悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
12 / 85

12.諦めろ!

しおりを挟む

 確かに、俺と俺の恩人であるロフズテルに全ての罪を着せて切り捨てた王は憎んでいる。
 しかし、破壊の魔法については理解がない。その名前と、まだ魔法学が広まっていないうちに争いの道具とされたせいで、すこぶるイメージは悪いが、次々新しい魔法が生み出される中、破壊の魔法が争いに使われることはほとんどなくなった。
 たとえば破壊の魔法で魔物を倒そうと思ったら、それは世界一の魔力を持っていてもかなり苦しい戦いになる。何しろ、破壊の魔法では、破壊できる範囲が魔力量に依存する上に、膨大な魔力を持ってしてもごく小さな範囲しか破壊できない。よほど正確に相手の急所だけを狙える力がない限り、それで敵を倒すことはかなり難しい。その上、魔物のように魔力だけで動くものに対しては、ほとんど効果がない。そんなものを使うより、火炎や氷の、破壊規模の広い魔法でも覚えた方がよほど効率的だ。

 それでも王が破壊の魔法の研究を続けたのは、魔力を蓄えた岩の庭園を掘り起こすためだった。ここから少し離れた森を抜けると、いくつもの岩山が連なる場所がある。そこには、魔力を蓄えた草木が咲き誇り、それから滲み出た魔力が次第にそこにある土や石と同化して、莫大な魔力が溜まっているらしい。しかしそこは、切り立った岩山に囲まれ、しかもその岩山は、その周囲にいる魔物の魔力を取り込んでいるため、破壊が難しく、魔力が溜まっているところまで辿り着いたものは誰もいない。破壊の魔法はその岩を壊すにはぴったりの魔法で、王はそれを掘り起こしたかったのだ。

 しかし、岩の庭園の魔力が恐ろしく膨大なものだと分かってくると、貴族たちの間で、王は破壊の魔法を兵器として使い、独裁を企んでいると噂になった。貴族たちは庭園の魔力を王が独り占めすることを避けたかったのだろう。

 議会でその問題が持ち上げられると、それまで、庭園の発掘と破壊の魔法の研究に協力的だった貴族たちまでもが、掌を返したように王の敵に回った。

 貴族たちはこぞって王を裏切ったのだ。破壊の魔法を使い、魔物たちを呼び起こす気だと吹聴され、どう責任を取るつもりだと迫られた王は、俺たちを切り捨てて、自分だけ逃げた。

 腹は立つ。憎んでもいる。復讐もする。だが、一方で王の立場もわかる。

 だからこそ、俺はあの王がいなくなっては困るのだ。少なくとも、王が魔法の国と繋いだ人脈と、魔法の取引のノウハウを次代に引き継いでもらうまでは、勝手に代替わりなどされては困る!

「言っておくが、破壊の魔法は、極めたところで王など殺せないぞ!」
「そんなことはありません! 破壊の魔法で、僕は父上と兄上を……」
「黙れ! そんなに殺したいなら暗殺術でも身につけろ!! いや、身につけられても困るが……とにかく、暗殺は諦めるんだ!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

君と秘密の部屋

325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。 「いつから知っていたの?」 今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。 対して僕はただのモブ。 この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。 それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。 筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

処理中です...