2 / 6
2.僕は敵ではありませんよ!?
しおりを挟む僕は、訓練場の端をコソコソ走って、王子殿下に近づこうとした。
だけど、そんな風に走っていたから賊と間違えられたのか、魔法の弾が飛んでくる。
嘘だろっ……僕は敵じゃないぞ!!
持っていた剣を抜いて、その弾を弾き飛ばす。
危ないな……あんなの当たったら僕の腹に穴が空いていたかもしれない。
だけど、これで剣の威力を確かめることはできた。これなら、魔物討伐の役に立てるだろう。
僕は、王子の方に振り向いた。
すると、さっきまで賑やかだった訓練場はしんと静まり返り、そこにいた全員が僕に振り向いている。
…………嘘だろ…………注目を集めてしまった……こんなつもりじゃなかったのに……こっそり渡してさっさと帰る予定だったのに!
全員の視線を浴びて、嫌な汗が流れてくる。動悸まで早くなるのが分かった。
……早く剣を渡して、武器庫に戻ろう……!
僕は、苦手な笑顔を死ぬ気で作って、顔を上げた。
「あ、あのっ……ら、ランギルヌス第二王子殿下!! ぶ、武器っ……魔物討伐に行くための武器をっ…………武器をお持ちしましたっ!」
必要以上に張り上げた声が、訓練場に響いた。自分の声なのに、ますます気分が悪くなりそうだ。殿下も、部隊の魔法使いたちも、みんなこっちを見ている。
……来るんじゃなかった…………誰も僕なんか歓迎してない。
周囲の視線を浴びながら、王子に駆け寄り、殿下の前に跪いて剣を差し出す。
けれど、王子殿下は受け取ってくれない。代わりに、ひどく敵意を含んだ声で言われた。
「……フォルイト……なぜ武器庫から出てきた……」
「……剣を……お届けに来ただけでございます……すぐに武器庫に戻ります」
けれど、跪く僕の顔を王子は蹴り飛ばす。
衝撃に耐えきれず、僕は地面に倒れた。
いった…………
見上げたランギルヌス殿下は、僕を恐ろしい目で睨んでいた。
「フォルイト……貴様は武器の整備もせず、こんなところで何をしている?」
「…………ですから、武器を届けに来ただけでございます……すぐに戻ります」
「今日は討伐には行かない!! そう話しただろう!」
「え!? きっ……聞いて……おりません…………」
「それは貴様が聞いてなかったと言うことだな?」
「…………」
違う。僕は、そんなこと本当に聞いていなかった。
だけど、そう言おうとすると、ひどく気分が悪くなった。いつもそんなことを言うたびに、口答えをするなと言われて罰を受けてきた。もう、反論することが苦しい。
黙りたくもないのに黙る僕に、殿下は怒りに満ちた顔で言った。
「やはり貴様……討伐隊への嫌がらせのために、武器の手入れを怠っただろう!」
「……ぼ、僕はっ…………!」
言いかけて顔を上げて、そこで口をつぐんだ。
そこにいる全員が僕に振り向いている。取り囲まれた気分だった。
「…………あ、あの…………ぼくは、その……怠ったり……してません…………」
言いながらも、僕の声は震えていた。こうして怒鳴られるのはいつものことで、僕がどれだけ言い訳をしても、誰も聞いてくれない。
それは今回もそうだったようで、王子殿下は、部隊で回復を担っている魔法使いのキディアスを抱き寄せて言う。
「お前がそんな風にサボっていたせいで、今日は討伐隊に負傷者が出たんだ! 見てみろ!! キディアスのこの傷を!!」
殿下が言うと、キディアスは、いいのですと言って、ランギルヌスを止める。
「……ランギルヌス殿下……私のことは……いいのです。私も、悪かったのです。不注意でしたから……」
そう言って、キディアスは目を伏せる。彼は、回復の魔法が得意な魔法使いで、攻撃の魔法が得意なランギルヌス殿下をいつも支えている。その腕に、服に隠れて包帯が巻かれているのが見えた。
僕のせいで……キディアスが怪我をした? そんなはずないっ……! 朝、ちゃんと全部確認したのに……っ!
「あっ……あのっ…………! ほ、本当に申し訳ございませんっ……今、回復の薬をっ……!」
「結構です!!」
そう言って僕を制止したキディアスは、俯いて言う。
「…………私のことは、いいのです……ですからどうか、ランギルヌス殿下。彼を叱らないであげてください。彼だって、悪気はなかったのです」
そう言って彼は泣き出してしまう。その顔を見ると、とんでもないことをしでかしてしまったのだと思った。
謝ろうと思った僕がキディアスに振り向くと、彼は真っ青な顔をして、ランギルヌス様の背後に隠れてしまう。
代わりに、殿下が言った。
「お前の道具がちゃんと動かなかったから、俺はキディアスを守る結界を張れなかったんだ。キディアスはパーティを癒す、いわば討伐隊の要だというのに……それはお前も知っているだろう!」
「はい……でっ……でも、僕はちゃんと準備をしました!! な、なんでそうなったのか……僕にも分からなくて……」
言い訳を続けていると、さらにランギルヌス殿下は僕の前で拳を振り上げる。それを、キディアスが止めていた。
「ランギルヌス様……! どうか、やめてください。私はいいのです。私の不注意でもあったのですし……でも、もう少しだけ気を付けていただければ、私も避けることができたのですが……」
「キディアス……お前は、優しすぎる。こんな男には、罰を与えなければならない!」
ランギルヌスは睨みつけて言った。
「フォルイト……討伐隊に所属しながら、魔物退治にも行けない役立たずめ…………お前のような役立たずがいるから、討伐隊の全員が迷惑しているのだ」
「…………」
「何をしている?」
「……え?」
「早く出て行け。目障りだ」
「…………はい」
僕は、剣を置いて、その場を去ろうとしたが、背後から、それを鞘ごと投げつけられてしまう。
振り向くと、王子殿下は冷たく言った。
「魔物退治には行かないと言っただろう。そんなもの、もう必要ない! ついでに貴様にも、ここを出て行ってもらう」
「え…………?」
「貴様と同様、役立たずなその剣を持って、とっとと失せろ。貴様はクビだ」
冷たく言う殿下に同調するように、部隊の人たちまで笑い出す。
僕が出ていくことが嬉しいのか……?
いつのまにか、僕は下唇を噛んでいて、それが切れている。けれど、痛みは感じない。
僕は、投げつけられて地面で泥だらけになった剣を抱き上げて、その場を逃げ出した。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
王子様の愛が重たくて頭が痛い。
しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」
前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー
距離感がバグってる男の子たちのお話。
とある空き巣がヤンデレイケメンに捕まる話♡
もものみ
BL
【あほえろの創作BLです】
攻めがヤンデレです。
エロパートは長い割りにエロくないかもしれません。
ネタバレ有りの人物紹介
(自分の中のイメージを壊したくない方は読まないで下さい)
↓
↓
↓
↓
↓
小鳥遊 鈴也(たかなし すずや)
身長165cmの小柄な空き巣。見た目は中の上くらい。家事が得意で、特に料理が趣味。自分が作った料理を食べて人が幸せそうな顔になるのを見るのが好きで、プロを目指していたが叶わなかった。現在もひとり腕を磨き続けていたが、腕前を披露する機会がなく、実は理に料理を食べてもらえて嬉しかった。
空き巣の間では結構名が知られており、金持ちしか狙わないがどんな豪邸やマンションでも盗みに入る『すずや』は一部ゴロツキからダークヒーロー的な人気がある。しかし毎回単独での犯行で、誰も素顔は知らない。実は現場近くでファンのゴロツキともすれ違っているが小柄すぎてバレない。そのためゴロツキたちはどこからか流れてくる噂で犯行を知る。最低でも3ヶ月に1回は噂が流れてきたのに突然噂が流れてこなくなり、落ち込むゴロツキも少なくはなかった。
三鷹 理(みたか おさむ)
身長182cmで27歳のIT会社社長。高身長高学歴高収入のハイスペックイケメン。学生時代に株に手を出しそれで手に入れた資金を元手に会社を創設。街中で見かけた鈴也に一目惚れして鈴也に執着し、じっくりと罠を張ってついに捕まえることに成功する。金や名声にそこまで興味はなかったのだが、鈴也を捕まえるためにも鈴也の罪を無かったことにするのにも結構役立ったので会社を創ったことに関しても満足している。
見た目は優男風のイケメンで物腰も柔らかいが時折猛禽類のような鋭い目つきをする。能ある鷹は爪を隠すタイプ。
鈴也に対しては基本的には甘々だが、ややSっ気があり、からかって鈴也の反応を楽しんでいるところがある。
小鳥遊と三鷹、なので各所に鳥をイメージした言葉を散りばめました。鷹に捕まって遊べなくなった鳥籠の小鳥はこれからどうなるのでしょう。甘やかされて幸せに過ごすのでしょうね。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
嫌われ者の僕
みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。
※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる