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5.ついに叶った夢
しおりを挟む屋根を飛び越え、街に一つしかない時計塔の下を通って、猫は一心不乱に走って行く。それが走る先には、夜でも煌びやかな光をたたえた、巨大な学園の校舎。
隣の男も、猫が学園に向かっていることに気づいたらしい。
「あいつ……城にっ……!?」
そいつが驚いている隙に、俺は猫をこちらに振り向かせた。その口から、魔力を込めた砲撃を放つ。自分で操っているとはいえ、自分に向かって砲撃を放つのは、かなり勇気がいるが。
「危ないっ……!」
叫んだヴェアが、俺に向かって手を伸ばす。俺が使い魔の砲撃にやられてしまうと思ったのだろう。お人好しめ。
俺は、その男の手を握った。逃さないためだ。
途端に俺たちは、激しい衝撃に襲われる。俺は魔力で自分の体を守り、ヴェアも、俺を庇って自分ごと魔力で包む。
本当にお人好しだな。俺に利用されているとも知らずに。
魔力の壁がなければ、全身の骨を折られてしまうほどの衝撃だったはず。使い魔に全力で撃たせた魔力砲は、俺たちを地上目掛けて叩き落とす。俺たちが落ちる先には、街を流れる水路。
激しい衝撃と共に、俺たちは水路に墜落した。
うまくいった。
魔法を使えば泳ぐことはできる。だけど俺は水は苦手。ついでに、濡れるのが嫌い。お風呂は好きだけど、冷たい水は苦手だ。しかし、今だけは我慢だ。
魔法で体を包めば息はできる。水路は町の地下へ潜っていき、そのまま俺たちは流されて行った。
急に水の流れる先が明るくなったかと思えば、俺たちは水の中から放り出される。
吹き出した水と一緒に、地面に落ちた。魔法のおかげで濡れなかったけど、着地した足が痛い。
投げ出された先は、芝生の庭だった。学園内の庭だ。
成功だ。
ついに俺は、学園に戻ってきたんだ。
しかし、ひどい目にあった……こんなに濡れるなんて、想定外。
急いで自分の毛をといて毛繕い。汚れるのは嫌いなんだ。
尻尾も綺麗になって、あたりを見渡す。芝生がずっと敷き詰められたそこは、広い庭だ。俺たちが流されてきた水路につながった池があり、噴水が空高くまで水を噴き上げては、花壇に水を落としている。
背後には、高い塀。庭の向こうには、巨大な校舎が見える。俺が一年夢見た景色だ。
街の水路は、一年かけ俺が魔法で作り替えた。学園の中の池につながるように。
すぐにでも計画を決行したかったが、それには一つ、大きな問題があった。
単純に学園に忍び込むだけでは、俺は侵入者になってしまう。そうなれば、見つかり次第、即拘束だ。
もちろん、逃れる術は身につけている。しかし、俺はコソコソするのが嫌いなんだ。大手を振ってここに入りたかった。
学内への侵入は禁止されているが、例外はある。学園内の友人を救助するためだと言えば、俺が非難されることはまるでない。
「ありがとう。お前のおかげでここに戻ってくることができた」
礼を言って、俺はヴェアに振り向く。思いっきり利用してやった男は、水を飲んだらしく、何度か咳き込んで、俺を見上げた。
「き、貴様……っ! どういうことだ!!」
「俺をここに入れてくれたから、礼を言った。それだけだ」
「お前を……ここに入れた? い、一体……」
「あの使い魔の猫を操っていたのは俺だ」
「なんだと!?」
「馬鹿め……貴様は俺が学園の中に入るために利用されたのだ!!」
「そんな……」
愕然とするヴェア。その顔を見ると、俺はこの上なく気持ちいい。
そこまで落ち込まれると、ちょっと胸が痛い気もするが……
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