26 / 85
26.何をキレているんだ
しおりを挟むちょっと強引にコキーラを席につかせた俺は、サンドイッチの皿を囲んで、朝食を始めた。
なかなかうまいサンドイッチではないか。
しかし、無理矢理連れてこられたコキーラは、さっきからずっと、ゲキファの視線に怯えている。俺は率直なこいつの意見が聞きたいのに。
邪魔なゲキファめ……しかし、追い払うわけにもいかない。
少し場を和ませてみるか。
俺は、テーブルの上のスプーンを握り、破壊の魔法をかけた。形を失ったそれを作り変え、缶詰用の缶を作り出すと、そばにあった刺身に魔法をかけて、ツナ缶を作ってみせる。
「見ろ」
せっかく俺が長年研究している魔法を見せてやったのに、コキーラは大して興味なさそうな目を向けてくる。
「何をだよ」
「ツナ缶だ」
「それ見てどうなるって…………言うんですか?」
ゲキファに睨まれて、いきなりガタガタ震えながら敬語になるコキーラ。
くそ……ゲキファのやつ……いつまでキレてるんだ!! 場を和ませようとする俺の努力を一瞬で無駄にしやがって。
コキーラは、俺のことを知っていた。おそらく、俺が学園に戻ってきたことも、あらかじめ知っていたんだろう。だったらそれをどこで知ったのか、聞き出そうと思っていたのに、こんなにビクビクされたんじゃ、まともに話もできない! そもそも、絡まれたのは俺。馬鹿にされたのも俺。こいつがこんなにキレなくてもいいだろ。
俺は、パンを切ってツナを挟むと、出来上がったツナサンドを皿に並べ、慣れない優しい顔をして、コキーラに微笑んだ。
「食べてみろ」
「あ、ああ……いえ、はい」
「敬語は使わなくていい。クラスメイトだろう」
「違います」
「違うのか?」
「俺は防御魔法専門なので……防御魔法科なんです」
そう言いながらコキーラはツナサンドをくわえる。するとすぐにそいつは笑顔になった。
「うまい……」
「だろう? 使い方によってはこんなにうまくできるんだ」
「へえ……ひ!」
コキーラは、いつのまにかそいつをじーーっと睨んでいたゲキファと、不幸にも目があってしまい、また悲鳴をあげる。よほど怖いらしい。
こいつ……そろそろいい加減にしろ。何をさっきからヘソを曲げているんだ!
絡んできたコキーラのことが気に入らないのはわかるが、そこまで睨まなくてもいいだろう!
コキーラは、ビクビクしながら、ツナサンドをゲキファに差し出した。
「あ、あの……ゲキファ様も……どうですか?」
「…………ヴァデスに作ってもらったからって、いい気になるなよ……」
「へ!??」
「俺はヴァデスとディナーへ行く約束してるんだ」
「あ、あの……何の話を……」
なんの対抗をしているんだ。ゲキファは。
もう我慢できない!
俺はゲキファの手を取って、席を立った。
「え……? ヴァデス?」
そいつが驚くのを無視して、カフェの外まで連れ出す。
カフェを囲む庭園の、木々が並ぶあたりまで来てから、俺はそいつの手を離した。
ここなら、店内からも木に隠れて見えないだろう。
「どういうつもりだ!! 貴様!!」
怒鳴りつけてやるが、ゲキファは何を言われているのかわからないようだ。
「どうっ……て?」
「さっきからの貴様のその態度だ!! 俺はあいつに話があるのに、貴様がその態度であいつを威圧していると、ろくに話もできないだろう!! あいつを見てみろ! ずっと震えて……」
「話って何?」
「は!?」
「あいつに話って……なに?」
「……あいつは俺がここにきていることをあらかじめ知っていた。その理由が知りたいんだ!」
「……それだけ?」
「だけ、だと!? 重要なことだろう!! だいたい、他に何があるというんだ!?」
腕を組んで聞いてやると、ゲキファは気まずそうに顔を背ける。
「…………いや……ごめん」
素直に謝ったそいつは、態度が俺の前にいる時の犬に戻っている。しゅんとして尻尾を垂れているし、反省したんだろう。ならいいか……
「分かればいい! 戻るぞ」
全く、意味がわからない上に、面倒な男だ!
カフェの方に戻り出す俺に、ゲキファもついてくる。
「だいたい、絡まれたのは俺だろう。なぜ貴様がキレるんだ! 貴様は黙って……」
言いかけた俺は、いきなり後ろから肩を掴まれた。そのまま引き寄せられ、後ろからもう片方の腕も俺を包む。
俺の後頭部が、後ろから俺を抱きしめたゲキファの胸にあたった。
突然背後から抱きしめられて、本能的に反撃に出ようとするが、強い力で抱きしめられて、動けない。
「お、おいっ……な、何を……」
「…………キレるよ……」
「はっ……!?」
「ヴァデスのこと傷つけられたら……キレるよ。大事……だから……」
「はぁ!??」
何言ってるんだこいつ!!
すぐに振り払いたいのに、こいつ、力、強い!! 何なんだこの馬鹿! 力だけ強いから始末に負えない!!
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。
鏑木 うりこ
恋愛
クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!
茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。
ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?
(´・ω・`)普通……。
でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。
〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる