29 / 85
29.冷静に
しおりを挟むとにかくこれ以上騒がれては変に目立ってしまう。そして、この二人に大人しくしろと言っても、それは無駄だということに気づいた。
状況を理解し、常に臨機応変に対応策を考えるべきだ。
そう思った俺は、カフェへ戻り、テイクアウトのサンドイッチとコーヒーを持って、この時間は人気のない高台の広場へ来た。校舎から少し離れた、学園が見下ろせるここは、夜には美しい夜景が見られる場所として人気なのだが、朝のこの時間に、こんなところまで上がってくるやつはあまりいない。
今も、いくつかあるベンチには誰もいなくて、木立が揺れる音が聞こえるだけだ。
そこに二人を座らせた俺は、二人に振り返って仁王立ちになった。
「いいか!! 貴様ら!! 魔法を教える件と番犬の件は許可してやる!! だが、俺の邪魔をするなら即座に消す!! 分かったら、人の多いところで師匠だの飼い犬だのと喚くな!!」
すると、俺を見上げたコレリールが、不満そうに言った。
「しかし、師匠。僕が師匠の弟子であることは、学内に広めておくべきです! そうでないと、他の者が師匠に破壊の魔法を教わろうと近づいてくるかもしれません!!」
「来たとしても教えない。俺が弟子にするのは唯一、貴様だけだ」
破壊の魔法は、元々イメージが悪いところに、王が独裁の兵器としようとした魔法という噂までくっついて、学内では毛嫌いされている。コキーラのようにあからさまな行動に出るやつは少ないが、俺に対する印象は、その魔法を研究して追い出された下衆、そんなところだろう。
今の状況で、破壊の魔法を教わろうとしてくるのは、岩の庭園目当ての輩と見て間違いない。貴族が後ろにいるか、もしかしたら、クレレーイト公爵の回し者かもしれない。
相手にしないほうが得策だ。
「俺が破壊の魔法を教えるのはお前だけだ。余計な心配はするな…………」
何でコレリールは、さっきから俺をキラキラした目で見ているんだ……? なんだか怖いぞ。
視線が重くて、それに押されるように一歩下がるが、コレリールは俺の両手をギュッて握る。
「ありがとうございます!! 師匠っ……! ぼ、僕……頑張ります!!」
「あ……ああ……」
なにがそんなに嬉しいんだ、こいつは……
しかも、その隣にいるゲキファが、これから人でも殺しに行きそうな目で、コレリールを睨んでいる。そして、突然立ち上がったかと思えば、俺を抱き寄せてコレリールから引き離した。
「お、おいっ……! ゲキファっ! こういうことはやめろと言っただろうっ……!」
怒鳴る俺から、ゲキファはすぐに手を離す。だけど、そうしたことを失態とは思っていないらしい。
「……そいつは昨日、ヴァデスを襲ってる。危険を感じたから引き離しただけ」
「……貴様に守られずとも、俺は自分で」
「俺のこと番犬にしてくれたのに?」
また恨めしげな目で見下ろされて、俺は言葉に詰まってしまう。こいつの目、苦手だ。そんな風に、真っ直ぐに見られること、あんまりなかったからか? どうしても、目を逸らしたくなる。
「と、とにかく、突然引き寄せるのはやめろっ……! お前にそうされると、冷静でいられない……」
「………………え?」
「貴様の行動は、俺の思考を乱す。分かったら、突然抱き寄せるな」
「…………分かった」
ゲキファが承諾するのを聞いて、少し安心した。物分かりが悪いわけではないようだ。
だけで安心したのも束の間、そいつは体が触れそうなくらい近くに立って、俺を見下ろし微笑んだ。
「じゃあ、ずっとヴァデスのそばにいる」
「は!?」
全然分かってない……むしろこいつなんか嬉しそうじゃないか? どうかしてる……
「俺、ヴァデスの飼い犬だし」
「…………勝手にしろ」
説得は無駄。状況を理解し、打開策を探すんだ。もうゲキファは犬、コレリールは弟子でいい!!
そもそも、俺はこいつらを籠絡し、研究所を再興するために来たんだ。だったら、その作戦はこの上なくうまくいっているじゃないか。うん。うまく行っているんだ。
ただ一つの問題は、こいつらがいちいち睨み合いをすること。いちいち喧嘩をされたら目立つし、内部でいがみあっていては、目標を達成できない。
「いいか。貴様ら。俺の弟子と犬にしてやる。だから、いちいち睨み合うのをやめろ。目の前で言い合いをされては、俺が迷惑だ」
すると、二人とも顔を見合わせて、俺に振り向く。
「師匠、僕はこいつが気に入りません。そばにいるだけで不快です」
「よく言うよ……俺だって、コレリールがヴァデスに近づかなければ、睨んだりしない」
そしてまた始まる睨み合い。最初に戻った。ここまで俺が話したことが無駄になっている。
こいつら……もう頭から破壊してやろうか。
……冷静になるんだ、俺。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説

灰かぶり君
渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。
お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。
「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」
「……禿げる」
テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに?
※重複投稿作品※

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

とある冒険者達の話
灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。
ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。
ほのぼの執着な短いお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる