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40.嫉妬って……

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 見せつけるな! と叫んだトリステリクさんは、どこか顔が赤い。
 そんなことしたつもりはないのに……そんな風に見えてたのか!??
 なんだかそんなことを言われたら、僕まで恥ずかしくなってきた。さっきキスされちゃったし……

 俯く僕に、トリステリクさんは怒鳴るように言った。

「だ、だいたい! なんでこんなところにあんなものが落ちてるんだよ!!」
「そ、それは……僕にも…………分からないです…………」

 僕はもともと、魔物のことにはあんまり詳しくない。素材のことなら色々学んだけど、自分で魔物を退治したことはない……

 だけど、あんなものがここにあることの恐怖は、僕にも分かる。魔物を引きつけるようなものが、国境近くの森に放置されているんだから。

 リールヴェリルス様も、魔物の残骸を焼き尽くしたあとに触れながら、難しい顔をしていた。

「魔物の破壊が不完全だったんだろう……力不足だったり、素材の回収がちゃんとできていないと起こることだ……トリステリク。これまでに、森でこういうものを見つけたことはあるか?」

 トリステリクさんは首を横に振る。

「……宿の近くでは見たことないです…………俺らが見回ってるし、デルフィルスさんも、そういうものがあれば必ず教えてほしいって、普段から言ってましたから…………ただ、この辺では、最近たまにあるみたいです。俺はこの辺りまで来たのは久しぶりだから、詳しくは知りませんが……」
「そう……昨日あれだけ退治したにも関わらず、また魔物が現れたのも、そういうことかもしれないな……もう少し森の中を歩いてみるか……」
「は、はい!!」
「……森の中でああいうものを見かけた時の話をデルフィルスから聞いたことはあるか?」
「あっ……それなら……」

 リールヴェリルス様とトリステリクさんは、魔物の話をしながら、どんどん森の奥に進んでいく。

 僕も、慌てて彼らについて行った。

 リールヴェリルス様は、僕に振り向いて「早かった?」って聞いてくれて、僕は大丈夫って答えながら、また彼らの後についていく。

 ……僕にも、魔物対策の話とか、できればいいのに……

 トリステリクさん……いいな……

 僕も、あんな風にリールヴェリルス様の隣にいてみたい。彼と魔物退治の話をしたりしてみたい。

「あっ……あ、の…………ま、待って……ぼ、僕っ……僕、も……」

 声をかけると、トリステリクさんは僕に振り向いて、駆け寄って来る。

「お前も早く来いよ!」
「え!? あっ……は、はい!!」

 返事をする僕に、彼は、にやりと笑って耳元で声をひそめて言った。

「そんな顔すんなよ…………お前、結構嫉妬深いのか?」
「は!? し、し、嫉妬!!??」
「だって、すっげー心配してるような顔してる。そんな顔しなくても、リールヴェリルス様はお前しか見てねーよ」
「……あ、あのっ……! り、リールヴェリルス様に……き、聞こえるっ……!!」

 あんまり大きな声で話したら、全部聞かれちゃう……僕、そんなに嫉妬してるように見えていたのか……?? ただリールヴェリルス様に置いて行かれたくなかっただけなのに……これが嫉妬なのか?

 焦る僕に、トリステリクさんは微笑んで言った。

「なあ! さっき魔物のかけらを回収していた袋、俺の分も用意してくれないか?」
「……え?」
「いいだろ? あれがあれば素材の回収も楽そうだ。金なら払うからさ!」
「か、かね??」
「…………お前、大丈夫か? 代金だよ。代金。冒険者相手に魔法の道具を整備するんだったら、金くらい取れ! 討伐隊の魔法の道具整備でも、作った道具の代金はもらうだろ?」
「………………ないです……僕、無能だから……」
「むのう?」

 僕、一度もお金なんて受け取ったことない……だけど、彼がそんな風に言ってくれると嬉しい。気に入ってもらえたんだ……

「わ、分かりました。宿に帰ったら、用意しておきます」
「本当か!??」
「は、はい…………」

 そんな話をしていたら、リールヴェリルス様が、僕らに振り向いて鋭い目をして言った。

「来たよ。二人とも。気をつけて」
「……え?」

 来たって……何がだ? まさか、魔物?

 そう思って見上げていたら、トリステリクさんも、僕に背を向けて剣を抜いた。

「お前は危ないから下がってろ……この先は、俺らの出番だ……」

 彼らが睨む草むらの方から、何かむくむくと起き上がってくる。真っ黒な泥のような姿をした巨大な魔物だ。

「ひっ……!!」

 あまりにも巨大なその様に、僕は震え上がる。

 けれど、トリステリクさんもリールヴェリルス様も随分余裕がある様子。

 リールヴェリルス様が、僕に振り向いて言った。

「その首輪がフォルイトのことを守ってくれるから、フォルイトはここにいて。すぐに戻るよ」
「は、はい…………」
「それと…………」

 彼の目が、あの少し怖い目に戻る。そして、僕の首輪の鎖を引いたかと思えば、そっと僕に耳打ちしてきた。

「あんまり妬かせないように」
「…………へっ!???」

 なんでそうなるんだっ……!?? むしろ、僕の方が嫉妬していたはずなのにっ……!
 ……どうしよう……リールヴェリルス様を嫉妬させると、怖いことになる!!

 だけど、慌てる僕の弁解を待たずに、リールヴェリルス様は、魔法で空を飛んで、先に魔物に向かっていったトリステリクさんを追って行った。
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