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38.うまくいくかな……
しおりを挟むそのままデルフィルスさんたちと交代で見張りをした僕は、その間、リールヴェリルス様に、少し魔法を教えてもらった。
本当に一晩中弄ばれちゃったらどうしようかと思ったけど、また縛られたりすることもなく、リールヴェリルス様は「せっかくだから魔法教えてあげようか」と言ってくれて、早朝にも、練習に付き合ってくれた。
だけど……
僕のてのひらから湧いた、小さなボールくらいの大きさの火の玉が、一気に空に向かって飛び上がる。
「わあっっ……!」
まさか、飛び出すなんて思わなかった。ただ手のひらの上で燃やすだけのつもりだったのに、それは、弧を描いて僕の頭に落ちてくる。
怖くてつい、その場で頭を抱えてしまう。本当は炎を消す方に集中しなきゃいけないのに。
恐怖に負けた僕を、リールヴェリルス様が庇って炎を消してくれた。
「大丈夫……?」
「あ……あ…………す、すみません……ありがとうございます……」
「急に炎が出てきて、びっくりした?」
「……はい…………あ、焦ってしまって……制御しなきゃって思うほど……混乱してしまっていました……」
「魔法の道具の時は慣れているから落ち着けるのかな……だったら……」
彼は、僕にランタンを渡してくれた。
「これの中に炎を起こすといい。ランタンの中に炎を閉じ込めてしまえば、落ち着けるだろ?」
「は、はい…………」
僕は、ランタンを掲げて、同じ魔法を使ってみた。
すると、ランタンの中に大きな火が灯る。道具の方に集中すると、大きくなりすぎた火を調節して、ちょうどいいくらいにまで抑えることができた。
リールヴェリルス様も嬉しそうに言う。
「それなら、調節しやすいだろ?」
「は、はい……すごいです…………ありがとうございます。リールヴェリルス様のアドバイスのおかげです……」
「フォルイトの実力だよ。それをそんなに自在に操るなんて、俺にはできない。道具を介して制御するものだから、威力は落ちるかもしれないけど、扱いやすいはずだ。実戦でも、魔物を焼き払おうとするより、一番効果的なところを狙うといい」
「は、はいっ…………!」
僕はランタンを、昨日クイヴィーアさんに借りた、木でできた竜の形の使い魔に咥えさせて飛ばした。これで、ずっと持ってなくても、ずっと僕のそばにおいておける。
そんなことをしていたら、僕らの方に、一匹の小さな竜が飛んでくる。光でできたようなそれは、どうやらリールヴェリルスの使い魔らしい。
リールヴェリルス様は、難しい顔をして言った。
「結界の外に、魔物が現れたみたいだ……本当にここは魔物が多い……少し、見てこようか」
「え……!?」
「俺は、森の方にそれを探しに行ってくる。フォルイトは…………」
彼は少し黙って、僕に微笑んだ。
「……一緒に来る?」
「え!?」
「魔法。試しに行かない?」
「…………」
本当はすぐに「行く!」って言いたかったけど、少し、悩んだ。
うまくいくかな……まだちょっと制御できるようになったくらいなのに。
だけど……
「ん?」
リールヴェリルス様が、僕の答えを待ってくれている。その顔を見ていたら、行ってみたくなってきた。もしかしたら、ちょっとくらい役に立てるかもしれないんだから。
「…………あ、あのっ……僕っ……い、行ってみたいですっ……!!」
「……ん…………」
そう言って、彼は僕の頭を撫でてくれた。だけど、優しくそうしてくれていたかと思えば、彼は、今度は強く僕の首の鎖を引っ張ってしまう。
「……嫌って言ってたら、拘束して無理やり連れて行こうかと思っていたけど…………自分から来てくれるのなら……よかった……」
「……り、リールヴェリルス様…………」
嫌って言わなくてよかった…………リールヴェリルス様、たぶん本気だ…………
「じゃあ朝食の後、すぐに出発しようか」
「は、はい!!」
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