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19.理解できない理由

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 目的を達成するまではできるだけ目立ちたくない。それなのに、こいつは何をしているんだ!

 俺は慌てて、目の前で膝をつくゲキファの手を取った。

「お、おいっ……やめろ!! 立て! 今のは冗談だ!!」
「でも……」
「でもじゃない!! 俺が迷惑しているのがわからないのか!!」
「あ……」

 ゲキファは、周りを見て理解したのか、やっと立ち上がった。

 なんだこの屑は!

 俺の迷惑を理解する能と、それを知って止める感情は持っているが、こんな下衆見たことない!

「何なんだ貴様は!」
「ごめん……」

 面倒な男だ。もうこのまま、突き放してしまおうか。
 本当にそうしたくなるが、あの研究所のためだ。この、危ないゲキファのことも、籠絡しておかなければならない。面倒……というか怖いが、俺の目標のためだ。

 心底嫌だが、俺はそいつの手を取った。

「行くぞ」
「え……ど、どこへ?」

 尋ねるそいつは、目を丸くしている。

 こいつを抱き込んで、研究所再興への足がかりにするつもりだったが、まさか、こんなに面倒な男だったなんて。

 俺はそいつを、半ば無理矢理自分の部屋へ連れ込んだ。目立つ廊下より、ここの方がいい。

 昨日、訳の分からないことを言われたせいで、俺の思考はイライラしっぱなしなのだ。

 このままではいけない。思考をかき乱されたままでは、籠絡などできるはずもない。

「貴様…………どういうつもりだ?」

 睨みつけて聞いてやるが、目の前の男はキョトンとしている。何を言われているのか、わかっていないらしい。

「どうって……何のこと?」
「昨日のことだ!! 俺を好きだと言っただろう!!」
「……あれは……俺がゲキファを好きって伝えたつもりだったんだけど……」
「ふん! 馬鹿らしい!! 貴様、俺がそんな言葉に騙されると思うのか? どうせ何か、企みがあってのことだろう。言え! 言うまで、この部屋からは出さない」

 部屋のドアに魔法をかける。俺が許可しなくては開かない、鍵の魔法だ。

 この男が、何を企んでいるのか、それを明らかにしなくてはならない。好きだのと言っているが、そんなはずはない。俺に付き纏っていたのも、他に何か意図があってのことに決まっている。好きだと言っておいてこちらを撹乱し、裏では俺をはめるために動いているはずだ。

「貴様が、俺の復学を強く学園長に訴えていたことは知っている。応じないのなら、公爵と手を組み、学園長と王をその地位から引き摺り下ろそうとしていたこともだ。誰かに俺を連れてこいと頼まれたのか?」

 俺の推測では、それはおそらく、クレレーイト公爵。破壊の魔法を使う俺を抱き込み、岩の庭園への門を開かせるつもりだろう。はたまた、破壊の魔法を使う俺を、野放しにはして置けないと思い、消す気なのかもしれない。

 どちらにしろ、魔力に目が眩んだ男にやられてやるつもりはない!

 相手の返事を待つ。おそらく、そう簡単に話したりはしないだろう。しかし、この男をこのままにして置けば、いずれ寝首を掻かれる。たとえ強引な手を使ってでも、今ここではっきりさせておかなくては。俺の拘束の魔法は、拷問のための術だ。必ず聞き出してやる。

 決意する俺の前で、ゲキファは尻尾を垂れて言った。

「俺は、ヴァデスに戻ってきて欲しかっただけだ」
「俺を呼び戻してどうするつもりだったんだ?」
「ヴァデスに対する処分は不当だ。だから、学長に直談判した。俺は誰とも組んでない。ヴァデスに戻ってきて欲しかっただけだ」
「……それが公爵からの指示でないと言うなら、なぜ貴様がそんな真似をするんだ?」
「不当な処分に抗議することはおかしなことじゃないだろ。もちろん、ヴァデスのこと、好きだからって言うのもあるけど……」
「いい加減にしろ。その、好きだと言う言葉に、俺が騙されるとでも思っているのか?」

 くそ。イライラする。埒が明かない。俺を舐めるなよ!
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