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38.俺の大事なもの

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 驚く俺の前で、ゲキファは平然と続けた。

「冗談だよ。だけど、俺はもう、父上には引退してもらって俺がドグフヴル家の先頭に立つ気でいるから」
「……」

 冗談には聞こえないな……

 キュラブに下りてもらうのは構わないが、ゲキファが伯爵家を率いるというのも心配だ。こいつ自身、なんとなく怖いし、恐怖をもって強引な交渉の進め方でもされたら、伯爵家が傾くかも知れない。あの港町に危うい影を落とされては、俺が困る。

「……だったら、コキーラのことも、もう少し安心させてやれ。下につく者が不満を溜めていると、いつか足元をすくわれるぞ」
「俺はコキーラに何かしたつもりはない。コキーラは、俺にやけに従属するような素振りを見せるけど、俺はそれを命じた覚えはないし、むしろ困ってる。何度かやめろって言ったけど、コキーラが俺に大きな態度を取ると、すぐに家から使いが来て、身の程を思い知らされるらしい。お前は家を潰す気かって……」
「そうか……コガル家は、よほど伯爵家を恐れているらしいな……」
「…………必要ない。先先代とコキーラは違う。だけど、俺がそう言って、傷つけられるのはあいつなんだよ」
「だろうな。コガルの当主は家を維持することに必死らしいし、今は伯爵家と懇意にする精霊たちの動きもある。コガル家がコキーラに腰を低くして大人しくと繰り返す気持ちはわかる。しかし、そればかりでは、俺はコガル家の男だと言って家を誇りにしたコキーラはあのままだ。クラスの連中が、貴様を異様に恐れるのも、そのせいだろう。過去にコガルの男が精霊の金を盗んだことは、精霊たちと古くから交易をおこなってきた伯爵家の交渉にも、少なからず悪影響を与えたはずだ。牙を剥いたものに永遠の制裁を与えていると、そう受けとられているんだ」
「……鬱陶しい…………」

 頭をかくゲキファは、相当苛立っているようだ。
 こいつにしてみれば、自分の関与しないところで勝手に起こったしがらみで、弱い立場のものを虐げる冷徹な権力者のように言われている上に、自身が動けば事態が悪化するのだから、苛立つのも無理はない。

 俺としては、コガル家とこいつのしがらみはどうでもいいのだが……いや。それは得策ではないのか。

 精霊族は、妖精族が大きな魔力を持つことを警戒していて、岩の庭園の魔力に近づくような動きには黙っていないはずだ。このまま伯爵家が精霊族との交渉を独占すれば、伯爵家は研究所の再興に否定的なままかもしれない。精霊との余計な溝は作りたくないだろうから。
 キュラブはもともと、岩の庭園には否定的だし、伯爵家だけが権力を独占するのは、俺にとっても不利益だ。
 あの伯爵には、いずれ隠居でもしてもらって、俺の飼い犬と化したゲキファに伯爵家を継がせるのが、研究所を再興する近道になるか……

「……ゲキファ。貴様が伯爵家を継ぐことは、俺にとっても都合がいい。俺の犬でいたかったら、俺の夢を叶える伯爵になってもらおう」
「……それって……俺のこと、頼りにしてくれてるってこと?」
「……………………頼りにしてるわけじゃない……俺の期待に答える男になれと、そう言っているんだ」
「…………ヴァデス……」

 何が嬉しいのか、そいつは笑顔になる。

 何でそんな顔をするんだ……好きだからか? やっぱり変なやつ……

「……言っておくが、貴様を頼りにはしてないぞ……貴様はこれから、永遠に俺の犬となって、伯爵家ごと俺に飼われるんだ」
「……俺はずっと、ヴァデスのそばにいていいってこと?」
「あ?」

 そんなことを俺は言ったか? いや、絶対に言ってない。勝手に変なふうに変換されている。やっぱりこの男、ちょっと怖いぞ。
 だいたい、この男は俺のそばにいるために、家を俺に献上する気なのか? そんなもんはいらん!!

「永遠に俺の犬にしてやるかは貴様の働きを見てから決める! せいぜい俺のために奴隷となって働け!!」
「分かった。俺、頑張るよ」

 ……もう、深くは考えないことにしよう。うまくいってるんだから、それでいいじゃないか。

 俺は何度もうなずいて、そういうことにすることにした。

「……もういい。それより、使い魔の回収に行くぞ。コレリールのことも探す」

 そう言って、森の方に振り向くと、魔力の流れを感じた。

 これは……確かに、コレリールの魔力だ。いきなりこんなものが飛んでくるなんて、俺はついている。
 そう思いたかったが、魔力の乱れが激しい。あいつの魔力と混ざって、異様な魔力まで感じる。おそらく、何かと交戦中だ。

 まさか……ロフズテルの使い魔じゃないよな!?

 コレリールは、ちょっとバカだが、魔力だけは最高だ。そんなやつが俺の大事な使い魔のそばに……! もしかして、もう破壊されてたり……しないよな……

 嫌だ……俺の使い魔ーー!!

「行くぞゲキファ!! 遅れたら貴様を殺してやる!!」
「待って!!」

 待てるか!! 俺の大事な使い魔が破壊されようとしているんだぞ!!
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