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22.夜の予定

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 俺は、顔を上げた。

 せっかくの朝だ。食事にでも行くか。食堂なんかへ行けば、目立つことはわかっている。だが、こそこそ隠れたところで意味がない。授業に出ればすぐに知れることだ。隠れるより、公爵が焦って出てくるまでに用意をしておく方が利口だ。

「ゲキファ、コレリールの部屋はどこか、知っているか? 案内して……」

 言いかけて、口を閉じる。

 だって、ゲキファが俺を、すくみ上がるような目で見ていたから。

 なんだ? こいつ。何でこんな怖い目で見るんだ??

「なんで……そんなこと聞くの?」
「……な、なんで?? あいつと朝食を…………」

 言いかけて、再び口を閉じる。

 だってゲキファが刺すような目で、俺を見ていたから。何なんだ一体!!

「やめた方がいい……あいつ、ヴァデスを襲ったんだから……」
「あんなもの、怖くも何ともない。今度来たら首を締め上げる。あいつに話があるんだ。あいつは俺の破壊の魔法に興味があるらしいからな」
「……」

 ゲキファは、いきなり俺の手首を強く握る。なんだ、喧嘩か? 買うぞ。クズが!

「何をっ……」
「俺だってっ……ヴァデスの魔法に興味あるっっ!!」
「はっ……!?」

 何言ってるんだこいつ?? そんな話、今してないだろ!!

 それなのに、そいつは俺をじっと見下ろしている。なんなんだこいつ。やっぱり喧嘩か!!

 俺の手首を捕まえたゲキファの腕を握り、魔法をかける。すぐにゲキファは飛び退くかと思ったが、俺の魔法は、そいつの体に吸われるようにして消える。

 消去の魔法か……!?

 そんなものが使えるなんて聞いてない。あらゆる魔法を打ち消す消去の魔法は、かなり高度なもので、誰にでも使えるものじゃない。
 さっき、俺が拘束の魔法を使った時、咄嗟に反撃しかけた時に見せたのはこれか!!

 なるほど、俺の魔法を知りながら喧嘩を売るだけあるじゃないか。

 ゲキファは、じっと俺を見下ろして、急に手を離した。

「ごめん……」
「…………謝るなら最初から喧嘩を売るな」
「け、喧嘩?」
「したかったんだろう? 買うぞ。何なら表へ出ろ」

 俺は拳を握ってみせる。

 けれど、ゲキファは少し困ったように頬をかいた。

「え……と……喧嘩売ったつもりはない……少し……嫉妬しただけで……」
「嫉妬? 馬鹿にしているのか? 魔力ならお前の方が圧倒的に上だろう」
「……そうじゃなくて…………俺、ヴァデスのこと誘いにきたのに、コレリールと食事に行きたいなんて言うから……」
「誘いにきた? それでドアの外にいたのか……では、俺が食事に行きたいと言ったことが気に入らなかったのか?」
「……」

 なるほど……策略を立てているのは俺だけではなかったと言うことか……

 ゲキファは伯爵の息子。いずれ家の敵に回る男の謀略を知りたいと思うのは当然だろう。なかなか可愛いやつではないか。俺に挑戦するとは。

「いずれ二人で食事に行ってやる」
「え……?」
「俺と食事に行きたいのだろう? ディナーは貴様と二人でしてやろう」
「え…………い、いい……の……?」
「ああ。予定を空けておけ。代わりに、店は俺が決める。構わな…………」

 振り向いたら、ゲキファは真っ赤じゃないか。

 な、何だその顔はっ……! 俺はただ、食事に行こうと言っただけだぞ。なんなんだ……

 今度は俺の方が顔をそむけてしまう。だって、そんな顔されるなんて思わなかった。謀略聞き出したかったんじゃないのかっ!?
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