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6.吹っ飛ばすとは言っていない
しおりを挟む俺は、腕を組んでヴェアと対峙した。
「さあ、俺と一緒に来てもらおうか?」
「な、なんだと!? どこへだ!?」
「決まっているだろう。学長室だ」
「ふざけるな!! 貴様をそんなところへ連れて行けるか! 詐欺師め!」
怒鳴るそいつが余計なことを言う前に、俺はそいつの肩を抱いた。
「落ち着け。そんなに真っ直ぐに生きてどうする? ん??」
「離せっ! 真っ当に生きて何が悪い!! 近寄るな!! 詐欺師!!」
「俺はお前に招待されたんだ。さあ、一緒に盗人の猫を捕まえた褒美として学長室に連れて行け」
「ふざけるな! 誰がいつ貴様を招待したと言うんだ!! だいたい、学長には会わせられないと、そう言っただろう!!」
「確かに聞いた。だが、そういうことにしておいたほうが、利口なんじゃないか? いつのまにか水路ができてて、こうも簡単に侵入を許したなんてことが露呈したら、学園はどうなる? 学園長は、責任を取らなくてはならなくなるのではないか?」
「う……」
ヴェアが、迷いの色を見せる。
こいつには、俺を招き入れる、仲の良い知り合いになってもらおう。もちろん、最初からそれがいればよかったのだが、俺に友人はいない。
ヴェアは、俺を見上げ、何かに気付いたらしく、声を荒らげた。
「貴様っ……! その顔は見たことがあるぞっ……! 狂気の研究所の手先だな!?」
相当怒っているのか、そいつは、俺から距離を取った。やる気なんだろう。ヴェアの周りに魔力が集まり始めた。
今ここで俺を殺してしまえば、警備の甘さをベラベラ喋る奴もいなくなると言う判断だろう。
強引だが、なかなかいい判断だ。
だが、無謀だ。その程度の魔力で俺は殺せない。それは相手にも分かっているんだろう。額を汗が流れていく。
「さあ、俺を学長室に連れて行ってもらおうか? さもなくば、今ここで破壊の魔法を使うぞ!」
「なんだとっ……!?」
相手の顔が、驚愕に染まる。
単純な奴だ。簡単に騙される。
これから返り咲こうって言うのに、学園を壊してしまっては意味がない。もちろん壊す気などさらさらないのだが、相手は真っ青だ。
「くそっ……貴様には良心がないのか! 学園ごと吹っ飛ばすなんて!!」
「良心なんてものは俺にはない! さっさと案内しろ!」
吹っ飛ばすとは言っていないのだが……そもそも、この学園の校舎は、魔法に失敗した学生が爆発を起こすことがあるので、魔力で存分に強化されている。そんなものが、一人の魔法で吹っ飛ぶはずがない。
こいつもそれは知っているはずだ。もしかして、それを忘れるほど怯えているのか? 俺、すごいな。まるで大悪党ではないか。なかなか格好いい。
「さあ!! 俺を学長室に案内しろ! さもなくば、全員殺す!!」
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