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26.何をキレているんだ

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 ちょっと強引にコキーラを席につかせた俺は、サンドイッチの皿を囲んで、朝食を始めた。

 なかなかうまいサンドイッチではないか。

 しかし、無理矢理連れてこられたコキーラは、さっきからずっと、ゲキファの視線に怯えている。俺は率直なこいつの意見が聞きたいのに。

 邪魔なゲキファめ……しかし、追い払うわけにもいかない。

 少し場を和ませてみるか。

 俺は、テーブルの上のスプーンを握り、破壊の魔法をかけた。形を失ったそれを作り変え、缶詰用の缶を作り出すと、そばにあった刺身に魔法をかけて、ツナ缶を作ってみせる。

「見ろ」

 せっかく俺が長年研究している魔法を見せてやったのに、コキーラは大して興味なさそうな目を向けてくる。

「何をだよ」
「ツナ缶だ」
「それ見てどうなるって…………言うんですか?」

 ゲキファに睨まれて、いきなりガタガタ震えながら敬語になるコキーラ。

 くそ……ゲキファのやつ……いつまでキレてるんだ!! 場を和ませようとする俺の努力を一瞬で無駄にしやがって。

 コキーラは、俺のことを知っていた。おそらく、俺が学園に戻ってきたことも、あらかじめ知っていたんだろう。だったらそれをどこで知ったのか、聞き出そうと思っていたのに、こんなにビクビクされたんじゃ、まともに話もできない! そもそも、絡まれたのは俺。馬鹿にされたのも俺。こいつがこんなにキレなくてもいいだろ。

 俺は、パンを切ってツナを挟むと、出来上がったツナサンドを皿に並べ、慣れない優しい顔をして、コキーラに微笑んだ。

「食べてみろ」
「あ、ああ……いえ、はい」
「敬語は使わなくていい。クラスメイトだろう」
「違います」
「違うのか?」
「俺は防御魔法専門なので……防御魔法科なんです」

 そう言いながらコキーラはツナサンドをくわえる。するとすぐにそいつは笑顔になった。

「うまい……」
「だろう? 使い方によってはこんなにうまくできるんだ」
「へえ……ひ!」

 コキーラは、いつのまにかそいつをじーーっと睨んでいたゲキファと、不幸にも目があってしまい、また悲鳴をあげる。よほど怖いらしい。

 こいつ……そろそろいい加減にしろ。何をさっきからヘソを曲げているんだ!

 絡んできたコキーラのことが気に入らないのはわかるが、そこまで睨まなくてもいいだろう!

 コキーラは、ビクビクしながら、ツナサンドをゲキファに差し出した。

「あ、あの……ゲキファ様も……どうですか?」
「…………ヴァデスに作ってもらったからって、いい気になるなよ……」
「へ!??」
「俺はヴァデスとディナーへ行く約束してるんだ」
「あ、あの……何の話を……」

 なんの対抗をしているんだ。ゲキファは。

 もう我慢できない!

 俺はゲキファの手を取って、席を立った。

「え……? ヴァデス?」

 そいつが驚くのを無視して、カフェの外まで連れ出す。
 カフェを囲む庭園の、木々が並ぶあたりまで来てから、俺はそいつの手を離した。

 ここなら、店内からも木に隠れて見えないだろう。

「どういうつもりだ!! 貴様!!」

 怒鳴りつけてやるが、ゲキファは何を言われているのかわからないようだ。

「どうっ……て?」
「さっきからの貴様のその態度だ!! 俺はあいつに話があるのに、貴様がその態度であいつを威圧していると、ろくに話もできないだろう!! あいつを見てみろ! ずっと震えて……」
「話って何?」
「は!?」
「あいつに話って……なに?」
「……あいつは俺がここにきていることをあらかじめ知っていた。その理由が知りたいんだ!」
「……それだけ?」
「だけ、だと!? 重要なことだろう!! だいたい、他に何があるというんだ!?」

 腕を組んで聞いてやると、ゲキファは気まずそうに顔を背ける。

「…………いや……ごめん」

 素直に謝ったそいつは、態度が俺の前にいる時の犬に戻っている。しゅんとして尻尾を垂れているし、反省したんだろう。ならいいか……

「分かればいい! 戻るぞ」

 全く、意味がわからない上に、面倒な男だ!

 カフェの方に戻り出す俺に、ゲキファもついてくる。

「だいたい、絡まれたのは俺だろう。なぜ貴様がキレるんだ! 貴様は黙って……」

 言いかけた俺は、いきなり後ろから肩を掴まれた。そのまま引き寄せられ、後ろからもう片方の腕も俺を包む。

 俺の後頭部が、後ろから俺を抱きしめたゲキファの胸にあたった。

 突然背後から抱きしめられて、本能的に反撃に出ようとするが、強い力で抱きしめられて、動けない。

「お、おいっ……な、何を……」
「…………キレるよ……」
「はっ……!?」
「ヴァデスのこと傷つけられたら……キレるよ。大事……だから……」
「はぁ!??」

 何言ってるんだこいつ!!

 すぐに振り払いたいのに、こいつ、力、強い!! 何なんだこの馬鹿! 力だけ強いから始末に負えない!!
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