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33.森の中
しおりを挟む森に飛び込んだ俺は、早速魔力で体を強化して、背の高い木の枝に飛び乗った。枝から枝へ飛び移り、空に向かって伸びた杉の上に飛び出す。
全身に魔法をかけ、魔力に対する感覚を研ぎ澄ます。探すのは、ロフズテルの使い魔。そんなものがここにいることを知らなかった自分を呪いたくなるほどの代物だ!!
尻尾の毛が逆立つ。微かな風の流れに乗ってくる魔力ですら、焼け付くように感じ取ることができる。魔力を使ってここまで感覚を研ぎ澄ませると、幾つもの森の異常を感じ取れる。
森のあちこちで、異常な魔力が蠢いている。実習用の使い魔がまだ残っているんだろう。だが、どれも教科書をそのまま写したような、規格通りの使い魔。授業のために作られたものだ。
しかし、森の深部から、確かに感じる。整然としたものとは違う、あるものを全て積み上げたような、歪んで重なりあった不思議な形の使い魔の気配。きっと、ロフズテルの使い魔だ。その使い魔から漏れ出た、不恰好な光のような魔力が、風に乗って飛んでいる。森の、北の方だ。
俺はそれ目掛けて走り出した。確かに感じる、異常な魔力を目指して走る。すると、その魔力を発するものが、木立の向こうに見えてきた。
使い魔かっ……!!
しかし、そこにいたのは、一人の男だった。近づいてくる俺を敵と見做したのか、もうあまり動かなくなった体で、フラフラと立ち上がり、俺に振り向く。
残念ながら、使い魔じゃない。
「お前かよっっ!!」
俺は拳を構えて殴りかかる。もしかしたら、姿を変えた使い魔かもしれないと、淡い期待を持って殴りかかったんだが、やっぱり使い魔ではなかったらしい。
わざと外してやったのに、自分のすぐそばで俺の拳が地面に減り込んだのを見て、腰を抜かしたらしい。コキーラはガタガタ震えている。魔力も感じない。
くそ、俺としたことが……こんな怯えた男と、ロフズテルの使い魔を見間違えるとは。
コキーラは、ガタガタ震えながら言った。
「お、お前……ヴァデス……な、なななな何で……こ、こ、こんなところに…………」
「使い魔の気配を感じた。だから来ただけだ」
「なんだと……じ、じゃあ、お、お前が……俺を助けに来てくれたのか?」
「助ける? そういえば貴様、なぜこんなところにいる?」
「実習中だったんだ!! そ、それが、急に、変なものが襲ってきて……あ、あんなの、学生に破壊できるはずないだろ!! あれに襲われて動けなくなった奴、た、たくさんいるんだ!」
「あれ? どんなものだ!? どんな使い魔だった!?」
「く、黒い……竜みたいだった……な、何であんなのがここに……誰が作ったんだよ! あれ!」
「お前、柵が破壊されたことを知らないのか?」
「さ、柵?? なんのことだ!?」
柵の破壊を知らないのか……てっきり、実習中の事故かと思っていたんだが……
だが、よく考えてみれば、あの柵を破壊しようとすれば、それにはかなりの魔力がいる。学生の中で、そんなことができるものはいないはずだ。まぐれや事故、魔法の暴走ではあり得ない。あのコレリールの魔力を持ってしても、魔力だけで何とかできるものではない。じゃあ、何で柵が壊れたんだ??
「コレリールは? あいつはどうした?」
「それは、俺にも分からない……誰が逃げて、誰が逃げていないかも分からないんだ……!」
「落ち着け。すぐに学内警備隊が来る。お前は心配しなくていい」
「あ、ああ……」
まだ怯えた様子のコキーラに触れる。微かな魔力を感じるが、こいつのこの魔力でも、一人でこの森から逃げることくらいはできるはずだ。
俺は、足元に生えていた苔をむしって、スズメくらいの大きさの使い魔の鳥を作り出した。
「歩けるか?」
「あ、ああ……歩くくらいなら……」
コキーラは、フラフラと歩き出す。本当に、歩くくらいならぎりぎりできるといった様子だ。そんな状態で、ロフズテルの使い魔から逃れるなんて、不可能だろう。途中で転びでもされて、使い魔に襲われたら大変だ。こいつの悲鳴に驚いて飛んできた学内警備隊が、ロフズテルの使い魔を傷つけるかもしれない。
破壊せず、できるだけ傷つけず、生捕り。これが俺の理想だ!! 警備隊の連中、何でもすぐ壊しちゃうからな。
俺のロフズテルの使い魔生捕り作戦を成功させるためには、こういう奴がいては邪魔だ。できるだけ早く、全員外に放り出さなくては。しかも、下手に怪我でもされたら、ロフズテル使い魔捜索のための警備隊の数はどんどん増える。火炎と毒の魔法を研究する教授なんかが出て来たら、俺の大事なターゲットがあっという間に炭にされてしまうかもしれない!!
そう思った俺は、作り出した鳥の使い魔を大きくして、人が乗れるくらいの大きさにした。
「これに乗っていけ。森の出口まで飛ぶように魔法をかけてやる。森をでたら、すぐに苔に戻る。その前に自分で飛び降りて使い魔から離れろ。それくらいはできるだろう?」
「あ、ああ……」
そいつは顔を綻ばせ、俺の使い魔によじ登る。けれどまだ足が震えているらしく、うまく登れないでいる。やれやれ。世話の焼ける男だ。
俺はそいつの体に魔法をかけ、使い魔の上に乗せた。
「ちゃんとつかまっていろ。そんな風では、すぐに振り落とされるぞ」
「ああ、分かっている……あ、ありがとう」
「ありがとう? 何がだ??」
「俺は、今朝…………お前に無礼な真似をしたのに……お前はこうして、俺を……助けてくれるのか……」
「……」
何を言っているんだ。こいつは。
俺は単に、ロフズテルの使い魔が見たかっただけだ。こいつらのことは、助けているんじゃない。ここにいられると邪魔だから放り出すだけだ。決してこんな男を助けたりはしない!
それなのに、コキーラはいまにも泣きそうな顔で、続けた。
「俺など見捨てられても仕方ないのに……」
「やめろ……気色悪い。俺は単に、貴様らが邪魔なだけだ。だから追い出している。それだけだ」
「そうか……」
そうかって、こいつ本当にわかっているのか? そんなキラキラした目で言われると、分かっているとは思えない。変な誤解をされたままでは気色悪くて仕方ない。俺は本当に助けてない!! 感謝もされたくない!
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