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18.約束ですよ!?

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 リールヴェリルス様は、ゆっくりと僕に近づいてくる。

「ねえ、フォルイト……さっきからずーっと、そんな顔してクイヴィーアと話してたんだよね?」
「そ、そんなって言われても…………ど、どんな顔……」
「ほら、その顔。少し困ったような、戸惑っているような、そんな顔。すごく…………そそられる……」
「そっ……そそ!??? そんな……顔、してません……」
「嘘」
「え!?」
「ほら、そうやって俺を見上げるその顔だよ。見てたよ? ずっと、クイヴィーアとそんなふうに話してだろ?」
「み、見てたって………どうやって……」
「もちろん、魔法を使って」
「リールヴェリルス様!! ど、どうかそう言ったことはおやめください!!」
「え? なんで?」
「な、なんでって……だ、だって…………」
「この婚約は策略で作られたものなんだし、フォルイトのこと、ちゃんと見ておかないと、王家に暗殺されちゃうかもしれないよ?」
「……そ、それは困りますけど…………だ、だって……その、は、恥ずかしいですし…………それに、さすがに…………」

 ずっと見られてるなんて、ちょっと……ちょっとじゃない、かなり怖い。
 さっきみたいな特大の僕を見せつけられる辱めも、もう嫌だ。
 だけど、リールヴェリルス様にしてみれば、敵対勢力から来た僕を野放しにするのは心配……なのかな?

「だ、ダメですか……?」

 僕が聞くと、彼は肩を落として分かったって言ってくれた。

「代わりに、俺がずーーっとそばにいることにするね」
「…………ずっとじゃなくていいです……」
「あ、だけど、護衛の使い魔はつけさせてね? フォルイトに何かあると困るから」
「わ、分かりました……それくらいなら……」
「じゃあ、これからお仕置き」
「え……?」
「俺じゃない奴と、仲良く悪巧みしていただろ? これからじっくり、そのお仕置きをする」
「……っ!!」

 そんな……お仕置きって…………

 ショックだったけど、当然かと思った。だって、僕はリールヴェリルス様がいない間に、リールヴェリルス様の邪魔をする相談をしていたんだ。やっぱり怒っているのかな……
 そうでなかったら、僕がうまく立ち回れていないことかもしれない。これから、僕はうまく王家の目を逸らす役割を担わなきゃならないのに、僕があまりに不甲斐ないから……

 これからされることを考えたら、怖くて、唇が震えて、歯が鳴りそうだった。

 そんな風に怯える僕を、リールヴェリルス様はじっと眺めている。

 お仕置きって……何されるんだろう……やっぱり鞭打ち? それとも火炙りか水責めか……

 俯く僕に、彼は優しく言った。

「…………さっきの顔、俺にも、見せて?」
「え……?」

 戸惑う僕を、リールヴェリルス様は椅子に座らせる。
 その間も、ずっと首輪の鎖は握られたまま。こうする時のリールヴェリルス様は、優しいのに、微かに僕を緊張させるような顔をしている。

 何をされるんだろう……

 じっと僕は、首輪の鎖を握られたまま、リールヴェリルス様を見上げていた。

 すると彼は、僕を見下ろして微笑んだ。

「俺にもさっきの、ちょっと怯えて困ってる顔、見せて?」
「へ!?」
「だめ? だって、クイヴィーアにばかりずるいだろ? 俺の足止めがしたいなら、そっちの方が効力あるよ?」
「で、でも……それがお仕置き?」
「うん。早く」
「…………」
 
 ……やらないと、リールヴェリルス様は何も聞いてくれそうにない……笑顔の迫力が怖すぎる。

 だけど、さっきの顔って言われても……どんな顔か分からない。だって無意識にやってることだし、自分がどんな顔をしているかなんて、普段考えない。だから、さっきの顔してって言われてもな……うーん…………

 僕は、なんとかさっきの顔を思い出して、そんな感じの顔を作ってみた。我ながら変な顔だなーと思ってしまう。

 こんなんで、リールヴェリルス様は満足してくれるの?

 ドキドキしながら見上げたら、リールヴェリルス様は、やけに嬉しそうに微笑んでいた。

「可愛い……」
「え…………?」
「すごく可愛い」
「……」

 よ、よく分からないけど、満足してもらえた……のかな?

「き、気に入っていただけましたか!?」
「もう一回」
「へ!?」
「あと一回だけやってみて」
「…………」

 そんなこと言われても……こんな風に表情を使って見上げるの、結構恥ずかしいのに。

 僕は、もう一回さっきの顔を作ってみる。

 一体僕は、さっきから何をさせられているんだろう……

 自分の顔が引き攣っているのが分かる。
 リールヴェリルス様はすっごく楽しそうだけど……僕はどんどん恥ずかしくなっていくばかりだ。

 リールヴェリルス様は、今度は拍手をしてくれた。
 嬉しいような気もするけれど、そんなことされたら、ますます恥ずかしくなっていくばかりだ。

 がんばったし、もういいよね!?

 顔を背けようとしたら、首輪の鎖を引かれてしまった。

「…………ぅっ……!」
「……恥ずかしい?」
「え……?」
「俺のこと見上げるの。そんなに恥ずかしい? ……真っ赤だよ? 気づいてないの?」
「…………!??」

 そんな顔をしてたのか……?

 正直、めちゃくちゃ恥ずかしい。だって、リールヴェリルス様は僕から一瞬だって目をそむけてくれない。

 誰からも目障りだって言われた僕の顔なんて見てても、楽しくないですよね!??

「あ、あのっ……り、リールヴェリルス様!
も、もういいですか!?」
「だめ。もう一回」
「……そ、そんな……お願いです…………も、もう許してください……」
「……なんで?」
「え!? だ、だって……もう……は、恥ずかしいです……」
「……もう限界? そんなに恥ずかしい?」
「…………はい……」
「じゃあ、もう一回。魔力に記憶させるから」
「だっ、ダメです! もうそれはやめてください!!」
「だめ? なんで?」
「な、なんでって……」
「だって、せっかく可愛いのに」

 そう言いながら、彼はそっと、怯える僕の頬に触れて、その手を滑らせ、顎に触れて、僕に無理矢理顎を上げさせる。

「こんなに可愛いフォルイトの顔だよ? 全部記録して映像にして、部屋中に飾って、毎日キスしておかなきゃ」
「……お、お願いです……やめてください…………」
「ほら、また。そんな涙目になって。男を誘ってるの?」
「……僕…………そんなつもりは……」
「ない? じゃあ、無意識か……」
「……っ!」

 今度は唇に触れられて、鼻に触れられて、瞼のあたりを撫でられて。その手つきはすごく優しくて、くすぐったい。だけどなんだか怖くて、逃げようと身を引こうとすれば、首輪の鎖を引かれてしまう。頑張って耐えたけど、それでもビクビクするたびに鎖で止められて、僕は少し喘いだ。

「……ぁっ…………」
「そうやって、苦痛に喘ぐ顔も、怯える顔も、羞恥に赤らめる顔も、笑う顔も、泣く顔も……快楽を感じて乱れる顔も…………全部、俺だけに見せるんだ。他のやつに見せるなんて、許さない。フォルイトの全ては、俺のものなんだから…………それは、ちゃんと覚えておいてね?」
「は、はい…………」
「……嬉しい」

 そう言って、リールヴェリルス様は、鎖を離してくれた。

「フォルイトが嫌がるなら、記録して部屋に飾るのはやめるね」
「……あ、ありがとうございます……」
「代わりに、俺がずっとフォルイトのそばにいて、どんな表情も、俺が見ておくね」
「…………」

 それもちょっと怖いけど……そのくらいなら、いいか……だって、これから旅の間、僕たちはずっとそばにいるんだから。

 だけど、リールヴェリルス様は僕に微笑んで言った。

「じゃあ、あと一回だけやって」
「え!!?? も、もう許してくれるんじゃなかったんですか!??」
「あと一回だけ。それにこれ、俺の旅の妨害にもなるよ? だって俺、今、フォルイトの顔だけ見ていたくて、旅なんか出たくなくなってるから」
「…………」

 僕が戸惑っていると、背後のクイヴィーアさんから、いい調子だよ! って言われてしまう。クイヴィーアさん、楽しんでないか!?

 リールヴェリルス様もすごく楽しそうに僕を見下ろしているし……もう、こうなったらヤケクソだ!!

「わ、分かりましたっ……! や、約束ですよ!???」
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