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5.なんで僕ってこんなに抜けてるんだ……

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 城の中は静かだったけど、門や庭の辺りは騒がしい。外に客人が集まり始めているんだろう。

 今なら城の中を歩いても、そんなに目立たないはずだ。みんなパーティー会場の方に夢中だから。

 リールヴェリルス様は、きっと客間だろう。
 この城には、いくつか客人のための部屋がある。婚約のためのパーティーに出る人なら、会場のそばにある一番奥にある部屋に通されるはずだ。ここからなら、そんなに遠くはない。

 とりあえず、そこに行ってみるか……誰にも見つからないように、急がなきゃ。

 周りに注意を払いながら、コソコソ走る。すると、廊下の向こう側から人が歩いてくる足音がした。

 まずい……僕が歩いているところを見られたら、ランギルヌス殿下たちに報告されてしまうかもしれない。そうなったら、一巻の終わりだ。

 とは言え、隠れるようなところはないし……

 だったら、部屋の中に逃げる!

 僕は、近くのドアに駆け寄り、中に入った。

 ひどくドキドキしている心臓の辺りを、強く掴む。

 見つかったら、何をされるか分からない……どうか、誰にも見つかりませんように!

 緊張しながらうずくまっていると、ドアの外から声がする。いつも城の警備を担っているリャクダだ。何でこんな時にあいつが来るんだ……?

 あいつは、いつも僕を馬鹿にしては、整備しておけと言って武器を投げつけてくる。なぜか僕のことを目の敵にしているんだ。

 できるだけ会いたくないのに……早くどこかに行ってくれないかな……

 リャクダは、一緒にいる警備の男と何か話しているようだった。

「……式の用意はできているのか?」
「はい。もちろんです……キディアス様は、すでに会場に入っていまして……殿下もすでに、会場へ向かわれましたよ」

 式……もう始まってるのか? まだ式が始まる時間じゃないのに。それじゃ、僕も急がなきゃっ……! リールヴェリルス様に事情を聞くなら、僕らの婚約が決定してそれが発表される前でないといけない。

 このままじゃ、間に合わなくなる!!

 焦った僕は、外の声と足音が聞こえなくなるのを待って、部屋から出た。

 廊下には、誰もいない。ここから広間まではそんなに離れていない。急がなきゃっ……!






 それから僕は、パーティーが行われるはずの広間に走った。

 パーティー会場となる広間が近づいてくると、拍手と歓声が聞こえてくる。どうやらパーティーは盛り上がっているらしい。

 広間の扉を開けると、わっと沸き立つような声がして、腰が引けてしまいそう。

 広間には、すでにたくさんの人が集まっている。
 中央では、集まった貴族たちに囲まれたランギルヌス殿下が、みんなに向かって手を振っていた。キディアスがその隣に寄り添っている。そして、その近くで、レグッラが客たちと握手をしていた。

 きっと、ランギルヌス殿下の隊長就任が発表されたんだ。
 みんな、殿下のことを祝福している。拍手の音が響いて、僕の足音も隠してくれた。

 リールヴェリルス様は、どこにいるんだろう……

 そこまで考えて、僕は、自分の体から血の気が引いていくのを感じた。

 ……僕、リールヴェリルス様の顔を知らない! どんな人なのかも……まるで分からない。

 それなのに、どうやってリールヴェリルス様を探すんだ!??

 僕の馬鹿……なんでこう、僕は抜けているんだ。
 どうしよう……パーティーの主役になる伯爵様だし、きっと着飾ったりしてるんだろうけど……

 広間の中央にいるのは、見知った人たちだけ。リールヴェリルス様らしき人はいない。

 来てないのかな……

 と、とにかく、それっぽい人を探すしかない。

 僕は、誰もが会場の中央に注目している隙に、広間の中をコソコソ歩いて回った。

 そこに集まった人はみんな、中央のランギルヌス殿下たちに注目している。殿下の演説が始まり、誰もがそれに耳を傾けていた。

 そんな和やかな空気の中、キディアスが声を上げる。

「皆さん! そろそろ、もう一人の主役が到着する時間です!!」

 もう一人の主役……? リールヴェリルス様のことか?

 ……もうそろそろ到着ってことは、リールヴェリルス様は、まだここにはついていないのか? パーティーが始まるなら、もうここに来ているんだと思ったのに。

 しまった……客間に向かっていればよかった。しかも、これからリールヴェリルス様がここに入ってくるんじゃ、もう手遅れじゃないか!!

 どうしよう……もう手はないのか?

 僕が焦っている間も、パーティーは進んでいく。

 レグッラが笑いながらキディアスを止めた。

「キディアス……あれのことは忘れよう……あんなものをここで披露することは、皆さんに対しても失礼だ。もう少し、この楽しい宴を楽しんでからでいいんじゃないか?」
「待ってください……それでは、フォルイト様がかわいそうではありませんか。彼だって、このパーティーのために、着飾ってくるはずです」

 急に僕の話が始まって、僕はビクッと震えた。

 キディアスは、広間に集まった奴らに向き直る。

「みなさん、私ばかり祝っていただいては、心苦しいのです!! フォルイト様の婚約の発表もあるのですから!」

 けれど、それを聞いていた人から返ってくるのは、どこか嘲るような、冷たい笑みばかり。

 観客の間から、ヒソヒソと侮蔑の声が聞こえた。

「あの醜い婚約者のことか? なぜそんなものを祝わなくてはならないんだ?」
「あんなものと婚約させられるなんて、リールヴェリルス様も、お可哀想に……」
「竜族などに肩入れするからだ……」

 嘲笑い囁くその声を聞いていると、ひどく腹が立った。
 僕のことはともかく、僕をあてがわれた人のことまで罵しることないじゃないか。

 ランギルヌス殿下がキディアスに微笑んだ。

「あんな醜い花嫁と狂った伯爵を気にかけるなど……キディアスは相変わらず優しすぎるな……」
「ランギルヌス殿下……狂った下郎だなんて……どれだけ訳の分からない方でも、そんな言い方はあんまりです…………そんなどうしようもないものでも、上手に使って差し上げることが、王としての役割ではありませんか」

 すると、レグッラも諦めたように言った。

「殿下。早く済ませましょう。せっかくの宴です。酒が不味くなるような余興は、すぐに終わらせるべきです!」
「ああ…………そうだな……」

 そう彼らが話すたびに、会場は笑いに包まれていた。けれどすぐに、その声は消えていく。

 誰もが、会場の入り口の方に振り向いていた。それまでざわざわしていたのに、急に静かになっていく。

 みんなが振り向いた入り口の方に、僕も振り向いた。

 広間の扉を開けて立っていたのは、背の高い男だった。長い金髪が、黒いローブにかかっていて、なんだか気だるげに見える。あまり乗り気ではないのか、少し不機嫌そうな目をして、その男は中に入ってきた。

 ……もしかして、あの人が、リールヴェリルス様……?

 なんだか見惚れてしまいそう。物腰が柔らかくて、その目だけで、力が抜けちゃいそうなくらい、綺麗な人だ。
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