
「その体にまとわりついている水は、使い魔だ。危ないから、ヴァデスは下がってて」
ゲキファはそういうと、倒れたままの男の体に触れる。すると、そいつの体を濡らしていた水が浮き上がった。それは、ゲキファに向かっていくような動きを見せるが、ゲキファが片手を振ると、あっさり吹き散らされ消えていく。
体にまとわりついていた水が消え、男は何度か苦しそうに呻いて何かから逃れるように体を動かしていた。
「気づいたのか……? 起きろ!!」
俺が叫ぶと、その声が聞こえたのか、男はかすかに返事をして目を覚ます。
「………………う……僕……」
「…………気づいたか…………」
「あなたは……? ……た、助けに来てくれたんですか!? 学内警備隊の方ですね!?」
「いいや。違う。だが、ここで、柵が壊れるという事故があったと聞いて来たんだ」
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